二十四話 変化

 半年が経った後の、或る秋空のころである。街灯が睡蓮花のように淡く明った街路に夕立が忙しく降っていて、青年はそこを向井との待ち合わせのために同様に忙しく歩んでいた。

 時の満ち引きの恐ろしさというべきか、それとも青年の意思の薄弱さと評すべきか、六ヶ月という月日は青年を大きく変えた。

 あれほどの死への固執はいつしか薄く軟い、ぼんやりとしたものとなって、しかしそれでも悠々と道を行けるような図々しさを青年は手に入れた。それは決して重大な事件に出会したというものではなく、いや寧ろ凡庸な日常の中で育まれたものだった。

 伊達の死が無念に終わったというやるせない感情よりも、順序よく組み立てられた事件として青年のうちに色濃く処理されて、そうであるなら、彼にとって一大事なのは、あの薬が彼の身体に作用しなかった事実であった。そうして青年は自殺というものの不確実性を認知して、さらにあろうことかそれに悩むことなく日常に埋没したのである。

 何が彼をこうも落ちぶれさせたのか、それはわからない。それは五ヶ月前に向井と和解したことかもしれないし、四ヶ月前に久方ぶりに大学に通い、それなりの多忙がやってきたことかもしれない。もしくは、それより前の、延々と続くような思索に感じた、若干の嫌気によるものかもしれない。

 兎も角、青年は変わり、彼の存在と死との間に掛かっていた橋は靄がかかったようだった。そして先の女が残した問いも、青年にとってはもうどちらでも良い類になった。彼が美しかろうがそうでなかろうが、もしくはその根源が何であろうが、彼は半年ものあいだ生きてしまったのである。そしてある程度の交流とそれなりの多忙を掴んでしまった。青年はただ怠惰にそれらに胡座をかいていた。

 

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