第14話 市場

「へい、安いよ、安いよ!今朝着いたばかりの魚だよ。アイドコの北の海で取れた身が締まった魚だよ、塩焼でも煮つけでもいけるよ。こっちの貝も大きくて美味しいよ」


「おっ、美人の奥さん。こっちの野菜と芋を買ってきな、今晩のおかずに丁度いいだろ、安くしておくよ」


「安いよ、安いよ!今焼き上がったばかりの栄養満点、魔物の串焼きだよ。さあ、買った買った!」

 娼館を出て、マリアに教わった道を暫く歩くと威勢のいい商人の呼び声が聞こえてきた。ほお、結構賑わっているな。


「どれ、一つ試して見るか。そこの魔物肉は脾臓シビレだな?一つくれ」

「へい、代金を先に頂きますね」


 南方から来た男は、懐に手をやった所で気付き、仮想通貨を試すことにした。

「アカウントオープン」

うん?


「オヤジ、代金はいくらだ?」

「ああ、あんた随分遠くから来たみたいだね。仮想通貨の口座は持ってるみたいだし。物の売り買いをするときは、『アカウントオープン』なんて面倒なことしなくても。いいかい、こう言うんだよ。で、もしも万が一、値段が気に要らなきゃ値切って貰っても帰って貰っても結構だ。じゃあ、こう言うんだよ『トレード』」


「こうだな、トレード!」

 言った瞬間、頭の中にいろいろな数字が浮かぶ。まとめ買いの場合は串焼きの単価、10本分の値段で11本買えるとか。|霊子(レイス)で直接購入する場合は必要ないが、SNGのように他の仮想通貨を決済で使う場合は税金の他に交換手数料が掛かるため若干の割高になること。


 それぞれの購入後の予想残高も表示されていた。また、一定の信用があれば利息を払って借金して購入することも可能になっていた。


 ほう、なんという便利で商人に有利な機能だ。よし、美味そうだし3本、SNGで買おう。


「だんな、毎度あり」

「しかし、仮想通貨というモノは便利だな」


「そうすね一年前から、ここドーエ共和国では税金は物の売買やサービスに関してだけ掛かりやすから。そして、納税は仮想通貨の霊子で自動的に徴収されやすから手間もなく、納税額も少なくなって逆に暮らし向きが良くなりやした。


 まあ、徴税役人どもは職を失くしたり、不正に利益を隠していた大商人や悪い貴族なんかは何倍もの税金を取られて勢いを無くしまいやしたが、あっしら真っ当な商人は万々歳でさ」


「ほう、税金が安くなったと?」

「まあ、昔のやり方じゃ。いろんなところで役人が賄賂を取ったり、そもそも仮想通貨を使えば不要な徴税役人に払う給与も無くなりやすからね」


 ふむ、ドーエ共和国は仮想通貨の導入と大胆な税制改革で飛ぶ鳥を落とす勢いか。これはハナ王国にも導入を検討すべきか?

 

 南方、いやハナ王国から来た男は、色々な店を訪ね気になった商品や事項について質問しながら、己に自問自答していた。

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