第52話 訓練

 物凄い勢いで紅蓮の業火が青いドレスを着た少女に迫る。

 少女は、さして気にも掛けずに右手を振る。

 辺り一面は、氷に閉ざされた世界となった、今にも消えそうな炎を纏う女の周り以外は。

 (くっ、ならば。これならどう?)


 女は両手を天にかざす、たちまち雷雲が頭上に現れ無数の轟雷が青いドレスの少女に殺到する。

 少女が右手を突き出す、少女の前にスイカぐらいの大きさの漆黒の球体が現れた。天から落ちて来た轟雷は全て漆黒の球体に飲み込まれていった。


(ま、まだよ!)


 女が視線を少女の足元にやると、地面から無数の岩石の鋭い槍が少女をくじ刺しにしようと襲い掛かる。

 少女の周りを真空の刃が縦横無尽に飛び交い、岩石の槍衾を粉砕していく。粉々に切り裂かれて小石なったものが風の渦に巻き込まれて女に迫る。当たれば人間ミンチになるだろう風のミキサーだ。

 

(ちぃ、まだ。まだ奴には届かないのか。私は何度でもやり直す、諦めたりはしない。だからこれは再び始めるための撤退!)


 形成不利を悟った女は、音速の何倍もの速さで空の彼方へ消えた。


「へぇー、割と速いのね。で、も。」


 女は声の方に振り返った。

 少女がいつの間にか、女の後ろに居た。少女は死神の持つような不気味な鎌を振り抜いた。空気を裂く音と共に女の首が真っ赤な血とともに地面に転がった。


「じゃあ、返して貰うわね。貸していた私の力を」


 少女は、女の頭から見える様に位置を調整すると女の肺を心臓を、腸を食べていった。

「い、いやー」

「ネコさん。珍しいね、うたた寝なんか」

「・・・・・・ あ、りゅ、竜さん。まあ、誰かさんが色々と難しくて面倒な仕事を押し付けて来るからサービス残業で寝不足なのよ。きっと」


(ばれる様なことは言ってないわよね、それにしても遠い。奴の七十二の力を全て奪わねば、それにはこいつをまだまだ利用して・・・・・・)


「え?まあ、いつもお世話になっております。で、今日はテストパイロットに就任したうちのネコの操縦訓練に付き合って貰いたいんだけど、明日にした方がいいのかな?」


「しょうがないわね。でも超過料金は貰うわよ!」


 溜息をつくと、ネコさんは追加料金を提示してきた。まあ、仕方ないので俺は前金で支払った。こういうのは先延ばしにするほどヤバくなる、悪魔に魂を取り立てられるよりは金を払った方が世の中スムーズに行くものさ。


「ところで、訓練よね。当然、竜さんも参加必須なのは理解してるのかしら?まあ、強制参加だから答えは聞かないけど」

「え、なんで俺が?」

「それは、効率のためね。試験飛行テストフライトで竜さんのホムンクルスが生還しても竜さんには何の経験も残らないわ。それと、何回飛行フライトするか知れないけれどその度に訓練するのも面倒よ。だから、竜さんが訓練に合格すればその後に誕生するホムンクルスは皆訓練合格者よ!凄く効率的でしょ。うふ」

「今日は、ちょっと調子が悪いからネコの分だけ訓練を進めてくれよ」

「だーめ、いざというとき竜さんが命賭けないと下の者は付いてこないわよ。はい、これに着替えて」


 ああ、つまらないこと考えなきゃ良かったか。別に只飯食いを懲らしめるための罰にテストパイロットをさせなくても、無人機でテストをやっとけば良かったのに、あー俺のバカ、馬鹿。


「はい、2回目行くわよ。セーレさんたち、三000メートルから五00メートルまで急降下してね」

「わかりました」、「わかりましたよ」

「ご主人、もうやめさせて欲しいにゃ」

「お、おい。もういいって」

「まだよ!」


 俺とネコは大きな気密性の箱の中で、何度ももみくちゃにされた。天地が逆さまになり、天井に張り付いて浮かんでいたり、上昇するときには地上の数倍の体重が重く圧し掛かる苦難を経験した。

 何回も胃の中の内容物を吐いたりもした。


 俺とネコはこの後三回、つまり都合五回ほど急降下による疑似無重力の体験をさせられた。もう、胃の中のムカつきも慣れたのかマヒしたのか感じなくなっていた。


「じゃあ、主パイロットさんはネズミのマークに光点を合わすように操縦かんを動かして。竜さんは、副操縦士なんだから計器のチェックをさっさとやる。もたもたしてると、死ぬことになるわよ!」

「了解、数値全て正常、カウントダウン開始、五、四、三、二、一、逆噴射リバース


 地上での模擬装置シミュレータ訓練を追えたのは、夜になってからだった。


「お疲れ様。まあ、自動操縦装置を完璧に作れれば必要ないんだけど。流石に試作機から完成品を望むのも図々し過ぎるわよね」

「教官ありがとうございました」

「教官ありがとうございましたにゃ」


「じゃあ、明日もがんばりましょう」


 ネコさんの凄くご機嫌な声に二人して震えあがるるのだった。

 俺たちは、悪魔の教官をこの世に召喚してしまったのかも知れない。

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