第40話ギルド新聞号外

 エルフの国エルドールを後にして、サルサーレの街に戻ってきた。


 もうすぐ昼過ぎだが、遅めの朝食だったので腹は全然減ってない。


 今日は何故か街の入り口がやたらと混んでたので、【ノールブークリエ】のクランホームに直に跳んだ。


 もちろん、【転移】がバレないように厩舎裏に出るのを忘れない。

 今ではもう俺が突然現れても、馬や牛は鳴きもせず大人しくしている。

 躾が行き届いているようだ。


 毎回こんなこそこそと忍び込むのは何とも虚しい。

 この街への【転移】先の物件を今日中に探しておこう。


 俺以外の【転移】が出来る人間を見た事が無いから、俺の【転移】魔法が団員達にバレたらどうなるかちょっと見てみたい気もする。

 いや、こんな便利な魔法を持ってる事がバレてしまったら、運搬や送迎なんかの雑務を昼夜させられるに違いない。

 やはり、物件を探そう。


 クランホームの扉を開けると、俺に気付いた銅等級ブロンズの若い男性団員が、俺を見るや否や、団長団長!と大きな声を上げドタバタ奥へ走って行った。

 そんなに慌ててどうしたんだ?


 ま、まさか、団長との情事がバレてしまい大問題に発展してるんじゃないだろうな……


 エントランスで飛び込みの営業マンの様に立ったままで悶々としていると、ソニアが姿を現した。

 白の軽い生地のTシャツ、皮のスキニーパンツを履き、紫色の少し癖のある長髪をラフに降ろしている。

 まだ、勤務前か?

 それとも、休日なのかな?


 ただでさえ短めのシャツが、更に巨乳で持ち上げられ、ウエストがチラチラ見える。

 胸元も割とザックリ空いてるので胸の谷間が見えそうだ。

 本人が全く気にしてない状況下でのナチュラルチラリズム程、興奮するものはない。

 団長の肌は俺以外に見せたらダメなのになぁ。


 それと何か女らしくなったような気がしないでもない。

 俺と目が合うとソニアが大声を上げる。


「テツオ、一体なんて事をしてくれたんだ!」


 えっ!俺は一体何をしたんだ?

 まさか、ソニアとの肉体関係の事実を、団長の体裁を守る為に全て俺一人の責任にしようって事か?

 大人は汚いよ!

 くっ、ここは素直に謝罪だ。


「誠にすいませんでした。

 私のした事は、厳しい第三者の目に委ねたいと思います」


 そう謝罪する俺に、ソニアは呆気にとられている。


「テツオ、何を言ってるんだ。

 街中は今、お前の話題で持ち切りなんだぞ」


 えー!


「そ、そんな……バ、バカな……」


 街のトップクランである【ノールブークリエ】の団長に手を出したのが、一晩でトップニュースに?

 そんなに罪に問われる事なのか?

 くっ、もう謝罪会見をするしかない。

 この世界でも全身黒のスーツでいいのだろうか?


「何を勘違いしてるのか知らんが、今朝、五人の貴族が連名で全ての犯罪行為を自供したんだ。

 そいつらは口を揃えて、テツオ様のお陰で心を入れ替えた、と言っている。

 街中、大混乱さ。

 テツオって誰だ?ってな」


 そこへ先程の銅等級ブロンズ団員が号外新聞を俺に手渡した。

 羊皮紙よりは粗悪で薄く荒い紙だが、字はちゃんと読める。

 なになに…………



 ——サルサーレ・ギルド新聞号外——


 衝撃ニュース!


ノールブークリエ】、貴族の長年にわたる犯罪摘発!


 犯罪クラン・グエンバンドルス壊滅!


 貴族に誘拐された三十六人救助!


 上流貴族・五家が数々の罪を大告白!


 銀等級シルバー登録後、一日で金等級ゴールドに昇級した【ノールブークリエ】団員テツオに貴族の爵位、資産、所有地を譲渡へ!


 テツオは何者だ?


