第3話 「ではタスクによる進捗管理を始める!」

「先生、カルテを読んでみましたが、

 冒頭とクライマックスがあるから手術の必要は無いのでは?」


「いや、君は気付かなかったかもしれないが、患者は死の淵をさまよっている、私が気づいたところだけでも44以上の施術が必要ということになった」


「えっ先生!? 44箇所も!?」


「君たちは作家と脳を共有してるわけではないから、何が足りなくて何が足りているのか分からないかもしれない、私は作家の脳の働きをある程度トレースすることが出来るから、この作品に息づいている論理的飛躍や場面の急展開なども含め、足りない描写とそれぞれの心情、そして活躍と欠陥を抱えたバトルシーンまで、手を加えるところが山のようにあることが分かる」


「で、でも、先生が分かっても、作家と脳を共有できない私たちはオペに参加できません! わ、私たちはどうすれば?」


「それこそが全作家の悩みだよ、自分の作品を知るのはその作家自身だ、だから今回、君たちにはこの作品に足りてないと思うところがあった場合、頭から最後まで、行と行の間に44のナンバーを振っていってほしい、こうすることで作品に足りないものを後から書き加えることが出来るからね」


「な、なるほど、はっ!? まさかこれがタスクというものなんですか!?」


「その通り! プロットで加筆が必要な個所に番号を振ってナンバリングし、その部分に加筆指示を出しておけば、本文的に足りていない箇所を把握して、進捗を管理することが出来る、これこそが作家に必要な技術の一つナンバリングタスクによる進捗管理法だ!」


「すごい! それなら! 番号を振ることで足りていない表現やつながっていない場面がいくつあるのかが把握できます! これなら進捗率を可視化してオペを進めることが出来ますね!」


「ああ、今回は試しに短い文章で書かれたプロットをタスク管理して見せよう、科学進化バットン・ジャンのオペ前に軽くテストを兼ねて!」



短文作例)

―――――――――――――――――――――――――――――――

「最強必殺ドラゴングレードフルバティストゥータグレネイド!」

「ぐおばああああああああ?!?! おのれ竜勇者チェンバレコフ!

 この復讐は貴様の末代まで祟って絶対許さじの運命極みだぞおお!」

「悪は、悪はほろびたのですね!? チェンバレコフ!」

「いえ、タルッカラジャ姫! この世が続く限り再び悪は現れるでしょう! この竜勇者チェンバレコフ! タルッカラジャ姫のため! 第二第三の虫魔王チャガイッチャリキュールを倒し続けることでしょう! うおおおおおおおおお!!!」

―――――――――――――――――――――――――――――――



 一同は騒然とした、書かれた文章のどこがプロットだというのか?

ほぼ鍵かっこを使った四つのセリフで構成されており、この四つの要素を見て加筆する、そんなことが可能なのだろうか? プロットとしても情報が少ないこんな栄養失調状態でバイタルを維持できるのかも分からない、だが先生の瞳には光があった。


「せ、先生、この短文は、ほぼ好きなセリフを吐いただけの死体のようなもの、それにどうやって加筆するというのですか!? プロットだったら起承転結があって、いつ、どこで、だれが、なにをして、どのように、どこで、だれと、どうした、とか5W1Hとかそういう基礎的な構文で作るはずでは? これはもはや小説の体を為していないのでは?」


 一同はこの意見に同意した、救える命を救う観点から考えてもこれは没にして次に進んだ方が絶対に良い、確かに人道的にはどんな文章にも未来があるかもしれない、だがしっかりと練られてもいない妄想に駄文に読者を付き合わせることは、そうである、この患者を野に放ったら読者はどうなるというのだ? 作家は読者のためにオペをするものでもあるのだ、一同の目からみるみる光が失われていく、だが先生の眼光は、いまだ灯は消えていない。


「君たちは見ていたまえ、ナンバリングタスクを開始する」



ナンバリングタスク例)

―――――――――――――――――――――――――――――――

1

「最強必殺ドラゴングレードフルバティストゥータグレネイド!」

2

「ぐおばああああああああ?!?! おのれ竜勇者チェンバレコフ!

 この復讐は貴様の末代まで祟って絶対許さじの運命極みだぞおお!」

3

「悪は、悪はほろびたのですね!? チェンバレコフ!」

4

「いえ、タルッカラジャ姫! この世が続く限り再び悪は現れるでしょう! この竜勇者チェンバレコフ! タルッカラジャ姫のため! 第二第三の虫魔王チャガイッチャリキュールを倒し続けることでしょう! うおおおおおおおおお!!!」

5

―――――――――――――――――――――――――――――――



先生はそれぞれのセリフの間にナンバーを振った、タスクの数は五つ、それぞれ五等分としたら、ひとつのタスクをこなすだけで20パーセントの進捗率となる。


「せ、先生!? 正気ですか!? 先生は今、この文章に対して五か所も加筆するという暴挙を示したんですよ! これじゃほぼ先生が一から書くようなもの! そうです! 一から先生が書けば、なにも問題は無いはず! このオペは取りやめて没にして、先生は新作に取り掛かってください!」


 一同はナンバリングタスクされた文章を没にしようと、生命維持装置を外して霊安室に運ぶ準備をしたが? 目を閉じていた先生が開眼し光を発する両の目!


