イライラからのざまぁでスカッとする話
bookmax
第1話 在宅ワークなのに、無職ニート扱いされ、追い出される娘の話。
私の名前はノゾミ、30歳。
バツバツ商事に*勤めるサラリーマンなんだけど、例の病気の世界的な流行により、在宅ワークになった。当初こそ慣れない勤務形態に戸惑ったが、今は問題ない。あることを除いてだが。
そう、母を除いて。
私はいい年をして独身で、両親と同居している。在宅ワークになることを、父はすぐに理解してくれたのだが、昭和の時代に生きている母には理解できないみたいで、どうも、私が会社をクビになり、引きこもりのニートになったと思い込み、どんなに説明しても話を聞いてくれない。
「もう……いい歳して、無職のニートになるなんて、お前はどれだけ母親に恥をかかせたら気が済むの?」
デスクに座り仕事中の私の前に来て、大げさにため息をつく母親に、私も「またか」とため息を母親に見せつける。
「もう母さん、なに? 私今仕事中なんだけど」
「何じゃないわよ……なにが仕事中よ、あなた一日中ゲームしてるだけじゃない! もういい歳して結婚もしないし、子どももいない……はあ。母さん悲しいわ、どこで間違えたのかしら」
仕事の邪魔をしてくる母を、面倒くさそうな顔で見ると、
「なに?その目は?……あんた自分の立場、分かってないの? 30にもなって親の すねかじって、恥ずかしくないの?」
あまりの言い草にカチンときた私も、
「ちょっと、いつ脛かじったのよ! 毎月ちゃんとお金入れてるじゃない!」
「はあ? あなたね、確かに今のところ ちゃんと入ってますけど、それも今までの貯金があるからでしょう? それが尽きたらどうするつもりなの? 母さん、絶対にただ飯食らいなんて許しません**からね! さあ、今すぐにでもハローワークに行きなさい!」
「いや、もう何回も言ったよね、在宅ワークのこと。いい加減理解してよ……今は自宅にいながら仕事ができるようになったんだから」
「いい加減にするのは、あなたのほうよ! 母さんが専業主婦だと思って騙せると思ってるんでしょうけど、騙されませんからね! 母さんだっていろいろ勉強してるんですから! パソコンでインターネットもできるし、写真の印刷だってできるんですからね!」
駄目だ……昔からそうだった。母がこうなると意地になって話にならない。諦めた私は、仕事の邪魔になるので、力ずくで母を部屋から追い出すことにする。
「もう、母さん、仕事の邪魔だから出て行って!」
「ちょっと……やめなさい! お前、実の母親に何するの!」
「いいから、ほら!」そう言い、母の肩を力ずくで部屋から押し、カギを閉めると、
「ふう……」自然にため息が出てしまう。
仕事の続きをしようとパソコンの前に戻るが、
「ドンドンドン!」激しく扉を叩きながら、母の怒鳴り声が聞こえてくる。
「こら、開けなさい! 母さん許しませんよ! 父さんや母さんだっていつまでも生きているわけではないんですからね! 将来困るのはあなたなんですからね!」
はあ……もう付き合ってられないわ。うるさいので、ヘッドホンを付け無視することにした。
---
在宅ワークが半年も続くと、だいぶ慣れ、ある意味楽でもあるし、もしかしたら自分に合ってるのかも? もう、このまま在宅ワークでもいいかな? そんな考えが浮かぶが……同時に、
「はあ……母さんがいなければなんだけどね」
私のつぶやきが聞こえたんだろう、一緒に休憩を取っていたナオミが、苦笑いしながら笑っている。今日は出社日。ナオミとは毎日話してはいるけど、直接会うのは久しぶりになる。
「ノゾミも大変だよね。昨日もお母さんの声がリモート朝礼に入ってきてたし。……でも、今は笑い話だけど、そろそろなんとかしないと問題になるかもしれないよ?」
「はあ……そうだよね、そろそろ笑い話じゃなくなっちゃうよね」
……そう、いい加減、母を何とかしないと。よし、父にも頼んで、今日こそ母に納得してもらうか。
---
「あれ……」
自宅に帰り、扉を開けようとした時にカギがないことに気づいた。……忘れたんだろうか?
