第37話アンドラス
「こいつが本当にカースさんを倒したってのか?エリック?」
「し、信じられんな」
「だが、こいつさえ殺せば、後はどうとでもなる」
「早く殺して帰りましょ?」
「ああ、こんな石ころに我々が躓く訳にはいかぬ」
「サルサーレ領を何百年もの間、影で牛耳ってきたのは我々だからな」
老若男女バラバラの貴族八人が堂々と悪行を口にする。
ともあれサルサーレの貴族のガン細胞達がここに集結した訳だ。
しかし、誰が魔族で、誰が人間だろう。
全員【解析】してみるが、レベルは低い。
うまく化けているようだ。
出来たら人間は殺したくない。
ちょっとした人狼ゲームだな。
「冒険者よ!悪いがサルサーレの為にここで死んでいただこう」
貴族の一人が手を上げると、木の上から蝙蝠の様な羽が生えた細身の人型悪魔がたくさん襲い掛かってきた。
体長は百センチ以上、鋭い牙と爪を持ち、中には三又の槍や短刀を持つ悪魔もいる。
赤く鋭い目を光らせ、高い奇声を発し、こちらを伺いつつ、空を飛び交っている。
軽く三十匹以上いるだろうか、リリィが剣を構え、メルロスが魔法を詠唱する。
【解析】
インプ
LV:35
HP:1200
MP:580
一匹一匹はさして驚異ではないが、これだけの数が一斉に襲い掛かってくると大変かも知れない。
お前達の力、見せてもらおうか。
「この悪魔達はお前らに任せていいか?
俺は貴族を精査する」
【転移】
八人の貴族の前に瞬時に現れる。
全員の身なりは正に貴族。
飾りボタンや豪華な刺繍の入った色とりどりのジャケットやマントを羽織り、タイツに膝上ブーツと真似はしたくないが、一目で貴族と分かる特徴的な豪勢で派手な服装だ。
今、俺の【転移】を見て大口開けて驚いた五人は魔族じゃないだろう。
残り三人は口に笑みを浮かべたままだ。
年配のちょび髭おっさん、厚化粧の若い女、太った兄ちゃん。
人狼は三人か?
【土魔法:
最初からこうするつもりだったんだよね。
刺さったら白。
刺さらなかったら黒。
どうせ全員悪人なんだもの。テツオ。
五人に短剣が刺さりその場に倒れ、予想した通り、例の三人には短剣は刺さらなかった。
ビンゴォ!
瞬時に倒れた五人に【回復魔法】を施す。
人間を殺すつもりはない。
「やはりお前がマモンを倒したのか……」
チョビ髭の頭が梟に変化していく。
お前も鳥頭かよ。
「ふっふっふ、アンドラス、もう正体を現したのか?」
太った兄ちゃんがアンドラスとか言う悪魔に話しかける。
「いずれマモンに取って代わるつもりだったが、倒してくれてむしろ幸運だったようだ。
俺が一人でやる。
お前らは手を出すなよ。
次の魔王は俺様、アンドラスだ!」
【解析】したがやはり見れない。
上位魔族は見れない仕様なのか?
アンドラスの背中に黒い大きな翼が現れ、魔力が途端に跳ね上がる。
両手に炎を纏い、目がギラギラと銀色に光る。
アンドラスに近付いたインプが数匹気絶するくらいの禍々しい魔力を放出している。
だが、マモン以下の実力なら恐れる事は何も無い。
既に勝負はついている。
俺に超スピードで炎を纏いながら突っ込んでくるフクロウ頭。
時間を操れる俺にスピードはまるで意味を成さない。
【
【土魔法】でガルヴォルンソードを具現化。
瞬間的に大量の魔力を剣に注ぎ込み、空中で止まっているに等しいアンドラスの首を一刀両断。
ガルヴォルンソードは俺の魔力とアンドラスの持つ魔力の衝突によって、耐え切れず破砕してしまった。
一振りで壊れる幻鉱の剣。
並みの悪魔では無い証拠である。
ついでに正体を現す前に、太った兄ちゃんに魔力をたんまり込めたガルヴォルンスピアを、脳天から地面に向かって突き刺しておく。
もしも人間だったら本当にごめんだけど、
でもお前、アンドラスって言ってたから確黒だよね。
次に、化粧の濃いお姉ちゃんの前に跳ぶ。
こいつも悪魔か。
中々にエロい顔してるな。
赤く長い柔らかい髪を頭の上で丸く纏めている。
身体は細く、背はそこまで高くはない。
だが、胸は結構ありそうだ。
ベルもそうだけど、悪魔のマッサージ器ってみんな凄いのかな?