 ——続報を待て!——



「…………」



 どうなっている?

 貴族を【洗脳】して描いた絵と展開が違うぞ?


「テツオ、金等級ゴールド昇級おめでとう。

 テツオなら金等級ゴールドも当然だと思うが、銀等級シルバーになってから僅か一日で昇級するとはな。

 恐れ入ったよ。

 どんな魔法を使ったのやら」


 ソニアは俺の顔を見ながら和かに手を叩く。

 隣の銅等級ブロンズもおめでとうございます、と言いながら手を叩いている。

 君はもう去りたまえよ。


 しかし、流石にやり過ぎたか?

 既に目立ってしまった以上、もう開き直るしかない。


「ラッキーが重なっただけですよ。

 それより俺は貴族になるつもりはありませんので。

 良かったら団長がなりませんか?

 団員の手柄は団長のモノですよ」


 ソニアはへの字口で、かぶりを振った。

 親の仇だった貴族に自分がなろうものなら親父に怒られる、と取り付く島もない。


 それでも、クランの団員が貴族になるというケースは少なからずあるようだ。

 一部の貴族がクランという戦力を確保する為に下級貴族にして召し抱えるパターンが多いという。

 クラン側も貴族が身内にいればクランの発言力は増すし、他のクランに睨みを利かせれる。

 何より貴族の後ろ盾は強力だ。

 通常、冒険者上がりがその際に賜る爵位は、大概が男爵バロンであり、世襲権はなく一代限りとなる。


 居館、兵馬、衣類、武具等が支給され、貴族院への出入りが許される。

 後は爵位に応じた街を含めた領土がプラスされる。

 もちろん金は領地に住む民の税金が収入源だ。


 地位、名声、権力を得る事、貴族に立身出世する事が、この世界での冒険者の目標の一つである。


「実はサルサーレ公がテツオを名指しで呼んでいるんだ。

 貴族にしたいのはテツオなのだろう。

 すぐに向かってほしい。

 悪いがこの街のクラン団員である以上、貴族の召喚を断る事は出来ない」


 だが、断る。

 と、つい言いたくなっちゃう強制イベント。

 こういうのやる気無くすんだよねぇ。


 しかし、ソニアの顔に泥を塗る訳にはいかない。


「あと、金等級ゴールド昇級の手続きにギルドへ行くのも忘れないようにな。

 それと遅くなったが、うちの館にテツオの部屋を用意したから自由に使ってくれ。

 銀等級シルバーの個室で悪いが、場所は私の部屋の前だ」


 ソニアの目から不思議な圧を感じるが、隣の坊やは気付いてないようだ。


 銀等級シルバーは館内に個室が一つ与えられるが、金等級ゴールドは敷地内に家屋を建てれるようだ。

 ちなみに銅等級ブロンズは四人一部屋で使用しなくてはいけない。

 それでも、家が無い団員にはありがたいだろう。


 ホームに家を建てて、ソニアや可愛い団員を呼び込むのも楽しそうだなぁ。

 む、部屋に若い団員を連れ込まない為に部屋の場所をわざと執務室の前にしたのやも?

 今度、是非聞いてみたい。


 とりあえず、今後クランホームの【転移】先に俺の個室を使っていこう。


「じゃあ、行ってきます」


 結局、玄関に入っただけで、すぐ出発になってしまった。

 ソニアが新妻の様に世話を焼いて見送ってくれるのが嬉しい。

 行ってきますのチュウがしたい。


 だが、横にはまだ銅等級ブロンズ団員が立っている。

 君も俺を見送る気?

 本当に君いつまでここにいるのよ。


「君、名前は?」


「わ、私ですか?名前はフートであります!」


 茶色い刈り上げ頭で可愛い顔をした細マッチョ坊やだが、空気が読めないお邪魔虫は世の中渡っていけないぞ?


