第55話 密談

 黒服たちと別れ、ロベルト邸を離れたマルクは、数人の部下と捕縛したコニールを引き連れ、人通りのない寂れた路地へと向かっていた。


「ちょっと、一体どこまで連れていくつもりよ!」


 マルクの動向に不穏な何かを感じたのか、身体の自由を奪われているにも関わらず、コニールは委縮することなく、マルクへと声を荒げながら問いかける。


 すると、マルクは一度歩みを止めて振り返り、やや興奮した様子で、上機嫌に答えた。


「なぁに、安心しろ。別にお前に危害を加えるつもりはねぇよ。ただ、少しばかり窮屈な思いをしてもらうだけだ」


「何よそれ……アンタたちの目的は何なのっ!」


「捕まってるっていうのに、随分と威勢のいい娘だな。そういえば、最初にお前から権利書を奪おうとした時も、執拗に食い下がってきたっけな……」


「いいからっ! 教えなさいよっ!」


 なおも追及を続けるコニールに、さすがのマルクも不機嫌そうな顔つきへと変わり、舌打ちをする。


「お前に教える必要がどこにあるって言うんだよ。とにかく、お前は俺たちと一緒に来るんだ!」


 そう強く発言すると、マルクは力任せにコニールを引っ張り、近づける。


 対するコニールは、縛られて両腕の自由が利かないこともあって、転倒しないよう必死にこらえるが、それは結果として自らの立場を認識させられる行為となった。


「……わかったわよ。でも、こんなことしても、後で絶対痛い目を見るんだからね」


 負け惜しみとも取れる言葉を吐き、屈しない姿勢をアピールしようとするコニールであったが、もうその声はマルクには届いていなかった。


 それは、マルクがコニールを相手にすべき存在とみなしていなかったなどというわけではなく、単に第一の目的地へと到着したがためであった。


「マルクさん、こちらです」


「おう、ご苦労」


 部下の一人に促されるように、マルクが進んだ先。


 そこには、一台の馬車がすぐにでも発進できる状態で置かれていたのだった。


「馬車?」


「このまま街中を歩くには目立ちすぎるからな。トルカン内の移動だったら、これで困ることもねぇ。それに、箱の中まで気に掛けるような輩もそうはいないからな、輸送にはもってこいってわけだ。さぁ、乗れ!」


 馬車を前に、機嫌をよくしたマルクは、部下の一人とコニールと共に、馬車へと乗り込む。


 そしてマルクは路上に残った部下へと目を向けると、軽く手を上げ合図を送る。


 その合図を確認して、マルクの部下は馬車の前方まで回り込み、御者へと話しかける。


「準備はできた。前に言った場所まで、馬車を出してくれ」


「……あぁ」


 年老いた白髪の御者は、部下の言葉にゆっくりとうなずき、馬車を走らせた。


 ゆっくりと車体が動き始めるが、それも徐々に軽快なリズムを奏でる快走へと変化し、その心地よさが、コニールの不安感をより強めていく。


 そんな中、車内で不意にマルクが部下へと話しかけた。


「おい、俺が言った通り、ちゃんとメンツの方は集めてるんだろうな?」


「もちろんですよ。マルクさんに言われた通り、現場の方に数十人。一応念のためにトルカンの駅の方にも十名ほど人員を集めておきました」


 部下の返答に、マルクは素直に口元を歪め、不気味に笑う。


「そうか。よくやった。やっぱり、みんな暇してたってわけか」


「えぇ、ロベルトの旦那は確かに腕利きの事業者ではあると思いますが、いかんせん現場に金を落とさないですからね。その点、マルクさんは俺ら下っ端にも仕事を振ってくれてますから。こういう時くらい恩返しさせてください」


「嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか。それじゃあ、その恩返しとやら、楽しみにさせてもらうぜ」


「――はい、是非に」


 左右で飛び交う、不穏な会話。


 それを中央で耳にしながら、コニールは口を挟みたいという衝動を必死に抑え、黙って考えを巡らせる。


 そして、彼らのボスに対する反逆的な態度に、今後訪れるであろう、ただならぬ騒動に対する不安を抱きながら、コニールは静かに、恐らく追ってくるだろうグリードの身を案じるのであった。

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