第11話「攻略に重要なのは好感度だ。詰めろ。詰めておけ。そういう話。(後編)」


「でしょうーーーーーッ!?」



 工多の率直な質問。その返答。



「凄くカッコいいけど、実は甘えん坊の可愛いところがあったり……目元もクリっとしてて、えくぼもヤンチャな感じがあって、ちょっと控えめに鍛えて引き締まった体……あぁ! 何から何まで可愛いよぉ! 私の弟ぉ~……ぶはっ!」


 弟の魅力を語る槇峰。その途中で鼻血をまき散らす。


「ご、ごめん。鼻血出ちゃった」

「……っっ」


 この対応。この発言。工多の顔が青ざめる。

 槇峰穣という人物。その裏が明かされる。



「……気持ち悪いくらいブラコンなんですね、槇峰さん」


「気持ち悪いッ!?」


 ガッカリと肩を落としているがそれはそうだろう。


 愛が重いというか、粘着感がもう発言からして分かるというか。とにかく面倒くさい姉であることは想像できる。


美人だからこそ、その一面はギリギリ許されているとは思うが……万が一見栄えの悪い女性だったら、グレる自信は確実にある。



「まぁ、ともかく、僕を可愛がる理由ってもしかして」


 まさかのまさか。そう思うが一応聞いてみる。


「えへへ……工多君、雰囲気が弟にそっくりだから、つい」


 そっくり。

 そういわれた工多はもう一度、待ち受け画面を見る。


 イケメン。そして、画面の前には地味な男。


「ど・こ・が・?」


 イヤミなのだろうかと、工多は少しムカついた。


「雰囲気が凄く似てる! あと、目元とか! 可愛らしいところとかそっくり!」

「あ、ああ、そうっすか……」


 天然だ。そして、槇峰に悪気は一切ない。

 心の底から工多を可愛いいと思っている。本人がそう思ってるのなら、別に悪い気分ではないので黙っておくことにする。



「弟さんは今、何をしてるんですか?」

 どこの大学でエンジョイしているのだろうか。見た感じでは相当な陽キャだと思われるので、想像もできないくらいのリア充生活をしているものかと想像を膨らませてみる。


「……もう、私の手の届かないところに行っちゃったんだ」

 暗い表情で、そっと待ち受け画面を眺める槇峰。

「ご、ごめんなさい……」

 聞きづらい質問をしてしまっただろうか。工多も気まずそうに目をそらした。








「アメリカに留学しちゃったんだよぉ~ッ! 私は猛反対したのに、本場のアメリカでロックの勉強がしたいって聞かなくって……もう二年たったけど、一向に帰ってこなくて……向こうでよくわからない大人の女性にたぶらかされてないかが心配だよぉーッ!!」


「そんなこったろうとは思ったよッ!!」


 一瞬でも気まずい表情をした自分がばかだったと工多は眉間にしわを寄せた。そんな彼をよそに、槇峰は涙目で首を大きく振りながらダダをこねている。まるで子供だ。



「ダメ、だめだよっ! うちの弟にイタズラするなんて……弟を可愛がっていいのは、お姉ちゃんの特権なんだよ! それは、弟には幸せになってほしいとは思うけど、誰かにとられちゃうのは寂しいというか……ああ、駄目! やっぱりだめ! お姉ちゃん大好きな弟君のままでいてほしいんだよっ! あぁ、可愛いよっ! 小さいころ、一緒にお風呂に入って、無邪気に胸に飛び込んでくれたあの頃の表情が今でも忘れられない……あぁっ、弟! 弟! 弟! 弟ぅわああああああああああああああああああん! あぁああああ、ああ、あっあっー!! あぁあああああ! 弟うわぁあああああああああああああ!! あぁ、クンカクンカ! スーハースーハー! 良い匂いだなぁ……くーんくーんうはぁっ! 弟たんのリスみたいなその可愛らしいほっぺをクンカクンカしたいおぉ! クンカクンカ! ああ、間違えた、モフモフしたいお! モフモフモフモフ! 金髪モフモフ! カリカリモフモフ……きゅんきゅんきゅいいいいっ!!」



 す げ え メ ン ド ウ く せ ぇ 。



 マジでブラコンでダダをこねているだけだ。どんだけ弟好きなんだこの人。

 この写真を見る限り、きっと小さい頃は可愛かったのかもしれない。とはいえ、ここまで子供っぽく駄々をこねるだろうか。


 普段見ない姿だからこそ、衝撃を受ける。その姿も愛らしいのが何かズルい。



「もう、二年帰ってこないし、軽い電話だけだし……あぁ、弟エネルギーを充電したいぉおおおお……二年ぶりに抱きしめたいぉおおおお……」

「弟エネルギーってなんスカ」


 携帯電話片手に涙を流しながら訴える槇峰。結構な胸を強調するセーターは鼻血で台無しになっている。子供のように愛くるしく横に揺れ続ける。



「……ねぇ、工多君」


 急にピタリと動きが止まる。そして、槇峰が振り返る。


「私、弟君なしじゃ生きられないの。だから……」


 目が光っている。口元も歪んでいる。手元もくねくね動いている。



「そっくりな工多君を……可愛がっていいかなぁ……!」

「ひぃいいっ!?」


 ___拝啓、谷川さん。



「きしゃーーーっ!」

「ぎゃああああ!?」


 ___悪い事ではないと言いましたよね。



 ___まぁ、確かに、槇峰さんみたいな可愛らしい美人さんに縋られるのは嫌な気分じゃないし、男としてはむしろうれしいです。役得です。



「よしよしよしーーーっ!!」

「た、たすけっ……」



 ___でも、やっぱり。

 ___ちょっとばかり。僕には荷が重いです。はい。



 ___槇峰さんの満面の笑み。背中に伝わる感触。それにつきましては……ごちそうさまでした……

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