第25話 3人での初戦闘
しばらくダンジョン内部を3人で進む。警戒や緊張はしているけれども、3人とも気楽な様子で奥に向かっている。フレデリカさんたちは、ダンジョン探索や戦いには慣れている様子。頼もしい人たちだった。
「2人とも、止まって」
僕の指示に、2人が瞬時に足を止める。シモーネさんは鋭い視線で周囲を警戒し、フレデリカさんは僕の方に、どうしたのかと視線を向けてくる。既に臨戦態勢だ。
探索魔法に反応があった。反応のあった方向に視線を向けつつ指を差すとそこに、薄暗がりから駆けてくるモンスターのものと思われる足音が聞こえてきた。まだ何も見えないが、奥の方から近づいてくる何か。フレデリカさんは、コクリと頷いた。
「前方に何かいます。おそらくモンスターですが、一匹コチラに接近。モンスターの姿を確認してから、攻撃に移りましょう。戦闘態勢で」
「了解」
「わかったわ」
魔法で探った情報を2人に報告して共有する。フレデリカさんが大剣をしっかりと構えて備えた。シモーネさんは弓を構えて、矢筒から無限矢を一本取り出して狙いをつける準備をする。僕が指示を出すと、2人は素直に従ってくれた。動きやすいな、と思った。そして僕も、魔法を放つために杖を振り上げる。
「見えたぞ! アーリーウルフが一匹だ、私が先に!」
「いえ! 魔法で援護します、その後に攻撃を!」
「分かった!」
フレデリカさんが声を上げながら剣を振り上げて突っ込もうとしたので、その前に僕が割り込む形で魔法による攻撃を行う。彼女の勢いを邪魔してしまうかもしれないが、まずは最初に一撃を与えておきたかった。
目の前に現れたモンスターの名は、アーリーウルフ。体長が100センチもある、大きなオオカミ型のモンスター。四本脚を上手く使って、素早く地上を駆ける。
アーリーウルフは素早い動きで翻弄してくるので、剣や弓では捉えるのが難しい。倒すのが少し面倒なモンスターだと言われている。
後方から、フレデリカさんを援護するために炎で創りだした矢“ファイヤアロー”を1本モンスターに向けて発射した。敵の動きを止めたい。
威力よりも攻撃のスピードを重視した魔法で、狙いを適当に定めて放つ。魔法の矢は、ビュンと飛んだ。バシュンと当たる音。
アーリーウルフの身体に当って動きを止めた! フレデリカさんが攻撃してくれるだろうから、僕は次の行動に移ろう。シモーネさんもタイミングを見て援護をする。そう思っていたら、アーリーウルフは光の粒になって消えてしまった。
「あ」
「え?」
「あれ?」
思わぬ結果に、声が漏れていた。3人の動きも止まる。
「えーっと……」
ダンジョン内部に生息するモンスターは、生命力が失うと死体になるのではなく、光の粒子になって消失する。倒れると光の粒子になり、薄くなって消えていく。
その瞬間に、ドロップが発生すれば空間からアイテムが出現するという仕組みだ。どういう原理でそうなっているのか分からないが、ダンジョン内では当たり前の現象だった。これもまだ解明されていない、ダンジョンの謎の1つである。
ダンジョンの中では、モンスターの死体が転がっているところを見ることはない。そして、ダンジョン内にいるモンスターが倒されると別のどこかで復活をして、またダンジョンの中をさまよい歩く。
動きを止める目的で放ったファイヤアローに当たったアーリーウルフは、光の粒になって消えていった。ということは……。
フレデリカさんが、剣を振り上げた状態で顔をコチラに向けてくる。気合を入れて突っ込んでいったフレデリカさんの顔は真っ赤になっていた。とても恥ずかしそうな表情をしている。
「えっと……、魔法は詳しくないし分からんのだが、すごく強力な魔法だな!」
「ごめんなさい。手柄を奪ってしまって」
「良いんだよ! 私達はチームなんだから、無傷で敵を倒せたから大勝利だ」
大剣を振り下ろして、彼女は頬をかきながら僕とシモーネさんの元へ戻ってきた。初戦闘から、申し訳ないことをしてしまったな。まさか、一撃で倒してしまうとは。
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