幕間 令の報告

「そうちょ~!!!」

 いつもの明るいコロコロとした声に呼ばれる。令である。

 いや、いつものようにではない。いつもは左手を振って駆け寄ってくるのに、今日は右手である。

「じゃーん!!見てください、これ!!」

 と左手を見せてきた。このためか、と一花は思う。

「綺麗でしょ~!!薫に貰ったんです!」

 薬指には指輪がはまっていた。いつも以上の明るい声で嬉しそうに言ってくる。

「綺麗ね。これ、もしかして婚約指輪エンゲージリング?」

 そう一花が言うと、令の頬が赤く染まる。

「そうなんです」

 大事そうに左手を握る。幸せそうな顔だった。

「おめでとう、令」

 令と薫が付き合っていることはみんなが知っていたことだ。しかし、まさか婚約するとは。一花でも驚いた。

(年齢的には令も16だし、薫は18だから法律的にはセーフだな)

 恋人なんていない(職務でその余裕もない)一花は呑気にすごいなあと思っていた。

「ふふっ。ありがとうございます!」

 ニコニコと花が咲いたように笑う令をみて、一花もなんだか嬉しくなった。

「あっ、あのっ!あのですねっ!」

 令が急に真剣な顔になる。よくこんなに表情をコロコロ変えられるなと一花は思った。

「みんなには言わないでもらいたいんです……もちろん優姉ゆうねえにも。青春副長にもっ!!とにかくみんなを驚かせたいんです!!!」

 いつものように一花の顔を覗くように見上げ、お願いっ!と手を合わせている。

「ダメ……ですか?」

 首を傾げてくる。こんなにかわいいのだ。薫が溺愛するのもわかる気がした。

「もちろん。いいわよ」

「ありがとうございます!!やったぁ~」

 パアっと令は顔を輝かせる。

「あ、薫には総長に言っちゃったこと言ってないんです。だから、薫にも……」

「わかったよ」

「ありがとうございます~!私と総長だけの秘密だ~!!」

 えへへと笑う。

「それにしても、私もびっくりしてるんです。まさか、プロポーズされるなんて」

「そうなの?」

「はいっ!私、いつ指輪買ったのか知らないですもん」

「そうなんだ」

(そういえば、この間の休みの時に街に1人で出かけていたような……。この子には言えないけど……)

「そうなんです!いつからプロポーズ考えてたとか教えてくれないんですよ!」

 令は早口でそう言う。一花が色々思案していることには気付いていないらしい。もっとも、一花にとっては気付かれていない方がいいのだが。薫のためにも。

「総長」

「ん?」

 真っ直ぐな真剣な目で一花を見た。

「私、幸せになりますね」

「うん」

「必ず、幸せになります。色んな人のぶんまで」

「うん」

 優しいこの子のことだ。きっと、亡くなった人ことを考えているのだろう。一花は令の頭をポンと撫でた。

「あんまり、無茶しないこと。令はすぐ無茶するから」

「はぁい」

 また上目づかいで見られる。私にはこんなあざとさは無いし、こんなことはできないなと令のこと感心した。

「じゃあ、行きますね。薫のところに戻らなきゃなので!」

「早く戻ってあげな。薫が喜ぶ」

「はいっ!失礼します」

 そう言って嬉しそうに走っていく令の後ろ姿を一花は微笑んで見ていた。

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