第四章 さらば 平成ヤマト その2

通し番号十七海外引っ越しの難ーー平成30年7月から9月末までの為(2)



ーードイツから振替送金をさせようとしてーー


さて、この間の生活費ですが、帰国時には口座はむしろマイナス状態で息子に借金する始末だったのが、次第に年金が入るとは言え、十月の渡独の飛行機代金と海外引っ越し代金はさっぱりありませんでした。


日本の景気が低空となり、国の借金が増え続けた平成時代、あたしたちの収入はなんと年々減っていったのを、JBが老後のことを考えてそれでも少々ドイツに送金しておいた虎の子がありましたが(退職後、医療費などかさむので年金だけではとうとう暮らせなくなり、すでにそれに手をつけ始めていたのですが)、ドイツから日本への振替制限額では足らず、なんども日本に送らせなければならないことになりました。さあそれが精神的に大変なのです。


普通、簡単なのは振込用紙をドイツの銀行からもらってあるのでそれにユーロで金額とかサインとか書いて送る、するとおおよそ1、3倍になって得するような感じの円の金額がゆうちょの口座に入ります。その後ゆうちょからこれこれという通知のハガキがきます。


あたし名義の口座から口座へ振込をするのです。つまりドイツ名の口座から日本人名の口座へ。別人という取り扱いです。このやり方でも失敗は多く、例えばサインをうっかり違う書体で書いてやかましい手紙がきたり、位取りを間違ってうっかり送金額を大金にしてしまい、慌てて送り返したり、生きた心地はしません。


この方法は、単にJBがものぐさなのであたしにやらせていたということだったのですが、今回、あたしのドイツの口座が空っぽになったので、ドイツのJBの口座から日本のJB(カタカナ名)の口座へ振替えようとしたところ、音沙汰がありません。


苦悩です。大変です。

しかしふと、啓示のように勇気を出し、電話して(もちろんパスワードのようなものが必要で、JBのものが不明状態なのであたしが国際電話するんです。あたしのパスワードで)みたところ、また書き送ったらいいと超簡単に言うのです、若い男の声が。


もう一枚送って要請しました。ところがまたもや失敗、宛先国を書き損ねたのです。どうなるか。ミュンヘンという都市名は有名だからわかってくれるだろうと期待するしかありません。


ところがその日、1枚目の振替申請に関して文句の手紙がドイツから届きました。

JBのサインの書体が登録されたのと異なるという判定をコンピューターが出したというのです。以前に書いたもののコピーがあったので比べてみると、寸分違いません。


そこでまたもやテレフォンバンキングということになるのですが、1回目は何かの間違いか、あるいは担当の女性が親切だったのか、自分の口座以外の口座の情報を質問したのに教えてくれました、そんな処理は全くなされていませんと。

1枚目のはやはりダメだったのです。それでJBと話し合い、また同じ手を使って、あたしが電話し、JBの口座から送金を依頼することができるかもと試したのですが、今回は別の女性にきっぱりと断られました。そりゃそのはずです、そうでなければ詐欺が横行することでしょう。


しかしこちらは大変です。お金が手に入りません。

その頃には日通との契約が進んでいたのです。母の遺産の虎の子を使う気はありません、JBはもちろんそれを使うつもりだったのですが、ここは頑としてあたしも譲りませんでした。そんなこともあろうかと、生前贈与を開始していたのですから。


そうしたところ、天の計らいかJBが自分のパスワードを見つけました。

さあこれで次の時間帯にはJBが電話する番だという夜のこと、ドイツポスト銀行からついに電話がかかってきました。


そしてJBが応対したのですが、送金先の口座の名義人が不明である、同一人物なのか理解できないと言う内容らしく、あたしの場合だと日本人だから苗字が違うことはありうるが、とでも言うのでしょうか、呆然としているとすぐに手紙が着きました。しかも2通も。同じ内容です。

つまり、2通目もドイツ行きと書き損ねたけれどもなんとかドイツについたけれども、この理由でアウトなわけです。


向こうは親切で、あるいは正確さを期していたのでしょうか、確かにJBの口座名義はカタカナなのを無理矢理に知ったかぶりの誰かがローマ字に直して理解しようとしたらしく、その割りには自分のしたことの馬鹿らしさがわからなかったのかも。


それでやっと、JBの電話初登場です。若い男の声で、こちらは超緊張しているのに、超簡単そうな取り扱いで、2通目の要請は通してもらえてラッキー、でもそれだけでは不足なので、調子に乗ってまた百万円になるよう送金を頼むと、テレフォンバンキングでは一回25万円が限度だと言うのでそれを3回頼むことを受け入れてもらい、あとは送金を待つのみとやっとの事でなったのでした。やれやれ、流石に同じドロ舟の二人は顔を見合わせたのでした。


しかし、すでに日通に支払いをしないと船荷が出発しないと言う日になっていました。

やれやれ、あたしは薬をもらいに行ったついでにコンビニにより、一度試してみよう、無理だったらできませんとかATMが言うだろう、と気軽に80万円以上を振り込みと言うボタンのオーケーを押しました。

できました。


すでに出発の9月30日が近づいていました。ホテル代は現地払いです。

ホテル代、の意味は、借家からベッドも無くなってしまえば空っぽの家、そこになお暮らすことは、たとえ一晩であっても重病人、と言うか半死半生のJBには無理なので駅近くのホテルに移るし、またフランクフルトに着いた時も一泊余裕がいるだろうと思ったからです。


これは、海外転居が理由ではなくJBがいなかったらしないことなのです。


送金問題には相当心臓が参ったらしく、あたしの動悸や息切れが増えました。



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