第8話 過去の冒険者証明書
久しぶりのダンジョン探索だから失敗しないように。怪我したり、価値あるものと間違えてガラクタを地上に持ち帰ってきたりしない。
まずは弱めのモンスターと戦いつつ、戦闘していた頃の勘を取り戻す。最近ずっと部屋の中にこもりっきりだったので、身体の準備運動も兼ねて。
旅するための金を稼ぐ、という目的が果たせなければ町に戻ってこよう。その時にまた、別のダンジョンを探索して稼げるだろう。ダンジョン以外で、冒険者としての依頼を引き受けて報酬を受け取ることも可能。お金を稼ぐ方法は、いくらでもあく。
とりあえずは、リーヴァダンジョンから攻略していこう。
「それじゃあ、そのダンジョンを。……リーヴァというダンジョンに入場しても良いという許可を頂きたいです」
「はい、了解しました。そちらのダンジョンなら、すぐに許可証を発行できますよ。それでは、冒険者証明書の提示を願います」
「はい。お願いします」
魔法を使って、収納空間の中から久しぶりに取り出してきたのは冒険者の証明書。僕はカウンターの影に右手を隠しながらそっと動かして、目の前の彼女には見えない位置から証明書を取り出した。それを彼女に渡して、確認してもらう。
「え?」
僕が手渡した冒険者証明証を確認した受付の女性は、何故かまた困惑している。
それから、微妙な表情を浮かべている受付の女性。手元にある僕の冒険者証明書を見ながら眉をひそめている。また何か、問題があったのか。
「どうしました? また、何か問題でもありました?」
「……え、いつの時代の冒険者証明書なの? かなり古い物っぽいけど、なんで? あ、エルフの人なのか……」
声を掛けたというのに無視されてしまう。僕から冒険証明書を受け取った彼女は、ブツブツと小声で呟きながら証明書の上から下へ視線を向けて、チェックしている。
近くから聞こえてくる小声。どうやら僕の提示した冒険者証明書は、かなり古い物だったらしい。確かにアレを取得したのは、だいぶ昔の事だから仕方ないのかな。
「えっ!?」
「ん?」
僕の冒険者証明書を確認していたのに突然、大きな声を上げる受付の女性。証明書を確認していた彼女の動きが突然止まって、一点をジッと凝視していた。
かなり長い時間そのままだったので、不安になって思わず僕は尋ねる。
「あの。まだ何か問題ありましたか?」
「あ、い、いえ。あの、あ、あのコレ? 本当ですか? 間違ってません?」
なんだかとっても慌てた様子で彼女が震える指で証明書を差す先に、性別の欄には男性と書かれている項目があった。
あ、そう言えば。
僕は思い出す。当時、冒険者証明証を取得する時にもちょっとした騒動になった、性別の問題について。
この世界、なぜか男の数が非常に少ない。人間だけではなく、他の種族についても男性は希少だった。そんな中でもエルフの男は、特に希少だと言われている。
エルフの男が戦いに出ることは、とても珍しいこと。戦いなんて危ないから。でも僕は冒険者の証明証が欲しかった。
当時のギルド長と、数人の担当受付にだけに性別を明かして許可してもらったのを、さっき思い出した。
「あぁ、それなら本当ですよ? ほら、証明書に嘘はありません」
僕は、男性であることを手っ取り早く証明するために被っていたフードを少しだけ外して、顔がよく見えるようにした。
女顔のようにも見えるが、ちゃんと見てもらえれば男だと分かる素顔。
「え、えぇ!? お、男の人ッ!? あ、あわわわわッ……!?」
「あっ!」
僕の素顔を目にした瞬間に女性は慌てふためいて、バタンと椅子ごと後ろに倒れてしまった。その光景を目にして、思わずつぶやいた。
「マズイ、またやってしまった……」
久しぶりに魔法研究所の外に出てきた僕は、出会ったばかりの女性に対して昔からの癖でつい自分が男だという事を簡単に明かしてしまった。これをやってしまうと、いつも面倒なことになる。
男性に慣れていないような女性には、事前に説明して気構えてもらってから性別について明かさないと今のように驚かせてしまう事をすっかり忘れていた。
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