第4話

「サニーフィールド神父」


『お疲れ様、どうだいそちらの様子は』


 電話口の向こうから聞こえてくるサニーフィールド神父の声はいつも通り落ち着いていた。


「…本当にあの男で大丈夫なのですか?」


『…はは、ハーブ神父は確かに素行は悪いがね…“異端狩り”の腕は一級品だよ…腕は立つ…悔しいほどにね』


「…貴方よりもですか?」


『はは、それはどうだろう』


 つくづくこの人は捉えどころがない。


『いざとなったら主の岬ケイプ・オヴ・ロード本隊が駆けつけるさ。チヒロ君には職掌の範囲内で対応出来る限りのことに注力してもらいたい。護衛・哨戒任務で君の右に出る者はいないからね』


「…仰せのままに」


『…報告は以上かな?』


 そこで切ろうとしたその時、ふと脳裏を掠めたことがあった。


「サニーフィールド神父、そういえば…あの新任の神父がおかしなことを言っていました…“蛇”に気をつけろと、とある情報屋から聞いたと」


『…それは…』


 電話口の向こうに漂っていた穏当な雰囲気がふと、消えた。


「サニーフィールド神父…?」


『…なるほど…ね…ウィステリオがそういっていたのか…もしもそうだとすると…奴は無音殺傷法サイレントキリングを使う暗殺者アサシン…白兵戦のプロだ』


 無音殺傷法サイレントキリング暗殺者アサシン、市街地での白兵戦。


 シスター・チヒロは心中で舌打ちをした。


 そういった手勢との戦闘経験がない訳ではない。


 だが、大火力で押し切る自分のスタイルとは相性が良くないこともよく知っている。


『…兎も角も情報をありがとう…私の方でも裏取りと対応を急いておくよ…シスターチヒロ…貴女に善き加護のあらんこと』


「…善き加護のあらんこと」


 受話器を静かに置くとシスター・チヒロは地下室へと足を運んだ。


 灯りを付けるとその倉庫は重火器類が立ち並ぶその威容を表した。


 護衛・哨戒任務で右に出る者はいない屈指の重火器使いヘビーアームズ


 その評価はこと主の岬ケイプ・オヴ・ロードにおいて、自他共に認めるところであった。


 白兵戦…そして近距離での火力。二つのキーワードを念頭にシスター・チヒロは壁にかけてあるM870モジュラーコンバットショットガンの銃身を撫でた。


「…お姉ちゃんは…頑張るからね」


 今度こそ、守り通さなければならない。


 その遺恨を糧に私は今までの任務を生き抜いてきたのだから。

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