第14話デカス山脈③

 ちょいちょいちょいー!

 なんだよなんだよー?

 なんなんだよー!


 リリィを抱いた事実は記憶消去、記録消去、両方バッチリしたのに何で気付いてんの?

 マジ焦るわー。


 間違いなく初めてに戻ってるよ?

 記憶上書きまでしなかった事がまずかったか?


 まぁ、いつも通り平然としてれば問題ないだろう。

 気持ちを切り替え山頂を目指そう!


 小屋から出たら早速鳥が襲ってくる。

 このストレスを全部ぶつけてやろう。


【解析】

 アイアンウィング

 LV:55

 HP:2100

 MP:200


 強っ!

 リリィよりレベルは低いが生命力がエゲツないな。

 魔力も高い。


 試しに【火球ファイアボール】を何発か撃ち込んでみる。


 それを感じ取ったアイアンウィングは逆に急降下しながら火球に向かってくる。

 そいつが生み出した風圧により火球が逸れていき爆散した。


 やるじゃない。

 強い魔法も当たらなければどうという事もないとでも言いたいのか?


 鳥といえども流石はレベル55。

 戦い慣れている。


「リリィ、援護するから迎撃しろ」


「分かったわ!」


ウィンド加護エンチャント


 リリィに風を纏わせ、【ウィンド装置デバイス】で空中に複数の魔法陣を創り出し、風の効果を最大限に活かす。


「空中にある魔法陣を足場にするんだ!」


 リリィが魔法陣に向かいジャンプし足が着いた瞬間、その増幅装置から突風が巻き起こる。


 青白い風に包まれたリリィが、閃光となって鳥に目掛けて飛んでいく。


 二つの光線が上空にて交差。


 その瞬間、リリィは三つの斬撃を放つ。

 圧倒的な剣速に鳥はなすすべなく全てをその身にくらう。


 アイアンウィングと名を冠するだけあって鉄の如く硬い羽に阻まれ、ギィンギィンと金属音と共に激しい火花が舞い散る。


 飛んだままリリィは次の魔法陣に足場を移す。

 魔法陣から更に強い風が巻き起こる。


 これは風の増幅装置だ。

 魔法陣から魔法陣へと反復移動する度にどんどん風の勢いが強くなっていく。


「そうだ!それでいい!

 ジャンプを繰り返せ!」


 リリィが発する閃光が、激しいピンボールの如く反射を繰り返す。

 鳥は旋回を繰り返すが、どんどん早くなるスピードについていけなくなり、いまさら逃げようにも逃げれない。

 光の鳥籠状態だ。


「やぁっ!」


 ズバッ!


 リリィの渾身の斬撃がアイアンウィングを捉える。

 首を羽ごと切り落とされ、無残にも胴体と共に雪原に落下する。


「よくやった!リリィ」


「魔法の加護のお陰よ」


 この鳥の魔力の高さはなんだったのか?

 遅れてリリィが着地する。


「上空から見えたけど、さらに向こうの山頂に祠の様な物が見えたわ」


「おお、よくやった!」


 山を【探知】した際、不思議な気配を感じてはいたのだ。

 それが無ければわざわざ山頂を目指したりはしなかっただろう。

 祠が何かとても気になる。


 向こう側の山頂に向けて稜線を縦走するには、かなり鋭く細い岩場を通らなければいけない。


「よし、このまま魔法陣であそこまで飛ぶぞ!」


「わ、わかったわ!」


 震えた声が気になり、リリィをよく見ると全身が震えている。

 氷点下近い気温の中での空中戦で風に散々煽られ冷え切ったのだろう。


ファイア加護エンチャント


「暖かい。ありがとう」


「今までどうやって自然相手に冒険してたんだ?」


「雪山に行くって分かってたらそれなりに準備したわよ!

 まさかこんなとこまで来るなんて……」


 ブツブツうるさくなってきたので、さっさと魔法陣で跳躍する。


「無視しないでよー!」


 上空から祠周辺を【探知】すると、明らかに異質な魔力を感じる。


「何かいるぞ」


「えっ?」


 見たところ雪と岩しかない。

 祠の中にいるのか。

 だが祠は地蔵が一体入る程度の大きさしかない。


 着地して周囲を伺うが、気配は消えていない。

 生命反応は感じないんだがどういう事だろう?

 首を傾げながら祠に近付くと、祠の中から緑色の光が漏れ出し同時に地響きが起こる。


 ブゥン、ゴゴゴゴゴ……


「嫌な予感がするわ」


 ガクンと足元が揺れ、岩の塊が地面から雪を掻き分けるように迫り出してきた。


「これはまさか!」


 後ろに距離を取るように飛んで離れるリリィ。

 真剣な目でその岩を見ている。


「なんだよ?トラップって事か?」


「いいえ、罠では無いわ。

 ううん、罠の意味もあるのかも。」


 リリィがなぞなぞを出してくる。

 上級者向けなら勘弁してほしい。


 岩はみるみる盛り上がり、二つの腕、二つの足、緑光を発する祠が顔の様に見えてくる。

 こいつアレだ。

 何て言ったっけ?


