第5節② ゆうしゃと旅人

「カール、ついてきなさい!」

「今日は何をするの?」

「川から町に引かれた水路があるでしょ? 水が減ったなって見に来たら横穴を見つけたのよ。今までは水の中に隠れていたんだわ! しかも、ちゃんと補強されてるの! これは絶対に何かあるわ!」


 クリスタがズボンを履いて、ランタンを持ってる理由がわかった。でも、行きたいとは思えない。見つかったら絶対に怒られるやつだ。


「え、水に浸かるのは嫌だよ」

「嫌ならいいわ。わたし一人で行くから」

「待ってよ。僕も行くから!」

 

 足早に町外れに向かうクリスタを追いかけていたら、あのお屋敷が見えた。

 忘れていたけど、ギルはどうしたんだろう?

 門から見えるお屋敷は、前来た時と何も変わっていない。ここにはギルも、ギルの友達もいないのに、お屋敷だけが残っている。なんか、寂しい。


「何よ! あんたたち! わたしは領主の娘よ! 乱暴したらただじゃすまないわよ!」


 少し目を離した間にクリスタが怪しい三人組に囲まれていた。間違いなく悪党だ。


「俺たちの心配してくれるなんて、優しいお嬢ちゃんだ。優しさに免じて丁重に扱ってやろう。おい、縛りあげろ」

「兄貴、それ、丁重じゃねえよ」

「違いねえ」


 領主の娘と聞いても驚きもせずに、笑っている。こいつら、クリスタを狙っていたんだ。僕が助けないと!


「クリスタ! 目を閉じて!」


 両手いっぱいの砂を投げつけてやった。三人組が目を押さえている内にクリスタの手を引いて走る。

 どこに逃げよう? そうだ! お屋敷なら大人は入ってこられない。

 クリスタを穴に押し込んでから僕も続く。


「カール! あんたは逃げなさい!」

「クリスタは黙って! 僕について来て」


 お屋敷に入り、エントランスを駆け抜け、食堂まで来れた。

 暖炉の隠し通路を開ける。中は真っ暗で、ひんやりとした風が流れていた。


「何これ? なんでこれを知ってるの?」

「後で説明してあげるから、ここから逃げて。ランタンは落としてないよね?」


 押し込んで蓋を締めようとしたらしがみ付かれた。クリスタは今にも泣き出しそうだったから安心させてあげないと。怖いのを我慢してにっこりと笑顔をつくった。


「あんたはどうするの?」

「僕は様子を見てくる。じゃあ後でね」


 そっと手を解いて蓋を閉めた。

 クリスタ、怒るかな? 怒るだろうな。でも、たまには役に立ちたい。

 近くに転がっていた火かき棒を握りしめてエントランスに戻ると、あいつらがいた。

 僕らには高すぎる塀だけど、あいつらには障害にもなっていないなんて。


「小僧! よくもやってくれたな。娘はどこだ?」

「教えるもんか!」

「おい、痛い目にあわせてやれ。そうすりゃあ悲鳴を聞いて出てくるだろうよ」

「さすが兄貴。頭良い」

「ほら坊主、こっちに来いよ。お兄さんたちが遊んでやるぜ。遠慮するな」


 逃げまわって助けを待てばいい? でもこんな町外れじゃ誰も来てくれそうもない……

 僕を取り囲もうと広がる三人を観察していたら良い事を思いついた。一人は何とかなりそう。

 

「うわああああ!」


 叫びながら、火かき棒を振り回しながら、一番偉そうなやつに走った。


「ハッハッハ! 小僧、威勢が良いな!」


そいつは笑いながら後ろに下がって……

 腐った床板を踏み抜いて腰まで埋まった。僕は軽くて大丈夫だったけど大人を支えられるほど丈夫じゃない。

 よし! と思ったけど駄目だった。

 足を持って放り投げられ、転がって、階段の残骸に当たって、やっと止まった。

 頭がガンガンして体中が痛い。


「小賢しい真似をしやがって。痛めつけるのはなしだ。ぶっ殺してやる」


 剣を抜いたのが見えた。あんな剣で斬られたら真っ二つになる。僕は全く歯が立たなかかった。悔しいな。でも、クリスタが逃げる時間は稼げたからいいか。

 目を閉じて最後を待ったけど何時までたっても斬られない。そーっと目を開けると、振り上げられた剣はそこで止まっていた。それをしていたのはギル。悪党の腕をがっちりろ押さえ込んでいた。