「患者を戻せ! まだ彼は死んでいない! ナンバリングタスクも終わっていない! まだ番号を振っただけだ、ここからが重要だ! 君たちもよく見ておくんだ!」


 先生の声を聞いて一同は、慌てて患者を戻し生命維持装置を付け直した。

 先生はカラダに描かれた五つの番号に先生はマーキングを始めた、まずは患者の番号と文面をよく把握して。



各タスク指示文書例)

―――――――――――――――――――――――――――――――

1

「最強必殺ドラゴングレードフルバティストゥータグレネイド!」

2

「ぐおばああああああああ?!?! おのれ竜勇者チェンバレコフ!

 この復讐は貴様の末代まで祟って絶対許さじの運命極みだぞおお!」

3

「悪は、悪はほろびたのですね!? チェンバレコフ!」

4

「いえ、タルッカラジャ姫! この世が続く限り再び悪は現れるでしょう! この竜勇者チェンバレコフ! タルッカラジャ姫のため! 第二第三の虫魔王チャガイッチャリキュールを倒し続けることでしょう! うおおおおおおおおお!!!」

5


各ナンバリングタスク加筆指示:


1竜勇者と虫魔王が対峙するいきさつと戦闘に入る前の口上、囚われの姫

2最強必殺を受けての虫魔王の一挙手一投足、姫の目に映った力の輝き

3虫魔王の強大魔力が果てる時の衝撃に世界震撼後、静寂に佇む姫と竜勇者

4囚われの檻から姫を救い出し共に魔王城から日の出を見る二人のカット

5天高く剣を突き上げパノラマの大地を光の中に馬で走り去る二人の影、終


―――――――――――――――――――――――――――――――


 その的確な各タスクの指示を見て、一同は小説とは何なのかと、自分達の想像力の不足を痛感し、わずか五つのタスクで投げ出そうとした自分達の態度に憤った、そうである作家である以上、常に執筆を優先する、その心粋があってはじめて作家と読者というものが生まれる、書き込むことの勇気を効率や生産性で測っていたら、創作そのものの火が途絶えてしまうかもしれないのだ。


「先生、この続きを書いてくれるんですよね! それぞれの場面が情景が浮かぶようです! この作品はもう先生のものです!」


「いや、違う、ここから先は君たちが書くんだ、文章量にして千字を越えるかもしれない難しいオペになるだろう、だがこれを書ききった時、君たちそれぞれの中にある異なる想像力が発揮され、それぞれが学んできた文芸の幅というものが示されるはずだ」


「で、でも、私たちはもう先生の読者のようなものです! 作家を志しておきながら自ら筆を取らずにプロットから、各タスクに書き込むものの指示まで先生に任せっきり、この作品はもう先生のもの! 私たちじゃ、到底――――――」


「馬鹿! 君たちは一体! 何を学んで来たんだ!? この文章の連なりは!? 書いてほしいという患者の声は!? 君たちは今、それぞれが患者の声に答えることが出来る場所に居ながら、書くことをあきらめようとしてる! タイミングはいつでもあった! 文章を始めてみた時から! タスクでナンバーが振られたときから! そして今だ! 今、書かなくていつ書くっていうんだ!? いいか!? 私たちは44箇所もの加筆箇所のある患者を抱えているんだ! この作例の時点でつまづいていたら、とてもじゃないが作家として作品を完成させることは出来ないぞ!」


「で、でも先生!?」


 一同が短文作例患者を囲む中、先生は科学進化バットン・ジャンにナンバリングタスクを書き入れ始めた。

 慌てて、先生のサポートに回ろうとするが、先生のするどい眼つきに気圧された。


「もういい! 君たちはそれぞれの竜勇者という患者を抱えている! 君たちの手を煩わせれば、何百通りもの竜勇者たちがその命を失うんだ! 科学進化バットン・ジャンは私一人の手で施術をする! 君たちは君たちの患者に向き合え!」


 ふと気づくと、すでに一同の前にはそれぞれの竜勇者が存在していて、オペを待っている状態だ、タスクの数は五つ、しかし初めてするタスクによる進捗管理に、そして先生が出した的確な指示を前にしてそれに答えられるか悩める君たちは、果たして作品を完成させることが出来るだろうか?



 ※ここまで読んでくれた読み専さんや読者、先生たちには

  ぜひ竜勇者のタスク指示に従って掌編小説を完成させてみてほしい

  これは先生の願望であり色んな人の想像力

  そして文芸の幅が見たいという欲求からなので、

  まあこのタスク管理を知りたい学びたいって人は次に進んで

  科学進化バットン・ジャンのタスクナンバリングと指示表を見ていって欲しい



先生のナンバリングタスクが始まる。

44もの箇所に加筆の番号を振り、それぞれのタスクに指示書きをする。

たったそれだけ? と感じるかもしれない、

だがそれは44の意思のあらわれだ、

これは作家ならだれでも通る道、なのかもしれない。

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