虚構調律師クモキリ
N岡
独白
僕は自分が特別だと思っていた。
自分には誰もが羨むような特別な才能があって、いつかそれが『然るべき人』の目に留まるのだと。
今自分が燻っているのは、まだ『その時』が来ていないからだって。そう思っていた。
でも同時に、それがただの慰めである事もわかっていた。
現実はこうだ。
僕は特別なんかじゃない。
『然るべき人』なんて居ないし、『その時』なんて永遠に来ない。
僕は今、燻っている。
それだけは疑いようのない事実に思える。
でも、本当にそうか?
精一杯燃えてこの程度で、しかも燃え尽きる寸前なんじゃないか?
いや、そもそも、着火してすらいないのでは?
僕は今の自分に、不満だ。
自分の居るべき場所に居ない気がする。
でも、自分のいるべき場所って?
多くの人に拍手を送られながら称賛の声を浴びる演壇の上か?
名だたる偉人達が踏みしめてきた赤い絨毯の上か?
いや、本当はわかっているはずだ。
僕は居るべくして、ここに居る。
僕はこれからどうなるのだろう。
漠然とした不安は常に感じている。
僕のような人間の末路は歴史が証明しているから。
きっと、自分の特別な才能を認めない世間を呪いながら歳を取り、下に見ていた人間達が認められていくのに嫉妬しながら暮らすんだ。
嘆き、怒り、そして絶望する。
自分がこんな所に居るのは、自分の価値がわからない『奴ら』のせいだと。
そしていまわの際に、本当の意味で理解するんだ。
自分が特別じゃなかった事を。
『然るべき人』や『その時』なんて存在しない。
それに気付いた時には、もう手遅れなんだ。
これはきっと、未来の僕だ。
だとすれば僕は何故、ここにいる?
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