第20話サルサーレ・ギルド

「あの、テツオありがとう!」


「ああ。

 ちなみに前の剣より弱くなったって事は無いよな?」


 大金出してバージョンダウンしてたら本末転倒だ。


「持つだけで強い剣だってわかるわ」


 リリィが元々持っていた剣はプラチナ製。

【解析】するに、あの武具屋で買ったミスリルの剣はそれより倍以上に強い。


 武具屋に行く前までは鉱石の硬さにこだわっていたが、武器に関しては鍛冶師の技量が硬さを上回る事がはっきりと分かった。

 この先、強い武器が欲しい時は原石を持っていき、作成して貰うのがいいだろう。


「さて、次は冒険者ギルドに行ってみるか。

 お前はどうする?」


「え?冒険者になるつもりなの?」


「情報収集するならギルドがいいだろ?」


「そ、そうね。

 ごめんなさい、ちょっと疲れちゃったみたい」


 朝から登山やらエルフの国やら連れ回したせいで、流石のリリィにも疲れが出てきてるようだ。

 疲れてない俺が人間としてどうかしてるのかもしれない。


「先に宿で休んでてもいいぞ?

 晩飯を食べに行く時に呼びに戻ってもいいし」


「ううん、大丈夫。

 一緒に行くわ。

 色々分からない事あるでしょ?」


「分かった。無理すんなよ」


 リリィに案内され、冒険者ギルドへと向かう。

 商店街から街の入り口の広場に戻ると、正面に目立つ様に宿屋が建っていた。

 その宿屋のすぐ横が冒険者ギルドだったようだ。

 そこから順に色んな施設が並んでいる。

 どんな施設があるのか気にはなるが、それらはひとまず後回しにして、早速ギルドに入ってみた。


 重厚な鉄と木でできた大扉を開けると、結構な広さのエントランスホールが出迎える。

 ダンスパーティーが軽く出来るだろう広さだが、百人近く詰め掛けた冒険者達でごった返し、狭く感じてしまう。


 正面には受付カウンターがあり、何人もの事務員が慌ただしく冒険者に対応してんてこ舞いだ。

 この人数を目の当たりにすると、やはり冒険者稼業は人気があるのが分かる。


 壁の至るところに掲示板が設置され、スーレの村の比ではない大量の要請依頼書や賞金首の指名手配書が所狭しと貼ってある。

 流石、大きい街だけあって規模もデカい。


 どういったものが貼ってあるのか気になり、リリィを適当に座らせ、掲示板をしばらく眺めた。

 乱雑に貼ってあるので結構分かりづらい。


 どれだけ経ったろうか、気がつくと受付カウンターが次第と空いてきていた。

 何組かの冒険者パーティの用件が終わったのか、各々移動を始めている。

 晩飯前は混みやすいのか知らないが、今後は時間帯を気にしよう。


 美人な女冒険者がいたら良かったんだが残念ながら見当たらなかった。

 そんな訳で僕は、可愛い受付嬢が空くのをずっと待っていた訳で。


「初めてなんですが、宜しくお願いします」


「はい、お待たせしました。

 私、当ギルド受付担当のラーチェと言います。

 初めてという事でしたら冒険者登録でしょうか?」


「そうですね。

 あ、そういえばこんなの持ってます」


 活発で可愛い受付嬢に、スーレの村にてボコボコにした冒険者がくれた推薦状を見せる。


「はい、失礼しまーす。

 ふむふむ……。

 おー!銀等級シルバーへの推薦ですね!」


銀等級シルバーというと具体的に何が出来るんですか?」


 冒険者には等級クラスがあるのは把握しているが、だから何だと言うのが率直な感想だ。

 ちゃんとした説明が聞きたかった。


「はい!ご説明しますねー。

 まず、全ギルドで銀等級シルバーまでの依頼を受ける事が出来ます。

 当ギルドの二階フロアへの入場権利が得られ、街ではギルド管理の色々な施設が利用可能になります。

 では、登録証をお渡ししておきますね」


 ドッグタグ型の登録証を受け取り、説明を受ける。

 どうやら魔法具らしく、装備すると所持者の意志で出したり消したりできるみたいだ。

 所持者が死んだ場合は身元確認になるという。


「ありがとうございます。

 ちなみに魔族討伐の依頼ってこちらにきてませんか?」


「魔族ですか?

 うーん、そういった依頼は無いですねー」


 どういう事だ?

 いや、待てよ。

 エルメス様は北に潜んでいる魔族が、貴族を唆し、人攫いもしていると言っていた。

 うまく潜んでいるなら証拠は残さないか。

 人攫いの件から、何か貴族に繋がる証拠を掴みたい。


「では、行方不明者の捜索願いとかはありませんか?」


「捜索願いなら何件か出てますね。

 あれ?

