第54話 地上げ

 さて、スピードと複製能力デュプリケートを活用した知恵の勝利で新たに炎の力を手に入れた。

 試作段階の宇宙船の発射場は出来れば人里離れた離島、砂漠のど真ん中、あるいは、岬の突端とかが望ましい。まして、自国の都市周辺に設置するのは万一の事故を考慮すると安全面及び政治情勢に鑑みてまずいよね。

 一度事故が起これば大惨事に発展する恐れがあるのだから、逆に言えば敵性国家の領土内に設置できるのなら色々な意味でベストな選択だろう。普通は最新の技術情報が外国に漏れるのを嫌って自国の辺鄙な場所に研究所とかを建てるとか、原生林の奥に秘密基地を作るのだろうが、今回は場所を南西にある隣の大陸に決めた。


「乱導竜が命ずる出でよ、ワーヒドセーレ、イスナーニセーレ、サラーサセーレ、アーバカセーレ!」

「お呼びに参りましたご主人様、(あーあ)、(やってられないよ)、(またどうせ貧乏くじ)、(なんで俺ばっかが)}


 ふふ、いつもの召喚そうそうの愚痴が言葉に出ている失態もこ奴らの味なのか?もはや様式美にも似て嫌だけど聞かなくては済まないものだな。

 俺の左腕の腕輪に装着された真鍮の壺から漂う煙が人型に集まる。魔界一の速度を誇る双子の美青年魔人が、オリジナルとアンドロマリウスの複製デュプリケートによって生み出された模造品の合計二組現れた。

 

「よし、お前たちにはこの服を着て貰ってある任務について貰う」


 俺は真黒なフード付きの全身を覆うマントと目だけを出したマスクをセーレ四人衆に渡した。いわゆる何処から見ても死神スタイルだ。もう、諦めたのか素直に服を着る魔人たち、ただし愚痴を言うのだけは止められないようだった。


「なんて凶悪な格好をさせるんだよ、ご主人様はよう。(やっぱ、俺なんか運に見放されてるよなあ)、(いつだって、貧乏くじを引くのは俺だったよな)、(なんで、働き者の俺が死神の恰好何てやんなきゃなんないんだよ)、(もう、やってられないよなあ)」


 俺も気が滅入る、美青年魔人の愚痴は無視して地図を広げながら説明を事務的に開始する。


「では、時間もないことだしお前たちの今回の任務だがここから南西にあるユスキュー大陸のこの南端の岬周辺を制圧してもらう。今回変装して貰って判るとおり、我々の正体については住民に悟られるなよ。万が一の場合は、残念だがわかっているな」

「ご主人様の仰せのとおり。(またー汚れ役かよ!)、(損な役回りばっか)、(もう、涙も出ねえ)、(お、俺なんかどうせ・・・)」




「ネコさん、無味無臭で魚を食べたら腹を壊すような毒は無いかなあ?」

「また、変な物をねだるのね。無いこともないけど、結構面倒くさいのよね。毒の精製となると。そうね、ここはギブアンドテイクであの複製魔人を少し貸してくれるのならやってあげるわよ」

「わかった、じゃあ。乱導竜が命ずる、出でよアンドロマリウス!」

「お呼びにより参りました、ご主人様」


 左腕の腕輪に装着された真鍮の壺から、綺麗な女性の魔人が現れて俺の前で膝をつく。

「ああ、しばらくこのネコさんの仕事を手伝ってくれ。アンドロマリウス」

「うっ、かしこまりました」

『・・・・・・嫌ですよと言えないのが、こんなに辛いとは』

 椅子に座って優雅に紅茶を飲むシャム猫であるネコさんを睨みながら魔人はとても嫌そうに頭を下げた。



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 後日のこと


「ほう、あのような呪われた漁村を買いたいとはよほどの物好きな方ですね?」

「いや、なに。これでも腕には自信があるし、ここは景色も良い、あの岬から海を眺めながら飲む酒はさぞかし美味かろうと思ってな」

「まあ、正直にもうせばあそこの扱いに困っていたのも事実、腕の良い漁師がいて恵まれた漁場も近いと結構稼がせて貰っていたのですが。最近では獲れた魚を食べた方が大勢病に罹ったとか。

 死神が飛び回っているのを何人も見たなどと、出ていく者が相次いで廃村も同然の漁村となってしまいましたものを」

「これは、正直な方ですね。まあ、それなりに手入れや別荘を建てるのも費用が掛かりますからね。こんなところで、どうでしょうかね」

「え?これは。漁村として活気があった頃の半分の価値で買って頂けるとは」

「まあ、私が呼ぶお客様とかは派手なことが好きな人が多いのでね。夜中に花火とか、五月蠅い楽器の演奏とかされるので。今後そういった騒音とか建築や増築などにいっさい苦情を言わないという特約を付けた値段だと思ってもらえば。いわば迷惑料の先払いですね、本当うちの者たちは賑やかなのが好きなのでね困りますよ、ははは」

「なるほど、ではその条件でお売りいたしましょう。後になって買い戻してくれと言われてもこんな高いお金は出せませんからね、はは」


「ご主人、どうしてくれるにゃ!」

「おお、ネコかどうした」


 俺の飼っている下僕ペットでシャム猫の癖に遺伝異常でほぼ真黒なネコが、俺に訴えてきた。


「なんの話だ、ネコ?」

「折角の獲れたての新鮮で美味しい魚に、毒を振りかけて回って。おまけにそれを食べてのたうち回る人たちの様子まで確認してきた、この非情のスパイにして最強の隠密が、美味しそうな魚を見ても怖くて食べられないなんて、どうしてくれるにゃ!」


 ああ、なるほど。よくあるPTSD(心的外傷的出来事)だ。だが問題ない、本人が納得すれば快方に向かうだろう。


「あの毒は魚の肝から抽出した物だが、特別な処置で致死量になる前に毒の効果が消える特別の魔法が掛けてあるからな。見た目ほどはひどくはならん。魚が駄目ならしばらく肉を食っておけ。贅沢なお前のことだ、肉に飽きたから魚が食いたいとかどうせすぐ言うさ」

「うーん、なんかそんな気がする自分が愛おしいにゃ」


 何はともあれこうして、ユスキュー大陸の南端の岬周辺は俺の支配地となった。

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