第47話 えっ、ここからでも使える超回復薬があるんです!

「ライトニング・フルバースト!」

 


 アタシの電撃は、パパを捉える。

 


「ぐああ!」

 


 


 パパは消える。

 


 だが、これが幻術だと理解するのは容易い。

 


 空気が変わる。

 


 気圧が変化し、鋭い刃となった暴風が吹き荒れる。

 


 


「うぅ…」

 


 電撃を放電し、威力を軽減したがそれでもダメージは届く。

 


 集中するのだ、アタシ。

 


 


 大丈夫、横に飛んでくる刃はしっかり上下運動で避ければ怖くはない。

 


 雷球をいくつか空中に作り出し、気配を探知させて自動追尾させる。

 


 


「そこ…!」

 


 一見何も無いようにみえる空間に放った雷撃は屈折し、ねじ曲がってあられもない方向へと飛び散る。

 


 


 位置は分かった。

 


 空気中に漂う雷撃を一点に集中させ、一気に放電させる!

 


 


「くはっ!」

 


 今度は命中したようだ。

 


 


「はぁ…はぁ…」

 


 しかし、致命傷には至ってないはずだ。

 


 


 アタシも全身がボロボロのはずだ。

 


 だが、力が溢れてくる。

 


 以前のアタシの感覚にとらわれすぎているのだろうか、身体を見ても傷らしきものは全くない。

 


 


 初期化したアタシなら、やれる。

 


 幻術で隠れているのなら、感知の量を増やすだけだ。

 


 全身から一気に放電し、周囲を索敵する。

 


 


 再び補足する。

 


 先程の威力から察して、次の一撃で仕留めきれる。

 


 


 パパは確かに強い。

 


 だから手加減などできない。

 


 この一撃で…!

 


 この一撃で、パパを打ち倒す。

 


 


 さようなら。

 


 


 指先に力を込め、雷撃を振り下ろす。

 


 


 


「はああ!」

 


 パパは幻術を解き、全ての魔力を暴風に変換して放つ。

 


 


「…ライトニング・フルバースト!」

 


 あまりにもあっけなかった。

 


 


 アタシの雷撃は暴風をいとも容易く打ち破り、パパの胸を貫いた。

 


 パパは致命的な一撃を受け、その場に倒れる。

 


「…僕は、負けたのか」

 


 さすがに魔力を使い過ぎた。

 


 


 大きく肩で息をして、呼吸を整える。

 


「ええ…アタシの…勝ち」

 


「僕は…僕はどこで道を間違えてしまったんだろう。…僕は」

 


 いいや、そんなことはない。

 


 


 パパは自分の信じた道を貫いたのだ。

 


 ママと添い遂げ、意志を継いで、ヴィルヘルミナと共に孤独な戦いへと身を投じた。

 


 迷いながらも駆け抜けた生涯を、パパ自信にも否定はさせたくない。

 


「パパ、何も間違えてなかった…。今までありがとう…パパ」

 


 


「…そうか…僕は…」

 


 虚ろな目で空を見上げている。

 


 このまま苦しい思いをさせるのは返って酷だ。

 


 


 せめて慈悲として、トドメを刺すべきだろう。

 


 手に電撃を込める。

 


 せめて苦しまないように、最大出力を叩き込む。

 


 


 これでお別れだ。

 


「ありがとう、パパ」

 


 今までの生活を思い出す。

 


 ママがいなくなってから、家事のひとつもできない不器用なパパが精一杯家事を頑張っていたことを。

 


 


 不器用なパパとの思い出が、次々に脳裏をよぎる。

 


 だが、迷うな。

 


 迷ってはパパが苦しむだけだ。

 


 今、この一撃を──

 


 


「あー、そういう展開、わたし嫌いなのでナシでお願いしますね、サキュ美さん」

 


 突如アリ子さんが眼前に現れ、何か液体をパパにかける。

 


「アリ子…さん?」

 


「あーこれ、エリクサーです。いやー、デバッグおにいさんに魔王城に入る前に複製を渡して貰って正解でした」

 


 パパは苦しそうだった様子からうって変わり、爆音でいびきをかきながら寝てしまった。

 


 その様子から、今までの緊張感がどっと抜けていった。

 


 


「ありがとう、アリ子さん」

 


「いえいえ、サキュ美さんはお疲れでしょう。あとはデバッグおにいさんに任せてゆっくりしちゃいますか」

 


「ううん、アタシは大丈夫。城に行こう、アリ子さん」

 


 これはこれで良かった。

 


 そう思いたい。

 


 


 さて、決戦をこの目に焼き付けに行こう。

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