「クリスタは?」

「大丈夫、だと思う」

「そうか、逃してくれたか。よくやった。後は任せてくれていい」

「てめぇ! どっから現れ――」

 ギルが腕を捻じったと思った時には、悪党は一回転して倒れていた。

 凄い……

 ギルが来てくれて安心したせいか、急に気が遠くなってきた。そして辺りは真っ暗になった。


 目が覚めたら家のベッドにいた。クリスタには泣きながらぶたれ、領主様にお礼を言われ、父さんには褒められた。でも、ちっともうれしくない。僕は何も出来なかったから。

 すぐに動けるようになったけど、誰にも会いたくなくて、こっそり家を出た。でも、行くところもなくて、下を向いて歩いていたら肩をたたかれた。

 ギルだった。


「また会ったな、小さい勇者殿」

「うわ、お酒臭い。ちょっと離れてよ。それから僕は『ゆうしゃ』じゃない。僕は何も出来なかった」

「そんなことはない。カールは私を守ってくれた。いや、私の約束を、か」


 酔って顔を朱くしたギルに、少し話そうか、と広場に連れて行かれた。

 広場から見える大人はみんな働いていて、酔ってる人なんていない。ギルは駄目な大人な気がしてきた。昨日はあんなに格好良かったのに。


「何の話をしてた? ああ、そうだ、約束の話だ。クリスタは友達の肉親でね。近くに寄ったら様子を見てやってほしいと言われていた」

「それって、お屋敷の友達?」

「そうだ。そして私はこの町にいたにも関わらず、あの子を危険にさらしてしまった。カールが守ってくれなければ本当に危ないところだったんだ。だから、ありがとう。私の約束を守ってくれて」

「でも、守ってやれなかった。守りたかった。ねえ、どうやったら強くなれる?」

「身体を鍛えればいい。簡単さ。こっちを鍛えるよりずっと」


 また胸を突かれた。

 そうなんだ。じゃあ頑張ってみようかな。そう思ったら少しだけ気が楽になった。


「う、気持ち悪くなってきた。私は宿に帰る。また会おう。小さい勇者殿」


 結局、その後は会う事もなく、ギルは町を出てしまった。でも、またねって言ったからその内、会えると思う。


 それから一月ぐらいたった頃、クリスタのお屋敷に呼び出された。よく一緒に遊ぶけど、お屋敷に入るのは久しぶりだ。


「来たわね! 見せたい物があるの。あれよ」

 

 エントランスの踊り場に絵が飾ってあった。町外れのお屋敷にあった絵。すっかり奇麗に直されていた。今は全体が良くわかる。

 中央にはクリスタそっくりの女の子。その後ろには四人。内側の二人はお父さんとお母さんかな? 左側は執事の格好をした人。そして右側には……


「どう思う? あれってお屋敷で助けてくれた人よね?」

「うん。ギルだ」


 そこにはコートを着て、つば広帽を胸に持つギルがいた。


「あの真ん中の子、わたしのおばあさんなんですって。お父様に教えてもらったわ。ということは、この絵は何十年も前に描かれたって事よね。それなのに、なんで、今と同じ顔なの?」


 なんで歳を取っていないのかはわからない。でも、わかった事もある。 

 クリスタが友達の肉親だって言っていた意味。ギルは絵の家族と友達だったんだ。きっと、この絵のために来たんだ。


「何とか言いなさいよ!」

「僕にはわからないよ。今度会った時に聞いてみよう。それまでに少しは強くなっておきたいよね」

「何言ってるの? カールは十分強いわ。でも頑張りなさい。そうすれば騎士様にだってなれるわ」


 珍しく褒められてくすぐったい。

 でも、騎士様はいいや。『ゆうしゃ』の方が格好良いから。

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