終わる幸福ね。
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同類を得たおれは、家が欲しくなった。
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とはいえ、人の世で暮らせる身ではない。わかっている。だから無人島に渡った。
大陸の端から海に出て、極東の島国近くの島に目星を付けた。
そこに、巨大な洋館を建てることにした。
建築の意匠は同類にすべて任せた。女でなければ建築がやりたかったのだとそう言っていた。
資材は変身でまかなう。そのための血液はおれが集めた。
極東ではちょうど戦乱の世が訪れていて、血液には事欠かなかった。
家は地上に地下に、拡張を続け、最終的には島そのものが一つの建築物に成りはてた。戦乱の世が終わったと聞いたのは、その頃のことだ。
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ある日、同類が、へらっと笑って言った。
「このまま、ここで、二人で暮らすんだね、ずっと。
それはそれは、幸せなことだなって思うよ、わたし」
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そうはならなかった。
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二人暮らしを初めて数百年が経ったその日、極東の島国で茸雲が上がった。
真下に同類がいたことをおれは知っていた。大戦が起きていることも、新型爆弾の噂も、聞いていた。しかし、それで同類が死ぬなんてことは、当然ながらまるで予期していなかった。
それどころかその茸雲を見てさえ、おれは同類が万が一それに巻き込まれたとして、数千度とも数万度とも言う熱に焼かれ炭になっても、その血液のすべてが蒸発しても、不死者ならば死なないだろう、と思っていた。
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結論から言えば勘違いだった。
理屈はわからないが、同類が帰ってくることはなかった。
おれは同類を探し彷徨った。蝙蝠の、鴉の、羽虫の群れとなり、彷徨った。
どこにも、同類はいなかった。
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八つ当たりのように、大陸の戦場を駆けた。
人を切り裂き、銃弾に打ち抜かれ、街を滅ぼし、炎に焼かれた。
悲しみと怒りの沈静より、大量の血液より、自分は生物より機械に変身する方が楽だと知ったのが最大の収穫だった。
化け物になることに躊躇はなかった。
どうせ同類同士で殺しあっている連中に、何を遠慮することがあるのか。
否、そのような言い訳すらも、今思い返して考えたことだ。
そのときにはなかった。
ただただ殺戮に興じた。
そうする動機も、しない動機もなかった。
同類がいなくなり、何もなくなった。
何もなくなったから、何でもなかった。
何でもなかったから、何者でもなくなってしまった。
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飽きるまでそれを続けて、飽きたから、あの島に帰った。
同類はもういないのに、同類の造り上げた家だけがあった。
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同類がいなくなったときより一層、涙が流れた。
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いつ、どのような文脈でそう言われたのか思い出せない言葉がある。
終わる幸福ね、と同類が言っていた。
でも、いつかは終わる幸福ね、とそう言っていた。
そんなことはない、悲しいことを言うなよ、と、そのとき自分が返事をしていたかどうか、おれは今も思い出せない。
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