あくまで素朴な疑問なんだけどね。
…………
すぐ倒すには惜しい気もするなぁ。
一旦!
一旦、服を脱がすだけ脱がしてみよう。
くっ、なかなか脱がせない。
なんだこの何重にも紐で巻き付けたコルセットみたいなのは!
これがボンキュボンを作り上げてたのか。
そんなに巨◯じゃないじゃない。
怒りで服を毟りとった。
森の中に裸の貴族が現れた!
更に【水魔法】で化粧を落としてみると、可愛い少女の様な顔がお目見えした。
お姉ちゃんじゃなく、お嬢ちゃんだったようだ。
化粧で大人に見えるよう背伸びしてたんか、こいつ。
それとも、貴族は化粧をするのが淑女の嗜みか?
どうせ、倒すしなぁ……
先っちょ!先っちょだけ!
後ろに回り、そっとマッサージ器に添えていく。
添えるだけったら添えるだけ。
くぷっ……
あっ!す、凄い締め付け!
マッサージ器に埋もれて、食らいついて離さない。
逆に引っ張られていくぅ。
ふぅ、全部入ってしまったじゃないか。
先っちょだけの約束だったのに。
これはもう、こいつのマッサージ器の構造が悪い。
しょうがない。
こいつはコレで倒そう。
【
「ぬぉおおおおおおおお!」
ほぼ停止に近い時流の中で、森のど真ん中でマッサージする俺。
マッサージを繰り返すほど快感パワーがこの赤毛女の身体に蓄積され、時流を戻した時には決壊したダムの如く、絶頂の奔流にのまれるだろう。
(悪魔の身体には人智を超えた器官があり、パンプアップした筋肉を証明する事で倒す事が出来る)
頑張れ、テツオ!
これは悪魔退治なんだ!
何度も限界を感じながら、それでも街のみんなの為に、平和の為に立ち上がり、ひたすらマッサージする。
あ、もう、スカスカで何も出ねぇや。
ああ、気持ちよかった。
【解除】
「きゃああああああああああああああああああああ!」
時流を戻した瞬間、身体を大きく震わせ、膝から崩れ落ち、その場でガクガク痙攣する女悪魔。
色んな液体で水溜まりを作ってやがる。
【
気絶している女悪魔を闇の縛縄で拘束した。
さっきから後ろで鳥の囀りがするので、しょうがないから話を聞いてやろう。
「く、くそ!天使でも無い奴に、コんな簡単にヤられるなんて。
次会ったら絶対ブッ殺すからナ!
魔界で待ってるゾ」
梟の頭が悔しそうに文句を垂れた後、黒い煙となって消えていった。
太った兄ちゃんも槍と共に黒煙と化した。
計算通り!
やはり俺の想定を上回ることは無かった。
余程の【
地面に落ちた魔玉を二個拾い上げる。
アンドラスの魔玉は強い魔力を感じるから、きっとエルメス様のお眼鏡に適うだろう。
太った兄ちゃんの魔玉は弱々しいから上位魔族じゃないかもしれない。
こりゃハズレ玉だ。
女悪魔に再び振り返ると、いつの間に意識が戻ったのかガクガク震えていた。
「次はお前の番だな。
人間の姿じゃやりにくい。
本性を表せば一瞬で楽にしてやるぞ?」
「ま、待って!
