第19話 魔法の技術

「こんな感じで、僕は魔法を使えるんですよ」

「へ?」「え?」


 目を見開き驚く2人の前で、簡単な魔法を披露してみせた。


 魔力を変換して、小さな炎を発現させる。これが魔法だ。拳サイズの炎をぐるぐる回転させたり、左右に素早く移動させてみせたり。


 僕にとって呼吸するのと同じぐらい、魔力の操作には慣れていた。


 戦闘だと、さらに多くの魔力を注ぎ込んで炎の威力を高めてから相手にぶつける。魔力を他の現象に変換して、敵を凍らせたり、痺れさせたり。それ以外にも、魔力は無数に応用がきく。この能力で、戦闘でも活躍できるはずだ。


「そんなに簡単に魔法が使えてる!? 凄いじゃないか!」

「確かに凄い。男の人って、魔力の操作が得意な人が多いって聞いたことがあるわ。その話って、本当だったのね」

「まぁ、珍しいと思いますよ」


 フレデリカさんは純粋に驚いて、シモーネさんも驚きながら言う。彼女の言う通り確かに、女性に比べると男性の方が魔力の操作に慣れるのが少しだけ早い。しかし、魔法を習得している男性は少なかった。労力をかけて覚える必要なんて無いから。


 魔法を使えなくとも過保護にされ生きていけるし、戦いに使用するような力を手に入れることを毛嫌いする男も多い。なので実際には、魔法を扱える男性は少ない。


「でも、そんな特技があるのならダンジョンに稼ぎに潜るよりも魔法を使えることを活かして、冒険者以外の仕事をしたほうが安全だし簡単だと思うのだけれど?」


 またまたシモーネさんの言う通り、男性の魔法使いというのは一定の需要がある。探そうと思えばすぐ、雇ってくれるところは見つかると思う。わざわざダンジョンに潜って、モンスターと戦うような死の危険に挑む必要の無い仕事に就くことも出来るだろう。


 だけど僕は出来るだけすぐに、そして後腐れなくお金稼ぎをしたいと考えていた。定職に就くと、またしばらく王国で生活しなければならない可能性が高くなる。またクビにされて、急に放り出される可能性も。


 だから自分で行動を決めることが出来る、自由な冒険者のほうが都合が良かった。旅費がゲットできれば、この地を旅立つ予定だったからね。


「そういえば、この王国には有名な魔法の研究所があるだろう? 自由自在に魔法が使えるエリオットなら、雇ってもらえるんじゃないのかな?」

「あぁ……。うーん」


 名案を思いついたという風に、フレデリカさんは笑顔を輝かせて提案してくれる。僕は苦笑を浮かべた。結局、その話になってしまったか。


 それなら彼女たちに話しておこう。クビにされた話なら、そんなに重要というわけでもない。機密情報には含まれないだろうから。


「実は僕、フレデリカさんの言う魔法研究所に所属していた研究員だったんですよ。けど、ついさっきクビにされちゃいまして」

「え? あ、その、そうだったんだ。……えーっと、ごめん」

「ちょ、ちょっと姉さん……」


 フレデリカさんは僕の言葉を聞くと、気まずそうな表情を浮かべていた。そして、何度も頭を下げて謝られた。僕にとって、研究所をクビにされてしまったのは深刻な話じゃなかった。そんなに謝られてしまうと逆に困ってしまう。


「いえ、全然気にしてないですよ。クビになったからといっても、生きていくのには困っていませんから。魔法の研究も好きなように自由にさせてもらいましたからね。それに向こうから辞めるようにと言われたのは、丁度良いキッカケになったと思っていますからね」


 本当に今回の件については、良いキッカケとして捉えている。クビにされたことで新たな出会いもあった。だから結果的には、プラスだと思っている。

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