第46話 形だけの交渉

 再度、ロベルト邸へと忍び込んだグリードであったが、その足に迷いはなく、ほぼ一直線に上階へと向かっていく。


 道中、警護に当たっている部下たちと対面することが何度もあったが、その都度グリードはその圧倒的な格闘術で相手をねじ伏せ、応援を呼ぶ間も与えずに床へと沈め、何食わぬ顔で目的の場所へと向かって進み続けていた。


 その行先は、この邸宅の主にしてマフィアのボス――ロベルト・バレスの私室に他ならない。


 グリードはいかにもな厳つい大扉の前で、見張りを続けていた男二人を伸した後、軽く呼吸を整えて、いよいよその扉へと手を掛ける。


 そして、勢いよく扉を開くなり、グリードは視線を真っ直ぐに射抜き、その先に鎮座している貫禄を備えた男を見据えた。


「お前が、ロベルトだな?」


 広々としたスイートルームにグリードの声が反響する。


 対してロベルトは、自分専用のソファから腰を上げることもせず、忌々しいといった顔でグリードに目をやると、質問を無視して語り掛けた。


「口の利き方ってのを、お前は知らねぇのか?」


「言い方を変えただけで、素直に答えてくれるような人間だっていうなら、今からでも変えてもいいが?」


 マフィアのボス相手に、一歩も引くことなく、むしろ圧を掛けていこうかという気概すら感じるグリードの応対であったが、ロベルトは吐き捨てるように言葉を返す。


「ふんっ、生意気なことを言いやがる。ここまでやってきたことは認めてやるが、自分の立場ってのをお前はわかってるのか?」


「立場……ねぇ。俺は誰とでも対等に話をするってのが信条なものでね。そういうのには疎いんだ、悪いな」


「口の減らねぇ野郎だ。だったら教えてやるよ。ここに来たが最後、無事には帰れやしねぇってことだ」


「どう思うかはそっちの自由だが、こっちもただでは帰るつもりはないんでね。ここでようやく本題に入るわけだが、カフォット家から奪った権利書――渡してもらおうか?」


 グリードから発せられた要求に、それまで苛立ちこそ見せつつも冷静さを保っていたロベルトであったが、初めて驚きの色を見せる。


「権利書を渡せだと……それはてめぇが……いや、待て……なるほど、そういうわけか。自分本位の姑息な野郎だとは思っていたが、小賢しい真似を……」


 ロベルトは思い当たる節があったらしく、湧きたった疑問を自己完結させると、合点がいったといった様子で、にやりと怪しい表情を浮かべ、口元を緩める。


 だが、グリードにはそれが一体何のことを指しているのか理解することができるはずもなく、自分の放った言葉がスルーされたということもあって、ややシニカルな風味を利かせてロベルトに問いかける。


「置いてけぼりを食らっているような気分なんだが、これはロベルト一派のもてなしってことかな?」


「まぁ、落ち着け。結論から言うと、お前が探してるものはここにはねぇよ」


 そう口にするなり、ロベルトはおもむろに立ち上がり、パチンと指を鳴らす。


 すると、それまで側で控えているのみであった側近が、スッと前に出て、グリードに対して敵対するように構える。


 また、それ以外にも、一体これまでどこに潜んでいたのかと思えるような、残りの部下たちも後方よりグリードの背後を固めるように姿を現し、退路を断った。


「おいおい、それって権利書がここにはないってことか? だとしたら、俺はもうここに用は無いわけなんだが……これは、俺を逃がす気はないと?」


 まるで危機感を感じさせないグリードの物言いに対し、ロベルトは怒りの感情を溢れさせながらも、最低限の理性を保ちつつ、答える。


「そりゃあ、俺の屋敷に勝手に入ってきた上に、大事な部下をあんな風にされちまったら、俺の気が治まらねぇってもんよ」


「あぁ、そいつは悲しい事故だったな……でも、今の俺にはそんなことはどうでもいい話だし、すぐに解放してほしいんだがな。あと、できることなら権利書の在り処に心当たりもあるんだろう? 教えてくれると助かるんだが……」


「そんな都合のいい話を、俺が叶えてやると思うか?」


「――正攻法じゃ、無理だろうな」


「わかってるじゃねぇか……やれ!」


 不敵に笑うと、ロベルトは部下たちに手で合図を送る。


 途端、グリードを囲う様に、集まっていたロベルトの部下たちが展開を始め、そして一斉にグリードへと襲い掛かるのであった。

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