 何故か数件の依頼レベルが金等級ゴールドに格上げされてます。

 捜索願いは大概が誰でも出来る級外依頼なんだけどどういう事だろ?」


 ん?なんだ?

 明らかにおかしい。

 金等級ゴールドの冒険者はそんな割りに合わない依頼は受けないだろう。

 誰かが意図的に操作している、という証拠。

 貴族の圧力がかかっているのかもしれない。


「どんな方が行方不明になってますか?」


「え?……そんな!

 金等級ゴールドの捜索願いは若い女性ばかりです!」


 確か名をラーチェといった受付嬢は、複数の依頼書をめくりながら驚愕している。


 広げられた依頼書を見比べると金等級ゴールド以外の捜索願いは犬猫等のペットから下は子供、上は老人と対象は幅広いが誰でも受けれる様になっていて、報酬はそこそこ高い。

 若い女性の捜索願いは報酬があまりに安過ぎる。

 金等級ゴールドは街に十人もいないとか。

 それじゃ誰も探したりしないだろう。

 どうしたものか。


「この金等級ゴールドの捜索願いは、私では受けれないんですよね?」


銀等級シルバーの方はお受け出来ないですー。

 ごめんなさい」


「では、その金等級ゴールドにはどうやって昇級出来ますか?」


「昇級には獲得報酬額百万ゴールド達成が条件になります。

 あとギルド毎に討伐指定されている魔物を倒す必要がありますね」


「百万!?」


金等級ゴールドの冒険者は当ギルドには十人もいません。

 貴方が金等級ゴールドになれるまで彼女達が無事かどうか……。

 他に有志を募る、とか。

 あっ!

 推薦状を書いてもらったクランに入団してはどうでしょうか!

 そこは【ノールブークリエ】と言って、この街でも上位の実力派クランですし、金等級ゴールドが二人も在籍してますよ!」


金等級ゴールドの方に、代わりに依頼を受けてもらうという事ですか?」


「はい、その通りです。

 依頼を受けた金等級ゴールドの方とパーティを組むんです。

 依頼を受ける冒険者の殆どがパーティを組んでます。

 クランに入っていれば、実力に合わせてパーティを組みやすいという利点もありますし。

 如何でしょうか?」


 うーむ。

 金等級ゴールドがどれほど強いのかは知らないが、悪魔と貴族その両方を敵に回せる実力や度胸があるのだろうか?

 が、依頼を代わりに受けて貰うだけでも利用価値はあるか。


「それじゃ、ちょっと紹介してもらえますか?」


「はーい!かしこまりました!

 では、一緒に二階へ行きましょうか。

 えっと、お連れ様はギルド登録されますか?」


「いや、彼女はただの付き添いなので大丈夫です」


「分かりました。

 となると二階へは銀等級シルバー以上の方しか行けないので、えっと」


「分かりました。

 リリィ少し待っていてくれ。

 それと……」


 リリィに少し頼み事をしてから、受付嬢ラーチェの後を着いていく。

 階段を一段一段上がる度、ラーチェの尻とスカートから伸びるキュッと締まったふくらはぎが俺の脳天を刺激する。

 エロい。

 その尻を見ながら【解析】してみる。


 ラーチェ

 年齢:17

 LV:4

 HP:35

 MP:10


 17才。

 よいではないか。


 二階はロビーになっていて一際豪華な絨毯やソファが置かれている。

 一階よりワンランク上の造りになっている。


 そのロビーから直で色んな部屋に行けるように扉が設置されている。

 部屋の一部は透明度はいまいちだがガラスが使われていて中の様子が見える。

 食堂、整備室、販売所等、色々な部屋があるみたいだ。


銀等級シルバー以上でしか入手出来ない様な道具、武具とかが冒険者同士で取引出来たり、情報を売買したりできます。

 良かったらご利用くださいねー!

 では、こちらの椅子に掛けてお待ちくださぁい」


 そう言い残し、ラーチェは俺を置いて、更に奥の廊下を歩いていった。


 ソファに座るとそこでようやく俺に向けられた視線を感じる。

 気付いて無かったが周囲の冒険者達にジロジロ品定めされる様な目で見られていたらしい。


 嫌な感じだなぁ。

 一応【分析】してみるとレベル20〜30が殆どで、よくて40といったところだ。

 雑魚では無いがそんなにレベルが高い訳じゃ無い。

 まぁ、みんな俺よりレベルは高いけど。


 しばらくするとラーチェと一緒に高身長の女性が近付いてくる。

 クランの人かな?

 結構、綺麗な人だ。


「君が入団希望者のテツオか。

 私が【ノームブークリエ】の団長のソニアだ」


 サラサラで長く紫がかった髪をかき上げ、切れ長の目で俺をジッと見る。


 団長が美人だったので、俺は入団を決めた。

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