「ゴーレムよ!」


「思い出した!ゴーレムだ!」


「…………」


 さてと、


【解析】

 デブリゴーレム

 LV:70

 HP:3200

 MP:100


 さっきの鳥より更にレベルが高い。

 魔力は少ないが体力がべらぼうに多いな。


「ゴーレムと戦った事あるか?」


「あるにはあるけど、訓練用の人形だし。

 こんなに大きいのは初めてだわ」


 こんなに大きいのは初めて、というワードに敏感に反応してしまう。

 そんな場合ではない。

 今まさに俺目掛けて巨大な岩の腕が迫ってきている。


火壁ファイアウォール


 ゴーレムの腕が叩き付けられるが火の壁の強度に耐え切れず壊れ四散する。

 腕だった岩石が音を立てて崖下へ落ちていく。

 こんな狭い足場で大きい岩石が暴れたら山が崩れてしまいそうだ。

【火壁】の魔法が効力を失い掻き消えていく。

 それほど強い一撃だったのか。

 戦い方を変えよう。


ウインド空域フィールド


 対象ゴーレムを中心に山頂ごと囲むように魔法陣を四方八方に展開する。

 風の壁に囲まれた縦横20メートルくらいの空間が、ゴーレム対俺とリリィの戦域バトルフィールドだ。


「これで岩が飛び散る事は無い。

 ヤバいと思ったら逃げろよ!」


「逃げないわ!」


 話してる間にゴーレムが周りの岩を吸い上げ腕が再生していく。

 そんなんありか?

 しかもさっきよりも巨大になってるぞ?

 山そのものが敵となって迫ってくるような錯覚を感じる。


 再生中の隙をつきリリィが足元へ飛び込み脚部分を斬り込む。

 斬撃では相性が悪いのか斬っても斬ってもすぐさま再生してしまいダウンも取れない。

 なんだこいつ。


「ゴーレムって弱点はなんかないのか?」


「ゴーレムの動力源は魔力だから魔力が切れれば止まるし、完全に倒すならコアを破壊する事ね」


 コアか。

 恐らくは祠だった頭の部分がコアな気もするが、力試しでもう少し戦ってみたい気もする。

 HP3000超えってヤツを体感してみたい。


「ここは俺一人で戦う。

 リリィは離れてろ」


 リリィを上空に創った魔法陣に強制【転移】させ、ゴーレムに向き直る。


【土魔法:水晶クリスタルハンマー


 水晶で出来た電柱の様な円柱が二本、頭上に浮かび上がる。


 3メートルはあろうゴーレムが両腕を振りかぶって突っ込んでくる。


 迫り来るゴーレムにタイミングを合わせ手を翳すと、そのジェスチャーに合わせ鐘撞きの様にハンマーが高速で両腕に衝突した。

 轟音が響き両腕が木っ端微塵に吹き飛びゴーレムの動きが鈍る。


「所詮、岩。

 さっきの蜘蛛と同じでより硬い物質の前には何もできまい」


 上機嫌でいると上空でリリィが何やら叫んでいるようだ。

 俺の強さを讃えているのだろう。


「後ろよ!うーしーろー!」


 迫る影に気付き後ろへ振り向く前に、地面から迫り出した腕が振り下ろされる。

 衝撃で雪が舞い上がり、辺り一面が白に覆い尽くされる。


「テツオ!!」


「なんだよ」


 リリィの背後でテツオの声がした。

 そうだ、この男には【転移】がある。

 振り返るともうゴーレムの背後に【転移】していた。


 ゴーレムの背後へと【転移】を続けながらハンマーを高速で打ち込み続ける。

 成す術もなくゴーレムの体から岩が次々と剥がれ落ちていく。

 とうとう頭部である祠だけになってしまった。

 これでどうだ!?


【解析】

 デブリゴーレム

 LV:70

 HP:100

 MP:100


 なんだよー。

 祠が残ってる限り倒せないんかよ。

 まぁ、でもこれがゴーレムかぁ、楽しかったな。

 使いたくなかったけど【転移】まで使っちゃったし。

 LV70は強い。


【闇魔法:魔力吸収マジックドレイン


 祠から魔力を吸い上げる。

 MP100しかないから一瞬で吸い終わるな。

 祠から光が失われ静寂に包まれた。


「貴方一体どれだけ強いのかしらね?」


 いつのまにかリリィが降り立っていた。


「さぁなぁ。でも強かったぞ、こいつ」


「余裕だったじゃない?

 でも、何でここにゴーレムがいたのかしら?」


「どういう意味だ?」


「通常ゴーレムは守護者ガーディアンとして配置されるものなのよ。

 ここにいる何か理由があるはずなんだけど、ね」


「祠をもうちょい調べてみるか」


 祠を調べてみると何か玉の様な物がある。


「ゴーレムのコアか」


 テニスボールくらいのその玉を手に取るとボワンと鈍い音がした。


「え?何?これ……」


 リリィが何かに驚いてるので、手のひらから視線を上げると目の前に全く違う世界が広がっていた。


 雪山の山頂に突如開いた大きな円。

 円の中は例えるならば巨大で綺麗な森。

 木々に澄んだ水が降り注いでいる。

 奥には滝があり光が反射して森を照らしている。

 その神々しい光景に心が奪われるようだ。


「どうする?」


「こんな面白展開、行くしかないだろ?」


 俺たちは森へと導かれるように入っていった。

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