OLが転生して馬に!?第2王女に気に入られて大出世!?人に戻され学園に通うぅう!?

いちごめろん牛乳

第1章 うまうまうまー!!!

第1話 脱毛代返せ。

「ふぁ…」



 目覚めて、欠伸をひとつ。

 最初に感じたのは小さな違和感。体の接してるところが妙に硬い。なんだ。昨日は残業で消耗が激しく、食事の後早々に自室で眠りについたはず。


(なんだか肌寒いし、臭いも...)


 仕方がないと徐々に目を開けると、やはりというか...夢なのかと思うほど普段とは違う光景。


 板張りの天井。私が背をつけてるのは地面だ。指で少しだけ撫ぜる。...土だろうか。


「......」


 その時、突然嘶きが聞こえて急いで体を起こす。


 まぁ、なんということでしょう。そこには立派な馬。馬だよ。


「ん? …んん?」


 見渡してみても、瞬きをしてみても、やっぱり馬…がいるね。てか、馬小屋かな。

 なんなのだろうこの状況は…。


「おーいどうしたんだぁスカーレット」


 大きな声と足音が近付いてくる。

おいおいおい誰か入ってくるみたいだ。


 身を隠すため動こうとするが、どうも上手く動けない。やはり夢だからか?


 扉が開くと同時に男の大きな声が響いた。


「スカーレット!!!!? お前の子か!?」


 男がこちらにドタドタと駆けてくる。身体が動かない。逃げることも叶わず、体をベタベタと触られ、ふざけんなと大声を上げようとしたんだ。



「ヒヒィィイイイン」



 その後、大男に無理やり抱えられ、あれよあれよという間に体を洗われた。


 ほう。なんだ。やはり夢か。


 よく見たら手っていうか足だな、これ。てか黒っ。めっちゃ黒い。毛深!!!! ふざけんな。脱毛したばっかりなのに。いい加減夢から覚めろ。起きてくれ私。


 あまりの状況に、冷静なのか発狂してるのか複雑な心境のまま、自分の意思と反してことは進んでいく。


 何時間過ぎても夢から覚めることはなかった。


 …あぁもう。認めるよ。どうやら私は馬になったらしい。



…。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あれから1週間。分かったことは、やはり私は馬だということ。


 それとスカーレット…母(馬)とは意思疎通ができた。それも産まれてすぐにだ。野生の本能というやつだろうか。飼い慣らされてるみたいだけど。


 ただ、人間の言葉が分からない。言葉が抜け落ちた訳では無い。言葉はわかる。しかし、私に話しかけてくるあの大男の言葉はひとつも分からなかった。


「母さん、ここってどこなの?」


「あんた何回も同じ質問するのね。うちの子ってアホの子かしら。」


 実際にはヒィンとかブルブル言ってるだけだ。

 それでも意味が分かる。やだ、怖い。


「ここは王室にある馬小屋よ」


「母さんはなんでそれが分かるの?」


「人間の話してることを聞いていればわかるでしょ?」


「全然。特に世話に来るあの大男、いつもでかい声で何言ってるか分かんなくて怖い」


「あんた産まれてからすぐベラベラ喋ったくせに、人間がなんて言ってるか分からないのね」



 とにかく、母のくせに冷たいことは置いておこう。母によると、ここは王室の馬小屋で、私は直にこの国の第2王女に面会することになっているらしい。なんでも、黒い毛並みにゴールドの瞳が珍しいんだとか。自分で見た事はないから本当に金色なのかは分からないけれど、それを第2王女様に甚く気にいられたらしい。



「え、やだ怖い」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ビビってる時間も束の間。あっという間に面会の日は来た。


 母の横に寄り添うように立っていると大男がいつもの様にやって来た。母の方に声をかけると、私は小屋の外へ無理やり連れていかれた。


 ここに来て初めての外だ。怖い。


「あんたどこに連れていくつもりよ」


「どうした?お姫様に会えて嬉しいのか?」


 なにか喋っているが、やはり全く分からない。お母さん助けて。


 多少暴れながら連れてこられた場所は、綺麗な庭。よく手入れされてるらしく花壇には花が咲き誇っている。草、美味しそう。


「ここで待っていろよ。今第2王女をお連れするからな。間違っても怪我させたりするなよ。俺はお前が大事なんだ」


 怖い顔で話しかけてくる。一頻り話したあと男は離れていった。


 そのまま野に放たれるでもなく、縄に繋がれていると遠目に人影が見える。徐々に大きくなるそれは先程の男よりずっと小さかった。


「王女様か…」


「あなたが私のお馬さん?」


「は、はい」


 程なくして王女様と思しき方に声をかけられる。

 そこで感じる強烈な違和感。今初めて言葉が理解出来た。


「え?」


「私の言葉も分かるよね。あなたの言葉も分かるのよ?」


 小さな王女様。ふわふわでキラキラ輝く金髪。顔はこの歳で完成されているのかお人形さんみたいに美しい。まだ幼さの残る少女だが話し方は確りとしたものだ。

 笑顔で話しかけてくる王女様に驚いて、ブンブン長い首を振ることで応えた。



「あなたお名前決まってないの?」


「…今はありません」


「今は?」



 しまった。変な顔をされてしまった。色々と詮索された上で、馬刺しにされるんじゃ?なんてワナワナする。


「まぁいいわ。私が名前をつけてあげる」


 特に気にする様子もなく話を続ける。おおらかな性格なのだろうか。


「私の名前はレイアよ。あなたはどんな名前が似合うかしら?」


 見た目通り綺麗な名前。名前の話題になり、ふと私の過去の名は…と思い出そうとするが、出てこない。ここに生を受けた時には、たしかに覚えていたのに。


「いきなり名前と言われましても思い浮かばないですね。」


「そう、じゃあ昨日から考えていたから決めてもいい?」


 昨日から考えていてくれたのかと少し感動した様子の元OLの馬。王女様に名前を貰うなんて不思議体験2度あるものじゃないとすぐさま了承した。


「是非お願い致します」


「じゃあね…エレノワース。あなたの名前はエレノワースよ!」


 素敵な名前をありがとうございます。と返すと、無垢な笑みを浮かべた少女に抱きつかれた。いい香りがする。


 エレノワースは馬に転生(?)して、馬らしく生活し、一生を過ごすのかと思っているようだが、言葉の通じる第2王女に出会ったことにより物語が動こうとしていることをまだ知らない。


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