引き金と刃の交差。

 主水は左脇に装着しているホルスターから一挺いっちょう自動拳銃オートマチックを抜き出す。

 その自動拳銃を見たアニーは。


「あら、恋人、代えたのね。墺太利オーストリアから亜米利加アメリカに」


 主水に変な罪悪感が。


「…………。変な例えかた、止めれくます」

「あら、失礼。GlockグロックからColtコルトに代えたのね」

「相棒のGlock17は、有給休暇中なんで」

有給休暇メンテナンス中なんだ、相棒さん。それで、M1911A1なのね」

「そういうこと」

「一世紀近く戦場で闘い抜いた、いい銃よね」


 それを聞いた主水は、ホルスターから抜いた。コルト・ ガバメント、M1911A1の銃把グリップ握りながら、用心金トリガーガードの上部分のフレームに右手の人差し指を当てながら。

 銃口を下に向け、右側面、左側面を交互に見ながら、深い溜息を一つすると。


「でも、装弾数がねぇー」

「装弾数?」

「これ、弾倉マガジンに七発しか、装填できないんだよね。やる人はいないと思うけど。薬室チャンバーに弾丸を送り込んだあと、再度、マガジンを抜いて再装填して戻せば。一応、装弾数は、計八発」

「…………? で、ナニが言いたいのかしら」

「うーん。射撃技術のない人間としては、装弾数が多いほうが、ありがたいってこと。数撃ちゃ当たるてきな」


 支離滅裂な発言。

 射撃能力に不安があると言いながらも、あえて、拳銃を使用する矛盾。それでいて、その言動に不安が一切感じられない。 

 それどころか。

 ぼんやりし、役に立たなく、掴みどころがない性格。そして、人を喰ったように、いつもへらへらしている。

 それでいて不愉快にさせない、不気味さ。


「まだ、薬室に装填させてないでしょ。スライド引きなさい、待っててあげるから」


 アニーの優しい気遣いに、首を立てに振った主水は。銃口を下に向けながら、バックストラップに左手の親指と人差し指で挾んでスライドを引く――…………?


「あれ? スライドしないんだけど。あの、爺さん不良品、貸し出すなよ」


 隠すどころかモロに怪訝な顔をするアニーだった。


「…………。マニュアルセーフティがロックされてると、スライドしないわよ。そ、その、け、けん、じゅーぅ」

「…………へぇ…………」


 間抜けな声が口から漏れたのを聞いた、アニーは立ち尽くし。レイピアとパリーイングダガーを地面に落としそうになった。


「…………。マニュアルセーフティって、どこ?」


 どんなリアクションしたらいいのか? アニーはわからなかった――わかりたくなかった。

 が。

 スライドを引いて、撃てる状態にしてもらわないと。お話にならいので、とりあえず、マニュアルセーフティの箇所を教えるために主水に近づいた。

 レイピアの切先で指し示した。マニュアルセーフティの箇所を。奇襲に備え、変な動きしたら、そのままレイピアで斬撃するため。

 と、

 最低限の間合いの確保のためである。

 レイピアの全長は約1.2メートル前後。一歩、踏み込まれただけで、確保している間合いはなくなる。ただし、踏み込まれるにしても、レイピアの斬撃を躱しながら、懐に踏み込むとなるとワンモーション追加する必要がある。その動作が一秒も満たない、延長時間であったとしても。アニーの技量をもってすれば、左手に持っている防御用の短剣パリーイングダガーで、十分、迎撃可能な距離であった。



「ここ、ね」


 パッチンと心地よい解除音が。

 先ほどと同様に銃口を下にちゃんと向けて、バックストラップに左手の親指と人差し指で挾んで、主水がスライドを引くと。 


「ぉお。スライド引けた、ありがとう! そして、さようなら。アニー・ヴルガータ」


 パン!


吉祥天きっしょうてん主水もんどー!」


 近代建築版円形闘技場コロッセウムに、アニーは天を衝く咆哮を響かせながら、主水の首筋を狙って手首のスナップを利用して、左から右にレイピアの剣先を振る。

 主水は半歩後ろに下がるだけで、剣筋は宙を斬った。


「理事長のお墨付きだけのことはある。あの至近距離で、あのタイミング。それをパリーイングダガーで、防ぐとは。すばらしい、ほんとうにすばらしい、二刀流の使い手だよ。アニー・ヴルガータ」


 人を喰った、醜悪な表情。

 アニーの額に向けられている銃口。


「卑怯者」


 嫌味ったらしく抗議をした、が。それで形勢が逆転することはない。怒りませに、レイピアを大振りしてしまったことにより、アニーは自ら体勢を崩してしまっていた。

 レイピアを持っている右手は大振りにより、身体から一番遠い位置に離れてしまい。

 そして、主水の放った銃弾を弾き防いだ、パリーイングダガーも右手の大振りの影響により、レイピアと同じ様に身体から離れてしまっていたのだ。

 いまのアニーは、武器を携帯している、だけ、だった。

 逆に主水は、アニー剣筋を完全に見切り最小限で回避し、美しい凛とした立ち姿で安全圏から引金トリガーを引くだけだった。


「降参しますか?」


 瞳に炎を宿し、主水の黒い瞳を睨みつけ。


「撃てるものなら、撃ってみなさい!」


 薄い笑い浮かべながら、主水は。


「心意気もよし、と」

「…………へぇ…………」


 間抜けな声が口から漏れた。今度は主水ではなく、アニーから。

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