困ったな。まあ、母がいるだろうし。そう思い、スマホを出し母を呼び出すと、3コール目で出てくれる。
「ああ……母さん……ごめん、家のカギ忘れちゃったみたい。開けてくれる?」
「カギは忘れたわけじゃないですよ。私がカバンから抜き出したんです」
「え?……あの……母さんどういうこと?」
嫌な予感がする。
「もう分かっているでしょう? もうこの家の敷居をまたぐことは許しません!出て行きなさい!」
「ちょっと母さんふざけないで! 開けてよ!」
「いいえ、もう母さんも覚悟を決めました。今日限りあなたみたいな寄生虫とは親子の縁を切ります!」
そんな……
「寄生虫?……ひどいよ母さん、実の娘をそんな風に見てるの?」
くそ……あまりの悔しさに涙が流れそうになる。
「ええ、あなたはいい歳して親の金を食いつぶす寄生虫よ!」
「頭に来た! いいよ、親子の縁切ってやる! もう今日限り親でも娘でもないからね! こんな家、こっちから出て行ってやるわ!」
そう玄関に向かって怒鳴ると、自分が育った家と、母親にお別れをした。
---
「ブーン、ブーン」スマホからバイブ音が聞こえてくる。手に取り画面を見ると……母さん……。どうしようかな……はあ……出るか。
「もしもし」私がそう電話に出ると、いつもどおり不機嫌そうな声が聞こえてくる。
「ずいぶん待たせるわね。早く出なさいよ」
相変わらずの言い草にイラっとして、どうしても冷たい声になってしまう。
「どちらさまですか?」
「何言ってるのよ……私よ、お母さんよ!」
「はいはい……なんですか?……確か私達もう、親でも子でもないよね?」
「……悪かったわよ。あの後お父さんにも怒られるし、本当に家で仕事できるなんて思わなかったのよ。言い過ぎたわ」
「なにそれ?……もしかして謝っているつもりなの?」
母が言い淀んでいるのが分かる。
「もう……済んだことじゃない。その母さんはあんまりそう言うこと、詳しくないんだししょうがないじゃない!」
なんだそれは?……絶対、謝ってないよね。いや、落ち着こう……冷静に、冷静に。
「で……何の用なの?……なにか用があるんでしょう?」
「ええ……ノゾミ、そろそろ戻ってこない?」
「あの、確か出て行けって言ったの、母さんよね?」
「もう……いつまでそんな前のこと言ってるのよ。第一、母さんも本気じゃなかったし、そう、言葉のあやってやつよ!」
「なに? 私のカバンから家のカギを盗むのも、言葉のあやなの?」
「もう……いつまで細かいこと言ってるのよ! はいはい、どうせ意固地な母さんが悪いんでしょう! ごめんなさい、ごめんなさい! これで満足したでしょう?」
なんだそれは?逆ギレか?……そんな謝り方で許してもらえると思ってるの? 私の頭にさらに血が上りヒートアップしてくる。
「はあ……なに、それで謝ってるつもりなの? 本当に常識がないよね。それにね、私知ってるのよ。母さんも、今家を追い出されているんだよね?」
「え……なんで知ってるの? もしかして父さんから聞いたの?」
「そうよ。母さんとの縁は切ったけど、父さんとはまだ親子だしね。家を出た後も定期的に連絡取ってるよ。父さんにいくら怒られても、自分の勘違いだって分かっても、私に謝ろうとしない母さんの意固地さに、父さんが切れて追い出されたんだよね?」
電話の向こうで母が、何も言い返せずにいるが、構わず私はたたみ掛けることにする。
「なに、私と一緒なら父さんに許してもらえると思ったんでしょう! ふざけないでよ!あの日、母さんに言われたこと、私は一生忘れないからね。たぶん離婚されると思うけど、これからは一人で好きなように生きるといいよ。私も父さんももう、母さんの押し付けはうんざりなのよ!」
私が一気に言い切ると、母がすすり泣いているのが分かる。
「ごめんね、ごめんね、母さん知らなかったのよ。誤解だったのよ、謝るから母さんを許して」
ようやく自分がどれほどひどいことをしていたか分かったのだろう。だけど遅い。
「もう、遅いよ母さん。もう母さんとの絆はなくなったんだ。父さんもそう言っている。もう……連絡してこないでね」
「そんな……待って……母さんを一人にしないで!」
まだ何か言っているようだが、そこで通話を切り、そして、着信拒否にした。
「ふうーーーー」大きくため息をついたあと、
「はぁああーーーーーースッキリしたーーーーー」
---
その後母は、結局父に離婚されることになった。財産分与があるので、お金には困ってないようだが、借りたアパートで一人寂しく過ごしているらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます