第16話 お誘い
「そろそろ帰らないとまずいかな。」
この間より長い時間いてしまった。
楽しい夜はあっという間に朝を迎えてしまう。
しかもここは丁度ビルの陰にある店で、時間間隔が狂う。
朝には帰らないといけないのがなんだか寂しいと思ってしまう、久しぶりの感覚。
いつもならベットの上に残して一夜の欲求を満たすだけで満足していたのに、今は生殺しされているようだ。
ユキ「あれ?私、看板クローズにしたままでした。入りにくかったですよね?」
と、俺が他の客が来ないようにわざとクローズにした看板を見て、ユキさんが申し訳なさそうにする。
久寿「ああ、約束していたから大丈夫だよ。」
ユキ「よかったです。」
久寿「じゃあ、また火曜にまた来る。」
ユキ「はい。またお待ちしてます。」
俺はユキさんを背に階段を降り、呼んでおいたタクシーに乗る。
自分の体のせいで、夜だけしか行動できないのがもどかしい。
これが普通の人間だったら日中にカフェデートにでも行けるのにな。
まあ、とりあえず来週やっている個展を調べよう。
行かない可能性の方が高いがプランはあった方がマシだ。
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はぁ…、楽しかった。
お客さんは久寿さんしか来なかったけど、タメになる話ばかり聞けた。
物知りで人付き合いも上手そうで、知り合いに個展を開く人がいるなんてどうやったら出会えるんだろう?
私も、もう少し人付き合いした方がいいのかな。
でも出会う人出会う人、色目を使う人が多くて困る。
そういう能力があるから仕方がないんだろうけど。
長く生きすぎて妖力が増して、10年くらい前から女性も色目を使うようになった。
今は人間だけにかかるけど、私より長く生きてる人は生きているもの全てから好意を向けられて大変そうなんだよな。
そういうのを目に見て感じるともう人と遊ぶなと言われているようで、まともな遊びやお出かけを最近はしていない。
一人でも十分楽しいけれど人と話すことが最近楽しくなってきてしまった今、少し寂しく感じる。
私は店じまいをして家に向かう。
ふわふわと考え事をしていたら、もう朝日が昇り街を明るく照らし始めた。
酒屋さんへは出勤する前に行くことにして、とりあえず家に帰ろ。
私は朝日の差し込んだ誰もいない部屋に入り、いつものように寝る前のルーティンをこなす。
久寿さんが火曜日にまた来くれるけど、個展に行くか行かないか答えを出さないといけない。
本当にどうしよう…。
今まではめんどくさいことになりたくないから即断っていたけど、なぜか今回あやふやになってしまった。
もしかしたら神様がいってもいいよと気まぐれで導いてくれたのかもしれない。
私は絵や写真は眺めるの好きだし、それ以上に仲良くしなければいい。
絵を見に行っても食事や次の誘いは断ればいい。
そうすれば私も楽しめるし、久寿さんも満足するだろう。
次の誘いからはきっぱり断る。
そう決めて私は眠りについた。
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