第58話 帰還

「成功みたいね、竜さん」

「ああ、通信機材、操縦装置、管制器材、火器管制装置、全て基準値内で順調だ」


 アンドロマリウスの索敵の力を応用した装置、アンドロディテクタ(仮称)のモニタを確認していたネコさんが試作宇宙船が無事地球周回軌道に到達、周回を開始したことを教えてくれた。

 モニタには、この星を周回する緑の光点が映し出されていた。しばらく眺めていると俺のスマフォに着信が入った。

 この世界では、残念ながらまだ無線通信技術は普及していなかった。替わりに俺はブロックチェーン技術を応用した通信網を開設した。ただし、現段階では俺と通信できるのは、スーパーノードであるナルシュなどの限られた人間しかいなかった。だから、大凡通話相手の予想は着く。


「ああ、ナルシュか。うん、わかった。できるだけ巻き添えを食わないよう、ネズミから離れているように指示を出してくれ。そうだな、あと三、四十分で始末を着けるからもう少しの辛抱だ」

「頼みますよ、師匠!」


 通話を切った俺は、ネコに重要な指示を与えた。


「よし、ネコ。全て順調だ、後はこちらから合図したら大気圏再突入だ。目の前のモニタの中央の赤い四角にネズミを捉え続けていれば後は機械が勝手にやってくれるはずだ。帰って来たらお前の大好物を腹いっぱい食わせてやるから、最後までミスるんじゃないぞ」

「ご主人、こんなところでフラグ立てるとか止めて置いて欲しいにゃ。でも、これだけ頑張ったからには、ご馳走は絶対にゃ」

「よし、ネコ。時間だ、帰還ミッションスタートだ!」


 その頃、ナッキオ群島の北部の島の港を睨む位置にいるペンタクルス号では、J船長がご機嫌に吼えまくっていた。港に並べられた漁船や、軍船が面白いように火花を飛ばして燃えていく。船を超えた砲弾は、人家をなぎ倒し火災の渦に巻き込んでいく。狼狽え、泣き叫ぶ住民の悲痛な声が聞こえる様で実に心地よい気分に浸っていた。


「おーし、全弾命中だな。お前らもやれば出来るじゃないか。よし、次だ。まだ煙を吐いてない船に当てろよ、全弾撃てー!」

了解アイサー全弾発射オール・ファイヤー!」


 ペンタクルス号乗員の誰しもが戦果に酔いしれる頃、見張り員からの警告の声が上がった。


「船長、火の玉がこっち向かってきます!」

「何だとー!」


(何、この途方もない魔力は何処から?この速度は?え、上から? Jを守るには遅すぎる、三重障壁、くっ、うわー)

 トっプン、ペンタクルス号から大き目のワインボトルが海に落ちて沈んでいった。


 高速で飛来する火の玉がペンタクルス号の上空を通過する寸前、ビー玉ほどの何かが凄まじい光と熱を放射して膨れ上がり、その直径が五百メートルにまで達すると嘘のように消失した。凄まじい魔力の残滓だけを残して。


「成功のようね、竜さん。凄まじい熱量だったけど、一瞬にして魔力に変化して世界に吸収されたわ」

「ふ、これで。ナルシュの所にちょっかい出す海賊もいなくなるだろうしな。一石二鳥だったよ」

「お、丁度いい所にナルシュからだ。どうだ、そっちは?」

「いやあ、師匠。謎の海賊船は跡形もなく消えました。しかし、漁船や街をそっくりそのまま複製してしまうとか正直驚きましたよ、師匠の作戦には」

「まあ、知らない奴には思いつきもしないだろうな。まさか砲撃した船や町が偽物だったなんてな。確かにそれを知ったら心底驚いていただろうが、生憎犯人たちは今頃海の藻屑だからな、教えてやりたくても出来ない話だ」


 そう、ペンタクルス号によって破壊された船や町は予めアンドロマリウスの複製デュプリケートによって生み出された偽物だった。


 轟音と共に、宇宙船の試作機が発着場に帰って来た。


「ご主人、とことん疲れたにゃ。本当に今日という今日は、たらふくご馳走食べさしてくださいにゃ」

「ああ、テスト飛行のレポート提出が終わったら、お望み通り食わせてやるよ」

「ええ、労働基準法に違反にゃ、猫遣いが荒いにもほどがあるにゃ、七代祟るにゃ!」

 

 一旦海の底に沈んだワインボトルは静かに浮かび上がると、海流に流されていった・・・・・・


『見つけた。虐げられし者、心に闇を抱えた者よ、待っておれ我が傀儡となりて暗黒の世紀を紡ぎ出さん』


 波間を漂うビスクドールの碧い瞳には、肉球で操縦するシャム猫の姿が映っていた。


 その事件の数日後、海を漂うワインボトルが浜に流れ着いた。浜に放り出された拍子にワインボトルは砕け散ると、そこには小さな人形があった。あの金髪に碧眼のビスクドールだ、だがJに抱かれていた時よりは明らかにその身体は縮み今の身長十五センチほどというところだ。

 浜辺を散歩していた、一匹の黒いシャム猫がそれを見つけた。


「にゃ、にゃ?綺麗な人形にゃ。これはいい物を見つけたにゃ」


 遥か彼方の西の大陸で、無数のウジが蠢く中、一際大きな一匹のウジがその一部始終をじっと見ていた。


(もう間もなく扉は開かれん、そうこの世界への浸食を止められる者は誰も居ない)

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