第27話 休息

 外套を脱いだコニールの服装は、白いブラウスに薔薇色のキュロットを合わせた、上品さと活発さを同時に醸す出で立ちであった。


 そして、コニールは部屋の様子をじっくりと観察するように見回しながら、部屋の中央に置かれるソファへと向かい、そっと腰を下ろす。


 部屋の中は薄暗くはあったが、グリードが部屋の奥に向かう際に点灯しておいてくれたのだろう、幾台かのランプが徐々に周囲を照らし始め、しばらく経つと室内は当たりの様子を視認するには十分な明るさを保てるまでになっていた。


 すると、タイミングを見計らったかのように、奥の部屋からグリードが、手の平に収まるサイズの、既に封を取ってある瓶を二本、指の間で挟むように持ちながら、再び姿を現す。


「ほれ、とりあえず飲め」


 グリードは外套を脱いだコニールの姿にも、勝手にソファに腰掛けていることにも一切言及することなく、ソファの前に置かれたテーブルにコトンと瓶を置き、自らは立ったまま瓶をそのまま煽る。


 コニールは言われるまま瓶を手に取り、目の高さまで持ち上げ、側面に何も貼られていないことを悟ると、グリードに尋ねた。


「……これは?」


「安心しろ。ただのジュースだ」


 中味を半分ほど飲んだ瓶を軽く振って見せながら、グリードは答える。


 その所作に、コニールは幾分の戸惑いを見せながらも、瓶の口に直接口をつける。


 傾けると同時に口内に伝わる、冷たさとさわやかな柑橘の風味と、すっきりとした甘さに、グリードの発言が嘘ではなかったと、コニールは理解する。


 そして、コニールが口を開くより先に、グリードは自ら語りだした。


「ま、俺は酒は飲まねぇからな。ウチにある瓶はもっぱらジュースばかりだ」


「お酒は飲めないの?」


「飲めないわけじゃないが、飲む必要がないからな。酒に酔ってちゃ、いざという時すぐに動けないし、満足な仕事もできやしない。それなら、こっちの方がずっといいってこった」


 そう述べると、グリードは瓶の残りを一気に煽る。


 まだ半分ほど残っていた瓶の中味は、見る見るうちに残量を減らし、グリードの体内へと消えていった。


 コニールはその様子を興味深げに眺めていたが、室内に広がる和やかな雰囲気も相まって、ふと疑問に抱いていたことをグリードへと尋ねることにした。


「そういえば、グリードって仕事的にも拳銃くらい持っていてもよさそうなのに、それっぽいものは全然持ってないわよね。不便だったりしないの?」


「俺の信条が、武器は現地調達するものだっていうことには、一応しているが……」


 コニールの問いに、グリードは嫌な顔ひとつすることなく、素直に答えようとするが、何か思い至ることがあったのか、突然言葉を詰まらせる。


 しかし、それも数秒後には解消したらしく、小さく咳ばらいをした後に、またいつもの、どこか気の抜けたような声で、続きを話し始めた。


「……ま、実際のところを言わせてもらうと、個人的な理由になるが、この家に武器を持ち込まないって決めてるからになるな」


「一人で暮らしているのに? それって、誰かに取られたら困るからってこと?」


 一つを語れば、一つを問いかける――まるで終わりのない問答のように、コニールの口からは疑問が湧き出てくる。


 それを、グリードは退屈そうにしながらも、拒絶をすることなく、答えた。


「いいや、ここの物を取られたからって別に困りはしないさ。大事なものは、常人には到底見つけられない場所に隠してあるしな。かといって、武器をそこに仕舞うつもりも毛頭ないけどな」


「それじゃあ、一体どうしてそんなルールを作ってるの?」


 純粋な疑問から放たれたコニールの言葉。


 それを受けて、それまでずっと無感情ともいえる、抑揚の少ない回答を繰り返していたグリードに、初めて変化が訪れた。


「――約束、したからかな」


 その瞬間、グリードは目を細め、どこか哀しそうな眼差しで、窓の外を見つめた。


 窓は部屋の光が反射していることもあって、コニールにはグリードがどこを見ているのか、はっきりと見ることはできなかったが、グリードが何を見ているのか尋ねる気にはなれず、手にしたジュースの瓶を握りしめていた。

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