第33話 未来へのあゆみ

 

 再会を果たした愛斗とシュミットじいさんは涙を流しながら抱擁を交わし、お互いの無事を確かめ合った。そして、抱擁した愛斗の背中をポンポンと手の平で叩いたシュミットじいさんは、愛斗を家の中に招き入れ、自慢げに部屋の真ん中にあるテーブルの上を指差した。


 介護ロボット製作の第一段階であるロボットアームが完成し、テーブルの上で小気味よく動いている。しかもかなりの出来栄えである。それは駆動音を聞くだけで容易に分かった。シュイ―ン…シュッシュッ…ブレも無く正確に動く動作は産業用工作ロボットそのものであった。


「すごい…こんなに精密なロボットアームを作れるなんて…」


「なぁ~に、お前が置いて行った、この左耳の”愛”くんの指導のおかげじゃよ!」


「え…“愛”くん、あの戦争の大変な時に同時にここでも、そんなことをしていたという事なの!?」


『はい、僕たちはホストコンピューターFのおかげで、高速の情報処理スピードで、いくつもの仕事の同時進行を可能にしています。ですがなによりも、シュミットさんの技術力の素晴らしさこそが、この精密ロボットアームの製作を可能にしたのですよ。』


「あはは!昔取った杵柄じゃ…。まだまだ腕は衰えてはおらんかったわい!」


「このロボットアームなら、“愛”くんが精密なロボットアームを作らなくても、そのままこの機体で介護ロボットを製造できそうだね!」「シュミットさん、本当にありがとうございます!貴方がスイスでの最初のミション達成者です!……ですが…、どうして、ロボットアームを作る気になってくださったのですか…?」


「ふふっ…それは、お前がワシの息子も同然だからじゃ…。買い物や、掃除、洗濯、食事の準備…ワシはそのすべてを見ていて思ったんじゃ。お前は信頼できる男だ。我が息子よ…感謝しているのはワシの方じゃ。これからはワシの事も頼ってくれよ…。」


「シュミットさん…そんなふうに思っていただいていたんですね…ありがとうございます…本当に頼りますよ?世界にこのAI機器を行き渡らせるまで。この世界をユートピアにするまで。」


「もちろんじゃ…つぎはこのロボットアームを使って介護ロボットを作るんじゃな?合間に近所のじいさんばあさん達に、この耳装着のAI機器も配ってやるよ。介護ロボットが数台出来たら、工場を作って量産すりゃいい。」


「ほ…本当ですか!?そこまで…そこまでしてもらえるなんて…」愛斗は感極まって、棒立ちのまましゃくり上げ大粒の涙を流した。


「泣くな息子よ…お前の喜ぶ顔が見たいんじゃ…。実はな…“愛”くんから、お前の母さんや父さんの話を色々聞いてな…感動したよ、素晴らしいご両親じゃないか!ワシにも手伝わせて欲しいんじゃ…お前の言う未来の世界を…ユートピアをワシも見てみたいんじゃよ。」


 二人は、今の世界の現状と未来について夜が更けるまで語り合った。


 

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