私は最近この大陸に来たばかりなの!
マモンから魔王を奪うからってアンドラスに呼ばれただけよ」
「でも、悪魔なんだろ?
人間の敵には変わりない」
何を言ってるんだ、こいつは?
「兵士は王の指示で人を殺すでしょ?
兵士は罪に問われるの?
今回の召喚で私は誰も殺してないわ!
アンドラスの命令で死んだ貴族の娘に化けてただけよ」
一理ある。
悪魔に言い包められていいものか?
この世界の人間の法に照らすならばどうだ?
貴族に化けた詐欺罪なら禁錮刑。
殺人は死罪。
王の命令なら全て無罪。
悪魔は即刻処刑。
だが、俺の目の前で起こっている事は、俺に決定権がある。
この女悪魔がどれだけの事を犯したのか、【洗脳】で自白させ、これまでの経緯を全て話させた。
————
考えた結果、条件付きで許す事にした。
インプを全て倒し合流したリリィとメルロスも、俺の決定に黙って了承した。
このグレモリーという悪魔は、病気で死んだ貴族の娘アデリッサを依り代にし、アンゴラスに召喚され生活に溶け込んでいた。
両親は娘の病気が治って元気になった事に大層喜び、少しくらいの夜遊びならと自由にさせていたそうだ。
こいつの罪は、女性を誘拐する際に呼び出す係、つまり幇助犯。
数年の禁固刑なぞ、悪魔には何の意味もないだろう。
グレモリーには両親の元に戻り親孝行をし、これからは立派な貴族として街に貢献し、時に俺の指示に従い、サルサーレ領に悪魔を近づけさせない事を誓わせた。
次に気絶している五人の貴族は、完全に【洗脳】し、自分の罪を告白させ、罪を償わせる事にした。
膿を全て出してサルサーレをクリーンな領土にしよう!
ちなみにこいつらの財産は全て【
全て了承したアデリッサは五人の貴族を伴い、森から去っていった。
「……以上だ」
女二人にドヤ顔を向ける。
「テツオ、カッコいいわ。
惚れ直しちゃう」
「ご主人様の清濁併せ呑む寛大な器量に、このメルロス感服するばかりでございます」
予想通りの反応ではあるが、褒められたら悪い気はしない。
「あの、俺はどうしたら?」
そこへ、オロオロとエリックが近付いて来た。
ワンチャン許されると思ってないか?
こいつは無断で連れ出した以上、クランにバレる前に元居た場所へ帰すしか他あるまい。
「お前は実行犯だ。
死罪は免れまい。
だが今回、不法貴族を一網打尽に出来たのはお前のお陰だ。
恩赦で減刑出来るよう取り計らってやろう」
この世界に恩赦制度があるか定かでは無いが、とりあえず団長に聞くだけ聞いてみよう。
「あ、ありがとう!ありがとう!」
感謝でまた号泣するエリックを掴み、【転移】で牢屋に放り込み、すぐ戻る。
うまくいったみたいだ。
「お前達のお陰で、悪行貴族達をスムーズに処分する事が出来た。
ありがとな」
二人に感謝の意を伝える。
「全部テツオ一人でやったようなものよ。
次元が違い過ぎてもう笑うしかないわ」
「勿体無いお言葉ありがとうございます。
私めはご主人様のモノ、如何様にでもお使い下さいませ」
リリィは分かるが、なんかどんどんメルロスの対応が変わっていってないか?
ハイエルフだったのは言われて初めて知ったが、もっと誇り高い種族だったような。
「それより、朝食の続きをしましょ?
動いたらお腹空いてきちゃった」
リリィが明るい声で提案する。
「でも、これでは……」
周りを見渡すと、地面には大量のインプの死骸が散らばっていた……
「……お前らの殺し方結構エグいのね」
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