第2話 俊弘、勇気の告白

仙台から家に帰った俺を

 待ち受けていたのは瑠璃さんからの

 ハガキだけでは無かった。

「一貴、お前が居ない時に病院から電話が有ってね、

 総合病院で腎臓の一部を取る検査をするから

 また入院になるんだって」

「え?二ヶ月近くも入院させて 

 何を調べていたんだよ」

「母さんに聞かれても分からないけど、

 何だろうね?」

確かに町の病院を退院する時に医者からは

 何の説明も無く薬も出されて無い。

 いったい何を検査していたのか、

 何だったのか?

 (ただの骨休めでもさせていたのか…)

そして俺は二学期の始業式に出る事無く

 総合病院に直ぐに入院した。

 一通りの検査をした後、

 入院から10日程経って腎臓の一部組織を

 取る手術が行われた。

 検査結果と術後の回復などで、

 一週間が過ぎた。

 検査結果は腎臓が炎症を起こしている、

 今後の食生活、中でも塩分摂取、

 タンパク質の摂取に注意する事、

 なるべく疲れ無い様に注意し

 風邪は拗らせない様に。

 こんな感じの説明だった。

3週間程で退院して登校を再開した。

 とは言うものの、

 三か月も学校に来なければ、

 学校も人も物も、

 何もかもが違う風景に映る。

 皆は俺の事を三か月の入院で

 勉強から解放されたと羨ましがっていたが、

 本当はそれを気にしなければいけない事は

 自分でも十分に分かってはいた。

 何故なら受験生だからだ。

 そんな俺の焦りを気に留める事無く、

 能天気な俊弘が駆け寄って来た。

「やっと一貴と一緒の生活が戻った、

 学校祭に間に合ったな。

 それにしても長かったよなー、

 マジでどうなるかと心配したわ」

「そうだろう、俺もヤバいと思っていた」

「何にしても良かった。

 勉強は如何にかなるだろうから、

 残りの中学校生活を楽しもうな」

「勉強か…

 如何にかなる様な休みじゃないけど、

 今更嘆いても始まらないよな、

 成る様になるか?」

「そうだ一貴、気にしても仕方ない

 少しずつやれよ」

(こいつ、人事だと思いやがって適当だな…)

「そう言えば俊弘、俺が入院している時に

 一度だけ由美香が病院に来たわ、

 俊弘から聞いたと言ってな」

「そうなのか、俺には病院に行ったとも

 言ってなかったな…」

「俊弘に言われたから来たんだろう、

 直ぐに帰ったから」

「そうか、一貴もビックリしただろう!

 綺麗になっていて」

「うーん…、俺には特に変わった様には

 見えなかったけどな…」

「そうかな…、俺の気のせいかな?」

「それじゃあC組に行ってみるか?

 俊弘の気のせいだと俺は思うけどなぁ…」

「由美香~、退院したぞー」

「一貴君。元気そうだけど治ったの?」

「分からないけど、

 退院しても良いと言われたから、

 もう良いんじゃないの。

 見舞ありがとうね」

「私は一度、顔を見に行っただけだから…」

「そうだよ一貴。

 毎日、見舞いに行っていた俺には

 ありがとうも無いのかよ。

 寂しいだろうが」

「そうか忘れていたわ、毎日の様に

 顔を見ていたから」

「これだよ。

 酷いよな、

 由美香もそう思うだろう…」

「そうだね、一貴君には人の気持ちなんか

 分からないんだよ。

 もう一度、入院させた方がいいよ」

「やっぱ、由美香は悪魔だ。

 俊弘戻るぞー、

 また入院させられたら、たまらないから」

「そうか、それじゃまたな~由美香」

「またね俊弘君、その天邪鬼を頼むねー」

「おう、任せて置け」

この時の俺は由美香の性格に問題がある、

 嫌な女だと思っていた。

 俊弘が由美香の事を好きだと知っても、

 特に自分の中では何も変わらなかった。

 恐らく中学に入学し直ぐに

 ハイキューを始め、

 部活以外に力を注ぐ余裕が

 無かったからだろう、

 学校から帰ると晩御飯を食べるよりも

 先にベッドに倒れ込み

 寝てしまっていたから。

 そんなんだから俊弘が

 由美香に告白すると言った時も、

 俺は他人事の様に気にもしていなかった。

 そして、その俊弘の告白は学校祭の

 終わりの日に決行された。

「一貴、俺なぁ。やっぱ、由美香の事が

 好きなんだわー、今日のフォークダンスで  

 由美香と手を繋いだ時マジで滅茶苦茶、

 意識して顔がひきつって、

 きっと歪んだ顔で由美香を見ていたと

 思うわ。

 やばいなぁ化け物に見えていたら?」

「良いんじゃないの、

 由美香も悪魔みたいなものだからさ、

 化け物と悪魔で丁度良いって」

「そうか?大丈夫か?」

「ああ、心配しなくても大丈夫だ、頑張れ」

「一貴、俺なぁ、

 今日こそ由美香に告白するよ。

 だから悪いけど今日は一人で

 帰ってくれないか」

「ああ、分かったけど随分と急ぐんだな?

