第14話 依頼
黒服たちが姿を消した車両内は、元の穏やかな空気感に戻るタイミングを逸してしまったかのように、誰もが口をつぐんだまま、どこか張り詰めた静寂が全体に広がっていた。
そんな空気が漂う中、一人黒服の男に立ち向かっていた少女は、憮然とした様子でその場に崩れ落ちる。
悔恨、喪失、絶望、そして無念。
様々な感情が少女の中に渦巻き、それまで頑なに気を張っていた、少女の心の防壁はついに限界を迎える。
「そんな……どうして、こんなことに……」
煤や埃で所々が汚れ、髪の毛も乱れたまま、少女は両手で顔を覆い、むせび泣く。
静まり返った車内に、少女の小さな嗚咽のみが上がり、周囲の空気はより一層しんみりとした、悲しみを含んだ色合いへと変遷していく。
誰もが、哀れな少女の姿を目に、不憫に思いながらも、腫物に遭遇してしまったかのように、声をかけることもできず、ただ遠くから同情の眼差しを送ることしかできずにいた。
ただ、そんな触れることも躊躇してしまうような、不可侵ともいえる空気感など一切無視して、少女の元へと近づいていく者がいた。
その人物はスタスタと、比較的軽やかな足取りで少女のすぐ背後までやってくると、その場にしゃがみ込み、語り掛ける。
「――どうしても、あれを取り戻したいか?」
慰めとも励ましとも違う、どちらかというと示談を持ちかけるかのような、上から物を言うような、男の口調。
その声に反応して、少女が涙ながらに背後を振り返ると、そこには、それまで一切のやる気を見せなかった、褐色のコーディネートに身を包んだ男――グリードが初めて引き締まった表情を浮かべていた。
「取り戻せるなら、そうしたいですけど……でも、そんなこと、できるんですか?」
半信半疑といった様子で少女は尋ねる。
すると、グリードは小さくうなずき、続けた。
「あぁ、お前が依頼をしてくれるなら、という条件はあるがな」
「でも、今の私にはお金がなくて……荷物はあの人たちに取られてしまいましたし、お礼として差し上げることができるものは、これくらいで――」
そう言って、少女は外套の前を開くと、首から下げていたネックレスを取り出し、グリードに見せる。
その先端にあったのは、目に見えて高級そうな大き目の宝石などではなく、雀の涙ほどの大きさしかない、青色をした宝石であった。
無論、宝石であるため、そこそこの値段はするものの、高値で取引されるものと比べれば天地ほどの差があることは言うまでもない。
そして、少女の身に着けていたものは、決して高値とはいえるものでもなく、また以来の対価として支払うにしても、相場には遠く満たないものであった。
少女自身、それをわかっていたのであろう、ちらりとグリードにネックレスを見せると、すぐに顔を背け、うなだれる。
しかし、グリードの口から帰ってきたのは、少女の予想に反した言葉であった。
「ほぅ……奇遇だな。俺は、金で依頼は受けない人間でね――」
そう口にすると、グリードは掌にネックレスの先にある、小さな青い涙を乗せ、口端を持ち上げる。
「――いいだろう。今回の依頼、これで受けさせてもらう」
「えっ?」
驚きのあまり、少女は目を見開き、再び振り返る。
そんな少女に対し、グリードは念を押すように、ゆっくりと言葉を繰り返した。
「だから、この宝石で、お前の願いを、俺が叶えてやるって言ってるんだよ」
「……はい」
その瞬間、少女とグリードは、世にも奇妙な契約を結んだのであった。
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