なーなわめ
少女は目を覚ました。首を曲げて窓の外を見ると、既に陽は昇り明るくなっていた。気絶直前は夜で、目覚めたら朝。一体何時間気絶していたのだろうかと疑問を抱くも、時計が設置されていないため解消されることは無い。因みに少女の体内時計を信じるならば、凡そ10時間である。
さて、と少女は起き上がろうとした。流石にお腹の虫もくぅくぅと音を立てて栄養補給を訴えている。昨日は朝食のみしか摂っておらず、約24時間何も胃に入れていない。ここらで飯を食べようと、起き上がる為に力を入れた。
しかし、動けない。全身が磔にあった感覚だ。上手く力が入らない、という表現の方が近いだろうか。ともかく四肢の全てに重石を乗せられたかのようで、数ミリたりともベッドから持ち上げる事が出来なかった。
その原因なぞハッキリしている。あの限界超の魔法行使だ。通常なら肉体の成長に併せてゆっくりと大きくなっていく魔力の壺を、無理矢理に拡大しているのだ。肉体が悲鳴を上げるのも当然と言えば当然の事。馴らす為の時間は必要だった。
これが代償かと頷き、動けないからと目を閉じた。
動けないなら動かなければいい。お腹は空
いているけれど、我慢出来ない程じゃない。
呑気な思考の下、少女はのんびりと二度寝を決行した。
次に目を覚ました時、漸く手足を動かせる程度に回復した。よろよろとベッドから立ち上がり、小さく伸びをしてから台所へと歩いていく。
歩き始めると頭がぐわんぐわんと揺れるような感覚に陥り、壁に手を付かなければ立っていられない程になり、一歩一歩とかなりのスローペースで台所目指して移動した。
満身創痍で台所まで到達した少女は、とりあえずコップを用意した。そして、ボソボソと呪文を唱えて水を作り出す。
「んくんくんく············ぷはーっ!生き返る〜っ」
キンキンに冷えた水を一気に喉へ流し込んだ。乾いていた喉はその水で潤い、少女に生きた心地を味あわせた。
思わず漏れた叫び声は、広い屋敷に響いて消える。自分以外の誰一人も居ないのだ改めて思い、孤独感に胸が痛む。彼女に前世の記憶というものが無ければ、生きる望みを捨てていたかもしれない。そう考えるとまだ何とかやっていけそうだな、と少女は気持ちを切り替えた。
続いて仕舞っておいた硬い黒パンと硬い干し肉を一つずつ取り出し、またノロノロと居間へと歩いていく。
「よっせ」
ベッドに腰掛けた少女は手に持つ黒パンを見つめた。少女の拳より一回り程大きく硬いパン。齧ろうにもちぎろうにも少女の力では中々難しい、あまり良いとは呼べない食物。
「相変わらず食べられる気が無いよね」
ガジガジと唾液でふやかしながら歯を立てるも、やはり噛み切ることが出来ない。
3口程トライして少女は自力のみで食事を摂ることを諦めた。水につけてふやかす選択をしたようだ。
それから十分程かけて美味くもない食事を摂り終える。干し肉にも段々と飽き始め、食事は栄養を摂る為の機械的な時間となっていた。
そしてもう一杯水を飲み干した少女は、やはり暇になった。
娯楽の多い日本での記憶を持つ少女にとって、この時間はあまり好ましくない。ぬぼーっと時間を潰すというのも有りではあるが、日の出ている時間帯にやるものじゃない。
明るい内に出来るもの、と考えた少女は魔導書に目を向けた。
この屋敷には明かりを灯す魔道具はあるが、それを起動させる魔石がない。その為、夕方から夜は真っ暗なのだ。
少女は魔導書の一冊を抱えてベッドに飛び込む。
窓から入る陽の光を頼りに少女は魔導書を読み耽った。
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