第58話 壊滅
相手の身体のことなど一切考慮することなく、ただ眼前の障害を排除するためだけに、熱くなった黒服の男は頭を蹴り飛ばさんばかりの勢いで、思いきり脚を振り切る。
その足先の軌道は、まるで空間自体を切り取るかのように鋭く、直撃すれば昏倒間違いなしといった一撃であったのだが、黒服の脚はグリードに当たることなく、空を切る。
「こいつ、避けやがった⁉」
ほぼ真横から薙ぐように繰り出された攻撃にも関わらず、かすりもしなかったことを足先の感覚から理解した後輩の黒服男は、空中で体勢を崩しながらも、何があったのかと目線をグリードの方へと向けようとする。
その最中、黒服は自らの視界に入ったグリードの姿に、驚愕した。
というのも、体勢を崩しながら飛び蹴りをする黒服の眼前に、当人の姿を認めることができたからであった。
通常、相手の蹴りを回避しようとするなら、屈むか後方に身を反らせるかするのが基本である。
しかしグリードはそのどちらでもなく、黒服の蹴りと同方向へと素早く回り込んだのであった。
そして、空中で無防備になっている、落下途中の黒服に対し、グリードは器用に胸元をつかむと、そこから強引に持ち上げ、背負い、絨毯もマットも敷かれていない、硬い石の床上へと、そのまま叩きつけた。
「――ぐへっ」
背中から勢いよく落ちた黒服は、今にも潰れそうなうめき声を最後にそのまま意識を失った。
そしてグリードは残された後輩が再起不能となり一人となった黒服へと顔を向け、無言で圧力をかける。
すると、黒服もさすがに格の違いを実感したのか、苦しそうに顔をしかめ、距離を取ろうとわずかに後ずさった。
「さて、残ったのはお前だけになったみたいだが、どうする? こうなったらもう、お前が行先を話すまで、ひたすら殴り続けることになるぞ?」
ナイフのような鋭い眼光を突きつけ、グリードは最後の警告を放つ。
それを受けて、残された黒服も自然と弱者の側に移行し、両手を軽く上げ、克服の意を表明する。
そして、自らが知る、マルクの情報を話し始めた。
「俺も詳しくは聞いてないが、マルクは鉱山の方へと向かったみたいだ。お前の言う少女とやらがどこにいるかは俺も知らない。マルクが連れて行ったからな……悪いが、これ以上俺が持っている情報はな――」
その瞬間、黒服は最後まで語り終えることなく、意識を飛ばす。
通路上でバタンと倒れた黒服の前には、無言で拳を突き出すグリードがおり、どこか疲れたような表情で、言葉を吐き捨てる。
「まったく、手間取らせやがって……最初から素直に言っておけってんだ」
そう言った後、グリードは深く息を吐くと、軽く手を払いながら、くるりと踵を返す。
それから特に何を言うでもなく、グリードは邸宅の外へと足を進め、消えていくのであった。
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