 まぁ頑張れよ」

そう言って放課後、俊弘と学校で分かれて

 俺は家に帰った。

 次の日、学校に着き教室に入るなり、

 俊弘が近寄って来た。

「一貴…、ふられたわ。

 緊張のせいか俺フォークダンスの時、

 相当顔が歪んでいたのかな?」

「どうしてふられた?

 まさか由美香にフォークダンスの時、

 化け物に見えたとでも言われたのか?」

「そうは言われなかった。

 そう言われたら俺、

 今日は学校に来られないだろう、

 マジで二ヶ月ぐらい入院するかもな」

「面白い事いうね、そんなに面白い事を

 言うのにふられたのか?」

「何でもな由美香、小学校の五年生から

 ずーと好きな人がいるんだとさ、

 そんなに長く思う人がいるのに

 俺が入る隙間なんて無いよな…」

「へーぇそうなんだ。

 由美香もそんな好きな人がいるなら、

 思い切って告白すればいいのに…。

 女子は難しいね、サッパリわからんわー」

「本当だよな、俺も由美香に、

 じゃあ俺は由美香を諦めるから

 頑張れとエールを送って来た。

 由美香もありがとうだって、

 そしてタイミングを見て、

 その人に自分の思いを伝えると

 言っていた。

 こんな感じだ、おしまい。

 あーぁ疲れるわ、

 俺の恋はイチョウの葉の様に

 色づいて散った」

「俊弘、お前さん随分と文才あるな。

 卒業文集の最優秀賞候補だわ」

「一貴、今の俺は何を褒められても

 喜べ無いんだ、

 すまんけど静かにしていてくれ」

「そうか、分かった」

「……?…、おーい、本当に黙るのかよ」

「何でだよ、静かにしてくれと言ったろう」

「そうだけど極端すぎないか?

 少しずつ静かにすれよ」

「お前も難しいことを言うなー、

 良いから静かにしていろよ」

「何だよ友達が落ち込んでいるのに…」

「一人の女の子にふられたぐらいで

 落ち込むからだよ、

 男ならそんな事ぐらい直ぐに切り替えろよ」

「…分かったよ」

退院後の俺はと言うと、

 ハイキューの不完全燃焼が原因なのか?

 それとも長期入院により

 堕落してしまったのか分からないが、

 登校時間が昼になる事が多くなっていた。

 勿論、体調の変化も考えられるけど、

 スポーツマンはそんなことのせいにはしない、

 やはりダラケテいるのだろう。

 そんな俺を廊下で見つけ、

 顧問の横田先生が声を掛けて来た。

「橘、無理しない程度、

 出来る範囲で後輩の練習を見てくれ」

「先生、俺が練習に顔を出したら新チーム

 やりづらく無いですか」

「二年生も、真面目に取り組んでいた

 お前だから頼れるんだろうが」

「分かりました。

 先生、ありがとう御座います」

「頼むぞ橘」

恐らく横田先生は俺の担任から

 生活の乱れを聞いていたのだろう、

(もしかすると職員室内で俺の事を

 問題視しているのか?)

 早速、後輩の練習を見て行く事にして、

 不良の俊弘には先に帰って貰った。

 俺は体育館へ行き、

 学年ジャージで練習に参加した。

(ダサッ、マジでダサッ)

そんな後輩との練習中に

 体育館の入り口に由美香を見た。

 言葉を交わす事は無かったが

 間違い無く由美香と目が合った、

 しかし、由美香は何も言わずに

 入り口の扉を閉め、出て行った。

 俺はそれを気にする事無く、

 六時の下校時間ギリギリまで後輩と練習をし、

 入院生活で失った中学最後の大会の憂さ晴らしを

 後輩に向けていた。

「ありがとうございました橘さん、

 身体重そうでしたけど大丈夫ですか?」

「ああ、俺の方が楽しかったよ、

 ハイキューを初めて楽しんだ様だ」

「大分、飛べてませんでしたし滞空時間も」

「そうだな、バスケリングまで

 飛べんかったは。

 身体は大丈夫だから心配するな、

 またお邪魔するわ」

「はい、ありがとうございました。

 じゃあ気を付けて」

「おう」

そんな新キャプテンの中田との会話を終え

 教室に戻り、

 息を切らしながら、

 そそくさに制服に着替え鞄を持ち、

 外履きを履き生徒玄関を出た。

 そしてグラウンド横を歩き校舎を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る