第26話「男には男の道があるという話。」


 一同は新作のCGの確認をしていた。

 妙なところはないか。違和感はないか。少なくとも、ここにいる面々は必要最低限の違和感くらいには気づくメンツである。


 描いた本人の一人である谷川は勿論、工多に槇峰、上渡川も入念にチェックする。



 ……たった一人の男子高校生に蹂躙される女子高校生たちの姿。

 見ているだけでも胸糞が悪い。最悪の展開を迎えたエンディングの一枚絵を。



「こんなイラストを異性と一緒に見るというこの光景に異常を覚えます」

「今更だね、工多君」


 工多の正直な意見は一瞬で踏みにじられた。


「しっかし、相変わらず残念な主人公だな。催眠術とか人質とか殺人でも侵さないと、こうしてハーレムを形成できないんだからな」

「そもそも、ハーレムが非現実的な件」


 一夫多妻とはよく言ったものである。


「……俺さ、思ったんだよ」

 谷川は顎に手を置きながら、首をかしげる。

「俺みたいに、顔もそこまでいまいちな奴がどうやったらハーレムを形成できるか。どうしたら、世の中の女どもが俺を求めるようになるかとか」

「工多がパリコレデビューするくらいあり得ない話じゃね」

「「事実だけとぶっ飛ばすぞ、メスガキが」」

 工多と谷川。上渡川の流れるようなディスりに激怒。


「そこで、俺の持論を聞いてほしい。俺のハーレム計画を」


 彼の言うハーレム計画とはいったいどういうものなのだろうか。

 スルーしようにもたぶんできそうにない。くだらない話であることに間違いはないのだが、静かに聞くことにした。




「……例えばだ。ある日、増えすぎた人類を管理するために、神様が人類を滅ぼすと言い出した。人類はどうしようもない展開に恐怖するしかなかった」

((開口一発目からフィクションかよ))


 もうその地点でハーレムの夢を諦めていないかと言いかけてしまう。


「ただし、神様は一つの条件として……勇気ある男が『●●こ』を捧げたのであれば、その粛清を取りやめると言い出した。そしてそこで立ち上がるのは俺だ。俺は一人神様の元に向かい、下半身を丸出しにし、『●●こ』を捧げた。神様は粛清を取りやめ、勇気ある俺にこそ尊い存在であり、人類に必要なものだと言い残して去って行った。その行動を讃え、『●●こ』を取り上げることもせずに」


((コレ、ギャグで言ってるのか。マジなのか))


「一躍救世主となった俺は国民栄誉賞を授与。尊き者、神にも等しい存在として崇められ、世の中の女子たちは俺に夢中ってことだ」


(●●こ出して国民栄誉賞とか、世も末だな)


 ここ最近、徹夜が続いたこともあって、きっと疲れているのだろう。

 工多と上渡川は感じた。少しばかり、先輩に甘えすぎていたのではないかと。


「……ん~。確かにヒーローにはなっているけど?」

 槇峰は違和感を覚えたのか、片手をあげて口を挟んでくる。

「だからといって、すべての女性が谷川さんに引っ付くことにはならないよ? 他のカップルとか婚約者はそこで既に絆が深まってるわけだし?」

「それはあれだ。俺以外の奴と●●●やったら、死刑ということで」

「独裁国家も甚だしいね」

 ヒーロー像(?)が一瞬にして砕け散った瞬間である。


「俺は世の中の女性を幸せにすると誓うし、すべての女性と平等に接するつもりさ」

「先生。ブスはどうするんですか」

「一人ずつ愛し、そして家系を作っていく。俺は世の中の少子化問題の解決にも動くというわけさ。救世主の道は止まらないんだよ」

「先生、ブスはどうするんですか」

「いつの日か、男性たちも俺の存在が尊いものだと知る。法律も相まって、俺のハーレム計画に従ってくれるさ」


 駄目だ、コイツ。男性とブスには人権与えないつもりだ。


「……んー、でも~? それって、谷川さんの子供だけが世の中に出回るわけだよね?」

 槇峰は再び指摘。

「となったら、その子供たち同士は法律上結婚も出来ないわけだし、恋人同士にもなれないよ? 犯罪だもん」

「槇峰さん、アンタ、弟にやってる行動覚えてる?」

「すなわち! 谷川さんは少子化問題をより加速させる元凶となっているわけなのだよ!」

 ビシっと指摘する槇峰。

 駄目だ。こいつもダメだ。二人纏めて救急車を呼んであげるべきか。



「……俺、戦犯じゃん」

((あっ、罪の意識は感じるんだ))

「いや待て。そこは法律を捻じ曲げてしまえば問題ないのでは」

((マジで病院釣れていくか))


 谷川のくだらない理論は続く。ほとんど、神様だという理由でそこらのルールを捻じ曲げてしまう、異世界主人公系な発想でそのくだらなさは限度を超えているわけであるが。


 本気で彼を病院に連れて行き、残りのメンツで仕事を頑張るかを本気で考えた。



「……谷川さん。貴方がハーレム作りたいとかいうのは勝手です」

 工多は見兼ねて、この会話に終止符を打つことにする。


「でも、“彼女さん”が近くにいるときにそれを言うのはどうかと」

「!?!?」

 

 ___瞬間。谷川の後ろに殺意。

 その場にいなかったはずの何者かの気配を、ついに感じ取ったのだ。


「……和希、屋上来いよ。久々にキレちまったよ」

「待って! ゆるして! あぁあああーーーーッ!!」


 そのまま、谷川は彼女に引きずられ屋上まで連行。

 サンドバッグにされているのだろうか。彼は救世主になるよりも先に、乙女のストレス発散アイテムとして利用されることになったのだ。


 ホー●ランコンテンスト。発生していなければいいが。



「さてと、イラストに問題ないし、休憩入るか~」

「だね~」


 上渡川と槇峰は背伸びをして、部屋から去っていく。



「……」


 残された工多は一人、イラストを見てからファイルを閉じる。



 ___こうでもしなければ、ハーレム作れないんだから。

 

 そもそも、何故こうなったのか。

 男子高校生だって、ただただ欲望を満たしたいためだけに“こんな悪夢”を引き起こしているわけではない。


 “全てはいじめ”。復讐だと口にした。

 全てを奪われた女子を相手に、全てを奪い返してやった。



「……俺も、他人の事言えないんだろうな」


 工多はパソコンの電源を切り、休憩に入るため部屋を出た。

 

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