第30話カース
宙に浮いたカースの目が青く光る。
床一面、一瞬で影に覆い尽くされた。
そこから黒い触手がシュルシュルと大量に湧き出し、【
カースはもう次のモーションに入っていた。
まずいな、団員達は触手に気を取られ全く気付いていない。
急がないと!
自分に迫った触手を弾き、すぐさま【光魔法:
「【
カースの影の波動が前方向へ放射状に放たれる。
間一髪、光の膜が先に団員達を包み込む。
【転移】
俺はカースの背後に移動し回避するが、団員達はまともに魔法を浴びてしまった!
何やってんだよ、俺は!
人を守る戦いを今までしてこなかった事が、大きいハンデとなっている。
カースの魔法は、対象の生命力、魔力を吸い取る効果があり、直撃した団員全員が意識を保つ事が出来ず倒れてしまう。
【光の加護】が無かったら、影に取り込まれ即死もあり得たかもしれない。
倒れた団員の周りに展開する光の膜を壊そうと、今も影の触手がまとわりついている。
カースがピンピンしているところを見ると、恐らくグエンバンドルスの団員達は影に取り込まれ、回復の為に既に吸収されてしまったのだろう。
光の膜を壊される前に、こいつを倒しきる必要があるな。
いよいよ、あいつの力を借りる時が来たようだ。
「【
ああ、なんかこういうのって男の憧れかもしんない。
俺の影の中から、黒髪前下がりボブのベルがズズズ……と現れた。
白の襟シャツ以外は全て黒尽くしのハーフベストにミニスカートにヒール。
エロかっこよくてドキッとする。
「すいません、ご足労掛けちゃいまして」
「ふざけた奴だ」
丁寧に労ったつもりだが、ベルに無表情のままスルーされる。
何で?
「で、アレはやっぱり悪魔……かな?」
「ああ、かなりの上位魔族だ」
やっぱり!
ちゃんと答えを教えてもらえたらスッキリするなぁ。
ずっと【解析】してるのに全然見れないし、モヤモヤしてたんだよね。
——ククククク
カースが静かに笑う。
それだけなのに威圧感が凄い。
肌がビリビリする。
「使い魔を呼ぶ、か。
貴様一人だけ異質な力を感じていたのだ。
街にいるクランの人間は全て調査済みだが……貴様は誰だ!」
再びカースの目が青く光ると、全身影となって俺に目掛けて一瞬で飛んでくる。
突如横にいたベルが俺の目の前に、巨大な鎌を振り下ろす!
危ねっ!
が、鎌はパリィンと高い金属音を残し、砕け散った。
迫る影の中から、俺の喉元を狙い、手が伸びてくる。
【
【土魔法:
ゆっくり迫る手を斬る。
しかしどういう事だ、当たった瞬間、俺の剣まで粉々に砕け散る。
ホント、どういう事だよ、これ?
一旦、ベルの意見が聞きたい。
他の攻撃も一応しておいてから距離を取ろう。
【光魔法:
ベルの腰に手を回し、入り口付近まで移動する。
腰の細さがあの夜を思い出させる。
これは淫魔のせいで、決して俺がエロいせいではないだろう。
時流が戻り、カースに無数の矢が刺さり小爆発を繰り返す。
「ベル、攻撃が効かないぞ?」
「私より上位の悪魔には私の攻撃は効かないし、影には物理攻撃は通じん」
「じゃあ、俺の剣が効かないのはなんだ?」
「来るぞ!」
煙の中からカースの姿が見えてくる。
俺の光魔法もあまり効いていないようだ。
またも、影になって突っ込んでくる。
【時間遅行】を再度発動するには、数秒のクールタイムが必要だ。
【時間遡行】なら常に発動可能だが、倒せるという突破口が無いと戻すのは意味が無い。
カースの猛攻を躱しながら、エリンと戦った時の事を思い出す。
時間を戻しても全然ダメージを与えれず勝てる気がしなかった。
霧が影に変わっただけじゃないか。
つまり、何かしらの
強い魔法を撃とうにも位置を気にしないと、牢にいる女性達に被害が及んでしまう。
カースもそれを気にしてるのだろうか?
基本、近接攻撃しかしてこない。
そこに突破への糸口があるかもしれない。
カースは影を伝う瞬間移動を繰り返しながら攻撃をしてくる。
それを躱しながら、光の付与をした水晶剣でちまちまダメージを与えていく。
ベルが団員達を取り巻く触手を刈り取ってはいるが、四人分をケアしきれず、このままじゃいずれ団員達が吸収されてしまう。
カースもそれが分かっているだろう。
ベルが俺の背後から話しかけてくる。
「エリンから貰ってきた魔力が尽きて、もう消えそうだから言っておく。
もしもだが、私が、あいつの魔力を上回る事が出来るなら倒せるかもしれない」
「お前、もっと早くそれを言えよ」
「そんな暇ないだろう!」
そんな可能性があるのなら、それに賭けるしかないか。
団員達の限界も近い。
【
時流を遅くし、ベルの後ろに回り込み両胸に手を当てて魔力を注ぎ込む。
別にどこからでもいいんだけど、女性の身体を触るとして一番集中出来そうな箇所といえば?と二十代男性百人にアンケートをすれば、一位は間違いなく胸だろう。
だから、俺は今一番集中出来る状態で魔力を注いでいるんだ!と声高らかに宣言出来る。
お願いします!ベルさん!
