第56話:同士討ち

「敵が同士討ちを始めて逃げ出したぞ、追撃だ!」


「「「「「おう!」」」」」


 使い魔にレディング辺境伯勢を見張らせていたソロモン陛下は、レディング辺境伯が寄り子の家臣を殺したのを、即座に知ることができました。


 そのまま勝敗がつくまで戦わせるのではなく、混乱に乗じて攻め込み、一気に勝負をつけようとする策をとられました。


「降伏する者は許して領地に帰してやる。

 家臣になりたい者は、迎え入れ召し抱えてやる。

 無能な寄り親の所為で殺されるのは嫌だろう?

 寄り親が暴走して多くの寄り子が殺されているのに、何もせず王都で酒池肉林に興じている王に仕えても、何時見殺しにされるか分からないぞ!

 このまま王都や領地に戻っても、改易にされて路頭に迷うだけだぞ!

 余の家臣となれ、余ならお前たちを守ってやれる!

 余はお前たちを絶対に見殺しにしない、余に仕えよ!

 余に仕えたい者、生きて家に帰りたい者は、その場に伏せよ!

 生きて家族に会いたい者は、武器を捨ててその場に伏せよ!」


 ソロモン陛下が自信満々に、レディング辺境伯の寄り子だった貴族士族に、貴族士族が捕虜になっている家の陪臣に、言い切られました。

 ソロモン陛下だけでなく、家臣たちも口々に降伏臣従を勧めます。


「陛下の家臣になりたい者は、武器を捨ててその場に伏せろ!」


 レディング辺境伯が欲望を満たすために始めた戦争に、無理矢理駆り出された貴族士族やその家臣たちは、ソロモン陛下の捕虜になるか家臣になるか迷いました。

 少なくとも、レディング辺境伯の為に戦おうとだけは思わなかったでしょう。


「殺されたくない者は、武器を捨ててその場に伏せろ!」


 特に陪臣士族でもない者達、普段は農民や猟師として暮らしている、強制徴募された雑兵たちは、即座に武器を捨てて降伏しました。


「生きて家族たちの所に帰りたい者は、武器を捨ててその場に伏せろ!」


 率いている雑兵たちがその場で武器を捨てるのを見てしまったら、自分だけが精強無比のバーンウェ伯国騎士団に狙われると悟ったら、並の陪臣士族や卒族に命懸けで戦い続ける覚悟など残りません。


「王や辺境伯に不満がある者は、武器を捨ててその場に伏せろ!」


 レディング辺境伯直属の家臣、直属の騎士や卒族だけが戦い続けようとしましたが、その配下である雑兵は、武器を捨てて命乞いを始めました。


「陛下の民となり、農地を貸し与えて欲しい者は、武器を捨ててその場に伏せろ!」


 普段は尊大にふるまっていた、レディング辺境伯の寄り子貴族士族はもちろん、その家臣たちも武器をしてて命乞いを始めたのです。


「陛下の民となり、猟師になりたい者は、武器を捨ててその場に伏せろ!」


 強制徴募されて無理矢理戦いの場に連れてこられた平民が、長年重税に苦しめられてきた平民が、レディング辺境伯の為に命を賭けるはずがありません。


「陛下の民となり、木こりになりたい者は、武器を捨ててその場に伏せろ!」


 敵だった者達の99%が武器を捨て、その場に伏せてしまいました。

 立ってるのは、レディング辺境伯と直属の家臣だけです。


 敵陣の奥深くにあり、安全なはずだったレディング辺境伯の本陣が、全くの無防備となっています。


 無人の野を駆けるように、ソロモン陛下率いる騎士たちが攻め込みます。

 圧倒的な速さで、レディング辺境伯に迎撃する暇を与えません。


「防げ、何としても防げ!」


 レディング辺境伯が叫んでいますが、家臣たちの動きが悪いです。

 ついさっき、ほんの少し前に、ずっと味方だった寄り子の家臣を、戦友を、レディング辺境伯の命令で皆殺しにしたばかりです。


 全く罪悪感を感じない者などいません。

 主君の命だからと、罪悪感を押し殺して長年の戦友を殺したばかりです。

 凄惨な同士討ちで、戦友の半数が死んだばかりです。


 そんな荒ぶる感情を抱えている所に、ソロモン陛下が攻め込んできたのです。

 肩を並べて戦ってきた戦友が、レディング辺境伯を見捨てて降伏していくのです。

 主君の命で殺した戦友の生き残りが、自分達を見捨てて降伏していくのです。


 その降伏が正しいと証明するかのように、自分たちの戦友殺しが間違っていたと証明するかのように、レディング辺境伯は死が確定している迎撃を自分たちに命じて、1人逃げ出したのです。


 この状況で、その場に踏みとどまり、レディング辺境伯の為に決死の戦いができる者など、100人に1人もいないと思います。


 現に、レディング辺境伯と共に最後まで戦う覚悟をしていた直臣騎士までが、武器を捨てて降伏の姿勢を示しました。


「卑怯で惰弱なレディング辺境伯を生け捕りにするぞ!」


「「「「「おう!」」」」」


 ソロモン陛下が家臣たちに命じました。

 その言葉が、とっさに降伏してしまった、それなりの忠誠心と勇気を持つレディング辺境伯家の士族や卒族に、降伏が正しかったと思わせました。


 自分達はレディング辺境伯を見殺しにした訳ではない。

 戦争には負けたが、殺される事はない、捕虜にされるだけだ。


 レディング辺境伯家ほどの権力と財力を持つ貴族家なら、ソロモン陛下が要求する身代金くらいは払える、だから見殺しにした訳ではない。


 下手に抵抗をしたらレディング辺境伯が殺されていた。

 自分たちが降伏したから、レディング辺境伯は殺されずに済んだ。

 レディング辺境伯勢の貴族士族卒族にそう思わせました。


 これで、降伏した兵たちに背後から襲われる心配がなくなりました。

 ソロモン陛下が事前に考えられていた策通りになりました。

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