第71話 探偵

 勝負を逃げる者は勝を拾えない、だが、蛮勇を誇る者は栄光を掴めない。


 昔の戦略家の教えの通り、敵を知り味方を知れば百戦危うからずというからな。ここは相手の戦力を知っておくのは重要なことだな。ならば、この任務にうってつけの奴が一人?我が陣営にいるなあ。


 ふうー、月面の裏側で探偵の真似ごとをさせられるとは、流石ご主人は猫遣いの荒さ部門がギネスブックにあれば間違いなく一位だわ、確信したにゃ。おっと、探索対象があんなところにいるにゃ、これはチャンスにゃ。

 ホールには、アラクが独りで夜空を眺めていた。無論地下の施設であるため壁に埋め込まれたディスプレイ装置が月の裏側からの眺めを表示しているに過ぎなかった。


「おー、アラクさん、こんにちにゃ」

「はて?あなたは確か、リュラーン様のお付のネコ様、どうかされましたか?」

「まあ、散歩にゃ。月面だからといってだらけていると鬼教官に扱かれることになるから体調管理はシビアなのにゃ」

「ほう、なるほど。デートですか」

「ほほう、なかなか見所がある人工生命体じゃな。よくぞ、我らの真意を見破った」

「アスタロト、あまりこんがらかるようなことは言わないで欲しいにゃ」

「ふ、照れるでない、ネコ様はドンと構えておれば良い、些末なことはあの人間にやらしておけばよいのです!」


 相も変わらず、ネコの上に跨ったままで平常運転なビスクドールのアスタロトであった。


「羨ましいほど愛されておいでですのね。なんだか気温が少し上がって来たみたいですね。エアコンの制御を確認しなくては、ふふ」

「冗談もお上手ですにゃ、羨ましいと言えばアラクさんは大変なお金持ちと聞きましたが。お金持ちになるには何か秘訣でもあるんじゃないのかにゃ?お聞かせ願いたいものにゃ」

「ああ、そうですね。御覧なさい、あの星を」


 アラクが何らかの操作をしたと見えて、ホールのデイスプレイに映し出されていた映像が切り替わると青い星がディスプレイ一杯に映し出された。


「あなたがたが、来られた星、地球、そこに全ての答えが有ります。実を言えば、大したことをしたわけではありません。私が得た物は全てあの星地球から分けて頂いたものです。少しずつ、時間を掛けて地球から頂きました」

「しかし、三十八兆円相当の財宝を得るのは大変じゃ無かったのにゃ?」

「別に大したことでは、ありませんよ。あなたのご主人さまだって、時間を掛ければ私よりももっと莫大な富を得られるでしょう。

 私には他の誰よりも時間が有ったので、時間を味方に付けただけですよ。ほんの少しの富、エネルギーと言い換えても良いでしょう。それを一年につきたった一万円分だけ貰ってコツコツと貯めた結果が三十八兆円の貯金になったという、言ってみれば身も蓋もない小銭を貯金箱に毎日入れていたらいつの間にか、一財産になっていたというだけの話です。だから、リュラーン皇子に教えても何の参考にもならないでしょうね。ふふ」

「くっ、知っていたのにゃ資産形成の手段について調べていたことに。

 だが、探偵は幾つもの事柄から真実を探し出す。そして、時には真実は一つじゃない、それぞれの真実があるにゃ。そのことをきっといつか、思い出すにゃ!

 だからこそ、ご主人、乱導竜が、勝利する未来が見えているのにゃ!」

「そうですか、玉虫色の未来がどの様に決着するのか。私も楽しみですよ、探偵さん」

「ふっ、最後に笑うのは、ネコ様よ!」


 ネコに跨りながら、ふんぞり返っても落ちないという空気の読めなさと絶妙のバランス感覚を見せるアスタロト、結構高位の魔人であった。

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