優しい怪物のお話

佐渡 寛臣

優しい怪物のお話 1

 街の裏手の深い森に、インディという名前の怪物がいました。

 赤い毛皮に大きな身体のインディは街の人から怖がられていました。


 でも、インディも街の人を恐れていました。子供はインディを見たら泣いてしまうし、大人はインディを追い掛け回すし、インディは人間が怖くて怖くてしかたがありませんでした。


 ある日、森の中で、インディは一人の少女が倒れているのを見つけました。


(人間は怖いけど、でも放ってはおけないし)


 インディは仕方なく、少女を抱きかかえて家へと帰りました。

 女の子を家へと連れて帰って、インディは悩みます。

(どうやらこの子はおなかをすかせているみたい。そうだ、魔法使いのおばあさんに相談してみよう)


 木々を飛び越えて、インディは森深くのおばあさんの家を訪ねました。


「おや、ひさしぶりだね。インディ」

「おばあさん、森で女の子を見つけたんだけど、元気がないんだ。どうにかしてよ」


 おばあさんは少し困った顔をしました。それからにっこり笑って、


「魔法使いにもできることとできないことがあるんだよ。私があんたにしてやれるのは、おいしいシチューの作り方を教えてやるくらいさ」


 おばあさんはそう言ってシチューの作り方を教えてくれました。

 お礼を言って、インディは家へと帰りました。

 インディが家に帰ると、少女はまだぐっすりと眠っています。インディは今のうちにと、おばあさんに教えてもらったシチューを作り始めました。


 インディの家の中が、シチューの良い匂いでいっぱいになります。


 そのとき、少女が匂いに気付いて目を覚ましました。


「すごくいい匂い」

 少女のおなかがぐぅっと音を立てました。


 キッチンではインディがシチューを仕上げ、お皿に盛ろうとしていました。

「これを食べれば、きっと元気になるぞ」

 インディはにっこりと笑って、お皿にシチューを盛りました。


 すると、後ろから少女が声をかけました。


「あのぉ、誰かいませんか?」

「わぁっ!」


 インディは慌てました。昔、子供に顔を見られて泣かれたことを思い出し、インディは近くにある白い手ぬぐいで顔を隠しました。


「い、いまシチューができたから、そっちで待ってて」

 インディはそう言って皿を持って、少女のところへ向かいました。


 少女はベッドで待っていました。インディはテーブルをベッドのそばに置いて、シチューを並べます。


「ここはどこですか?」


 少女に聞かれ、インディは恐る恐る答えました。


「僕の家だよ。君は森で倒れてたんだ」


 少女は首をかしげてもう一度聞きます。


「途中までお母さんと一緒だったんだけど、迷子になってしまったの。お母さんを知らない?」

「ご、ごめん。僕は知らないよ」


 少女はため息をついてうつむいてしまいます。インディは慌ててシチューを少女の前へと差し出しました。


「おなかすいたでしょ? よかったら食べなよ」


 うん、と少女は頷きましたがスプーンに手をつけません。インディはまたまた困ってしまいます。


「ぼ、僕はインディっていうんだ。君は?」

「アルマ。わたし、アルマ」


 アルマはちらりともインディのほうを向きません。インディはだんだん悲しくなってきました。

 しょんぼりとインディは尻尾を下げて黙りました。

 そのときアルマは、あっ、と声を上げてインディに言いました。


「ごめんなさい、インディ。助けてくれたのにまだお礼もいってなくて」


 ぱちくりとインディはまばたきをしました。


「君は・・・君は僕が怖くないの?」


 そう聞かれてアルマはまた首を傾げました。


「あなたは怖い人だったの? 私、目がほとんど見えないから……あなたはどんな姿をしてるの?」


 ぼんやりと、アルマはインディのほうに顔を向けました。インディの肩あたりを見つめます。


「ぼ、僕は全身が赤い毛皮で……目と耳が二つで、鼻と口が一つで……」


 それで……とインディは少しためらいながら言いました。


「みんなは僕を怪物だって……」

(そう言ってみんなは僕から逃げていくんだ。そう言ってみんな僕を苛めるんだ)

「怪物? 怪物って何?」


 アルマは不思議そうにインディを見つめました。


「わからないけど……怖いみたい」

「でもインディの声は優しいよ? それに……料理も上手みたいだし」


 鼻をスンスンと嗅いで、アルマはにっこりと笑いました。


「あ、私を太らせて食べちゃうのかな?」


 アルマはそう言ってくすくすと笑います。インディはまたまた困ってしまいます。


「違うよ。そんなことしないよ」


 うん、とアルマは頷き、優しく笑います。


「食べちゃうつもりならもっと前に食べちゃうでしょ?」


 そのとき、アルマのおなかがぐぅと鳴った。


「あ、シチュー食べなよ。食べられないなら食べさせてあげるから」


 少し照れた様子で、アルマはありがとう、とこくりと頷きました。

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