時間が操れる俺なのに、時間が無いんです!
もっと集中出来そうな気がしたから、後ろから首筋にキスをする。
ああ、……たまらん。
あ、キスに夢中になりすぎて魔力が滞った。
——時流を戻す
無駄に多い俺の魔力だが五万も注ぎ込む前に入りきらなくなった。
悪魔が異変を感じたのか動きを止める。
「な、なんだこの膨大な魔力は!」
「すごい」
ベルも自分の中に溜まった魔力量に驚愕している。
身体から禍々しい魔力が溢れている。
「ば、馬鹿な!」
初めて。
今まで崩す事の無かった余裕の仮面が遂に外れ、カースが初めて焦りの表情を見せる。
危機感からかカースがこちらへの攻撃を中断し、牢の女性に向けて影を伸ばす。
監禁されている女性達から魔力を吸収するつもりだ!
そうはいくか!
【土魔法:
牢をガルヴォルンの壁で完全に防ぐ。
影の波動にもカースの拳にもビクともしない完全耐震耐魔の安心設計テツオホーム。
「なんだ!この壁はぁっ!」
どうやら、カース自身への攻撃であれば武器破壊する
これ以上、俺の女性達を傷つける事は絶対に許さない。
「くっ、ならばっ!」
影がニューッと伸び、光の膜に守られている団員達に狙いを変える。
そりゃ悪手じゃろ、アリンコ。
実体化したカースの胸を、背後から瞬間移動したベルの手が突き抜けた!
カースの目の前には、背中から突き抜けたベルが握っている心臓がドクンドクンと脈動している。
グロい。
「アハァ、気持ちいいぃぃ」
ベルがトロンと恍惚の表情を浮かべる。
やだ、こいつ。
目がイっちゃってるよ。
「ま、待て!
貴様らの命は助けよう」
悪魔が不思議な命乞いをしている。
「はぁ?何言っちゃってるの?
テツオ、もう潰していい?」
心臓をギチギチ締め付けながらイラつく。
ベルもやっぱり悪魔なんだな。
めちゃくちゃ怖い。
なんだこの光景。
「儂は魔界の侯爵マモンだぞ!
知らんのか!?
儂を殺せば多くの魔族が、貴様らに災厄を齎すであろう!
儂を見逃せば、巨万の富を永遠に約束しようではないか!」
儂々、煩いな。
悪者ってなんでどいつもこいつも、死に際になって悪足掻きをするんだろうか?
俺の脳裏に、魔族に苦しめられたたくさんの大切な人達が、思い起こされる。
ソニア、アマンダ、ナティアラ、【北の盾】関係者の方々、ドルス……は違う、ブレイダン、そして、リリィ!
あ、もうキレた。
具現化したガルヴォルンソードを持って、ツカツカとマモン侯爵ことカースに近付く。
その迫力に気圧されたのか、ベルが心臓を握ったまま胴体から手を抜く。
支えを失ったカースはフラフラとよろめき、テツオの前に跪いた。
「お前は俺に殺されるべきなんだ!
バカ野郎ー!」
一閃、首を刎ねる。
てめーは俺を怒らせた。
手に殺人を犯したドス黒い感覚が残る。
思わず怖くなって床に剣を落とした。
金髪イケメンの首が胴体から離れ、ゴロゴロ転がり止まると、次第と鳥の頭に変化していった。
これがカースの正体?
鳥やん。
白い鸚鵡の容貌に、目がギョロギョロ動き、嘴がパクパクと開くと、クツクツと笑い出した。
「随分、楽しまセテ貰ったヨ。
コノ三百年、人間にハ、儂が授けた悪しき強欲ガ、しっかリと根付いタ。
儂にハ、分かル。
魔族ガ手を下さずトモ、いずれ貴様ラは、お互いに殺シ合イ、滅ビルだろウ」
気絶している貴族のエリックを見て、確かにマモンの言う通りかもしれないなと怖くなった。
人間は悪魔になれる。
「黙れ!」
ベルがグシャッと心臓を握り潰すと、珍しく俺の目を真っ直ぐに見る。
目を合わせてる間に、鳥頭と胴体が黒い塵となって消えていった。
「魔族は人の心の隙間に入り込むのがとても上手い。
鵜呑みにしない事だ」
「ははっ、悪魔のベルがそれを言うのか?」
ベルは手に持った黒い玉を俺に投げると、次第と透明になって消えていった。
消える瞬間にベルが微笑んだ気がしたが、ホント毎回消える度に、俺をドキッとさせるのやめてほしい。
もしかしてだけど、俺に惚れてるんじゃないの?
黒玉を手でキャッチすると、ビチャッと残り血が俺の顔に飛び散る。
イテッ、目に入った!
え?
これ感染しないよね?
——マモン討伐完了。
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