第23話 買い出し

久寿さんが財布だけを持って、外に買い物に行く前に


「なにもするなよ。」


と、なぜかタカヒロさんにだけなにかを釘を刺して買い出しに向かった。


とても仲が良さそうで羨ましい。


タカ「ユキさんは久寿さんのこと好きですか?」


と、タカヒロさんの急な質問に驚く。


ユキ「まあ、人として素敵な部分が多い方だと思います。」


タカ「確かにそうですねー。」


タカヒロさんは何か考えながら、ごくごくと炭酸で薄めたハイボールを飲む。


タカ「僕、あまり外でお酒飲まないんです。」


そう教えてくれたタカヒロさんはコンっとグラスを置いた。


ユキ「そうなんですね。普段はソフトドリンクですか?」


タカ「ううん。そういうことじゃなくて、こうやって飲み会みたいの参加しないんです。」


ユキ「そうだったんですね、宅飲み派ですか?」


タカ「まあそうですね…。普段は1人でいることが好きなんです。」


ユキ「私も…、1人で過ごすことが多いですね。何だかんだ気楽ですよね。」


私はその話で今までのことを思い出した。


普段の生活の一部、雪山で出会った2人、陽馬さんのこと。


雪女の2人に出会ってなければこうしてタカヒロさんに出会うことはなかったけど、長く生きる代償が大きすぎて心が疲れて、八つ当たりしてしまうから今は一緒にいないようにしてる。


陽馬さんは死にかけの私を助けてくれたけど、私に出会ってなかったらおじいさんになるまで生きれたんだろうと思う。


私があの日、1人で倒れて凍え死んどけば、誰にも迷惑かけずに済んだのにな。


タカ「僕、ユキさんに出会った日の朝、恋人に逃げられたんです。いい歳なんだからもっと稼いでいい暮らししたいって。」


と、タカヒロさんは私と出会った1日を語り出した。


タカ「結婚もお互い考えていたからこそ、出た言葉だと思うんですが…。僕は金を稼ぐためにあいつと付き合った訳じゃないし、年齢や地位でマウンティングされるのが嫌でそういうこと言うのやめてほしいって言ったら、荷物まとめて逃げられました。」


そんな悲しい話をしているタカヒロさんなのに、なぜか笑顔を作りグラスのハイボールを一気飲みした。


タカ「少しワガママなところが可愛いと思えていたんですが、最近は度が過ぎていて少し嫌悪感が出てきたんです。きっと、このまま結婚してもいつかはこうやってなっていたんだと思うですよね。

僕は好きな時に好きなことをやっていたい人間なので根本が合わないんだと今は思ってます。」


タカヒロさんは作り笑顔からだんだんと普段の笑顔になり、またハイボール缶を炭酸水で薄めたものを作っていく。


タカ「でも、その日はなんだかむしゃくしゃしてもう呑んだくれよう!って思ってユキさんのこの店に入ったら、BARなのに豚汁の香りがして型にハマってない感じいいなぁって思ったんです。

しかも、ハイボール薄めも快く引き受けてくれて…、久しぶりに温かい人にで会えたなぁって。」


その言葉は受け取るけれど、その笑顔は今の私には受け取りきれないかも…。


タカ「今までは、僕のやること一旦否定してくる人ばかりで、恋人も歳を重ねるごとにそうなっていって、みんな変わっていってしまうものなんだなぁって思ってたんですけど、僕より大人っぽい2人が僕のことを受け入れてくれてとても嬉しくて…、嬉しくて本当嬉しかったんです!」


ユキ「…それは良かったです。」


私はその笑顔が見れなくて顔を背ける。


タカ「だから、ユキさん。」


手を掴まれ包まれたことに驚き、タカヒロさんの顔を見てしまう。


タカ「これからも一緒に遊んだり、ご飯食べたりしたいです!いつでも飛んでいくので、友達になりませんか?」


ユキ「…え。」


友達…。

驚いた、こんなこと言ってくれる人いなかった。


タカ「ユキさんが1人で寂しい!って思ったら、梅酒3パック持って会いに行きます!」


ユキ「でも、急に連絡来たら迷惑ですよね?」


タカ「人は迷惑をかけていく生き物です!それで離れる人は将来離れていく人たちだと思ってます。

もし離れないで、寄り添って手助けしてくれる人であるなら、その人は一生涯の友人になれると僕は思ってます。僕はユキさんと久寿さんとそんな仲になりたいと思ってます。どうでしょう…?」


迷惑ってかけてもいいの…?

だからあの2人は私のそばにずっといてくれたの…?


ユキ「なんでそんな風に思えるの?」


タカ「そういう人はそばにいるだけで心が落ち着くんです。勘?みたいなものです。2人とも僕にはそう感じたので。」


…2人は私が八つ当たりしても、ずっとそばにいようとしてくれたのに。

あの時、雑炊を食べて芯から温めてもらったのに。


私の目から涙がポロポロと出てきてしまう。


タカ「すみません!迷惑でしたか!?」


タカヒロさんは握ってた手を離し、近場にあったティッシュで私の涙を拭いてくれる。


けれど、私はその手を握った。


ユキ「よろしくお願いします。」


タカ「…はい!」


またあの笑顔。

だけど、陽馬さんではない。


タカヒロさんであって、陽馬さんじゃない。


ユキ「タカヒロさん、今日は寝かせません。」


タカ「…よし!僕酔い潰れないようにウーロン茶買いに行ってきます!」


ユキ「私も行きます。」


ユキ「行きましょう!」


タカヒロさんのこと、久寿さんのことを、人として、友人としてちゃんと知りたい。


過去の人と比べてもなにも意味がない。


この人はこの人でしかないから。


今日はたくさんお話ししましょうね。

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