「覚えておこう」


 ありがとうございます!という大きい返事を背中に受けながらクランホームを出た。

 向かうはサルサーレ公爵とやらが住む城だ。


 どんな奴が貴族を野放しにしていたのか、じっくり厳しい第三者の目で精査してやるとしよう。


 ——サルサーレ城下街


 乗り気じゃないのもあり、気分転換に商店街を歩きながら城へ向かう事にした。


 そういえば一人でここを歩くのは初めてだ。

 相変わらずの人だかりで活気がある。

 何となく前に来た時より人々の笑顔が多い気がする。


 耳を澄ませば、貴族のキーワードが飛び交っているが、当事者である俺には誰も見向きもしない。


 ふっ、気持ちいいな。

 正体不明のヒーローになった気分だ。


 ふと商店の窓ガラスに映った自分の姿が目に飛び込む。

 スーレ村で買った全身100ゴールドぽっちで揃えた上下暗めの布の服に皮装備を所々嵌め込んだだけの粗末なものだ。


 早朝に見た貴族の身なりを思い出し、途端に恥ずかしくなってきた。

 こんな服で貴族に会いに城へ行っていいものか?

 だからといって、貴族の服を着るのは恥ずかしい。

 男がタイツを履くなんて拷問だ。


 どうしようかと服屋を探しながら歩いていると、後ろから声を掛けられビックリする。


「お客様、何かお困りですか?」


 振り返るとニコニコ目を細めた笑顔の商売人風の男が立っていた。

 男の後ろを見るとちょうど服屋だ。

 アスティ裁縫店。

 こんなとこに服屋なんてあったっけ?


「実は、ちょっと城に行くんですけど、服がちょっとアレなもんで、ビシッとした服を探してるんですが」


 男は、はいはいはいはい、と空返事を続けながら、是非当店へどうぞ、と背中を押して入店を促してくる。

 まぁ、急いでるし、陳列された服も多分オシャレで高級感ありそうだし、ここでもいいか。

 その軽いノリも新鮮で嫌いじゃない。


 アスティ裁縫店の主人らしいその男は、デザインや色の好みを巧みに聞き出し、ものの数分で、雰囲気のいいジャケット、シャツ、パンツと見繕ってくれた。

 これがプロか。

 よく見ると店長の服も光沢の入った黒服でセンスが良く格好がいい。

 あ、やっぱり黒がいいな。


「お客さんもしかしてテツオさんですか?」


 突然、名前を当てられドキッとして店長を見ると、相変わらずのニコニコ顔だ。

 何故俺の名前を?と問うと、肩にある盾のエンブレムと城に呼ばれているという二点が繋がり、恐らく今話題の冒険者だと推測したらしい。

 成る程、そう言われれば俺に辿り着くか。

 会えて光栄です、と喜ぶ男性店長。

 これは俺の事が街に広まるのも時間の問題だな。

 女性服もあるみたいだから、今度落ち着いたらまたじっくりと見にこよう。

 気に入った服を女性にプレゼントしてみようかな。


「私、この店と同じ名前でアスティと申します。

 以後ご贔屓に。

 益々のご活躍楽しみにしておりますね」


 店長と雑談をしながら、店内で新しい服に着替える。

 支払いを済ませ店長に見送られながら店を出た。

 全部で五万ゴールドもしたが、高級店だからこんなもんなんだろう。

 ジャケットは黒、ズボンも黒、革靴も黒。

 Yシャツだけが白。

 なんでこの組み合わせにしたのか分からないが、これが一番ピンときた配色だった。


 ただ、胸元や袖、裾部分に中世風な刺繍が施され、ボタンや留め具などの装飾は宝石が使われているのでオシャレ感はアップしている。

 首に何か巻きたい衝動に駆られたが、店には何も無かった。

 首……ネクタイ?

 あ、サラリーマンだ。

 社畜時代を思い出しブルーになる。

 数日で前職まで忘れるなんて、これは重症だ。

 でも、今はもう冒険者なんだからスッパリ切り替えていこう!


 ともあれ準備は万端。


 これで心置きなく入城できるぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る