第3話 決意

 下部に前作までの簡単な登場人物があります。参考にして下さい。

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「おい花咲、昨日の女の子誰だよ!」

「昨日の女の子って? 一緒に美術室に行った茜さんのことか」

「何々、もう中村さんを名前呼びかぁ、違うよ電車で隣に座っていた女の子だよ」

 教室に入るや否やクラスメートの西田にしだ 謙介けんすけに声をかけられた。話の感じから悪い奴じゃないということは分かる。


「ああ、和奏か。幼馴染だよ。中学まで一緒だったんだ」

「あの制服って彩光高校だろ。ちょー優等生じゃん。幼馴染と随分学力が違うんだな。紹介して欲しいけどあの美貌と学力じゃあ高嶺の花だな」

 両目を腕で隠し、泣き真似をする謙介。


「西田くん、男は心よ! 諦めたらダメ。自分を磨いていつかは椎弥くんに彼女を紹介してもらいなさい」

「中村さん、君だったら自分より物凄くバカな男と付き合いたいと思うか?」

「お……思わないわねぇ。大丈夫よ西田くん、勉強しなさい。まだ間に合うわ」


「茜さんも西田くんも好き勝手言って……ただの幼馴染だよ。昨日は偶然あっただけだよ」

「椎弥くん、同じ学校に通う同レベル同士仲良くしましょう。一緒に美術部で絵を描こう!」

「茜さん、美術部に入ることにしたん──」


 話を遮るように扉が開かれた。出席簿と分厚い封筒を持って涼島先生せんせいが入ってくる。


「みんなおはよう。いいじゃないか、いいじゃないか。2日目でここまで騒がしければ上出来だ。みんな仲良くするんだぞ。去年の1年生なんて1週間位お通夜のようだったぞ。褒美に出席をとったら実力テストをやってやろう」


 教室のあちらこちらからブーイングが流れた。


 予定通り出席の後にテストが行われる。一切の告知のない抜き打ちテスト。僕は先生に確認しておきたいことがあった。


「先生。このテストってどの位の平均点を見込んでるんですか? やっぱり目標があった方が頑張れるんで」


「花咲、やる気だなぁ。……そうだな。まあ中学校のおさらいみたいなものだし、全教科50点以上は採って欲しいな」

 

 配られたテストは確かに中学生の問題。……テストの回答は適当に埋めて45点前後を狙う。点数計算、わざと間違えたと思わせない回答、中学校で得た経験だ。



 * * *



「終わったー」

 5時間ぶっつづけのテストが終わり教室中からため息とも安堵ともとれる声が幾重にも聞こえてきた。

 「今日の部活見学どうする?」「帰って寝る」といった雑談があちらこちらに沸き上がっている。


「あ、そうそう。部活だけどな、この学校は帰宅部を認めてないからな。ちゃんとどこかに入るんだぞー」

 涼島先生せんせいは、答案を揃えながら話す。更に教室のブーイングが強くなった。


「ねぇ、椎弥くんはどうするの?」

「そうだな。美術室に行ってみようと思ってるよ」


──昨日の夜

 椎弥は考えていた。美術部のこと学校のことを。

 部活……。小鳥遊先輩か、不思議な先輩だったな。人の心がなんとなく分かるって僕と正反対だ。僕は疑ってかかるせいか人の心を読もうとしてしまう。でも、そんなのは妄想。本当の相手の心じゃない。先輩もそうなのか……たまたまなのか。

────


「……くん。椎弥くん。大丈夫?」

「ああ茜さんゴメン。考え事をしてた」

「それでねぇ、私、美術部に入ることに決めたの。昨日ね、展示会に行ったのよ。絵も素晴らしいし先輩たちも優しかった。小鳥遊先輩のことを聞いたら少し変わりものって言ってたよ。今日は先輩たちが美術室にいるって言うから私も行くわ」


 茜と一緒に美術室に向かう。廊下では沢山の1年生とすれ違う。既に部活を決めているのかテニスウェアなどユニフォームに着替えている生徒も多かった。


「あら茜ちゃんいらっしゃい」

 美術室の作業台にはいくつかの絵画セットが置かれていた。

 美術室では小鳥遊先輩が昨日と同じ席で絵の準備をしている。その他にはふたりの女生徒。

「海野先輩、石原先輩、昨日はありがとうございました」

「昨日話した椎弥くんです」

 突然紹介されてビックリしてしまった。「あ、花咲椎弥です。よろしくお願いします」というのが精いっぱい。


「じゃあ、ふたりともここに座って」

 絵画セットが置かれた作業台に座る。

「じゃあここに名前を書いてね」

 渡された用紙に名前を記入すると、考える間もなく取り上げられた。

「オッケー、これで今日からふたりは美術部員ね。これからよろしく、わたしは3年の石原いしはら 早希さきよ、こっちが夏美ちゃん」

海野うみの 夏美なつみ。小鳥遊さんと同じ2年生。よろしくね」

「ほら、小鳥遊さんも紹介して……ほら」

 石原は小鳥遊の傍までいって立ち上がらせる。肩をポンポンと叩いて紹介するように促す。

小鳥遊たかなし 彩衣あいです。よろしくお願いします」

 丁寧にお辞儀をする小鳥遊。

 言いたいのに言えない、そんな心を僕は彼女に感じた。


「小鳥遊先輩、何かいいたそうですけど……」

 小鳥遊が僅かにほほ笑む。一瞬の笑顔に吸い込まれそうになる。

「石原先輩、中村さんは美術部を望んでいるようですけど、花咲くんは美術部を本当は望んでいないように見えますけどいいんですか」

 驚く石原。小鳥遊の顔を見つめている。諦めて白状したような仕草をした。

「小鳥遊さん良いのよ。美術部のためなんだから。わたしが卒業したら花咲くんがいないと3人になっちゃうでしょ、部活は4人以上いないと認められないのよ」


 小鳥遊に気になる何かを感じていた。恋心なのか違うのかは分からない。僕は彼女と仲良くなりたいと思ったのだ。

「小鳥遊先輩ありがとうございます。僕、決めました。美術部に入ります」

 僕の目をじっと見る小鳥遊。見透かされていそうな気がする。

 そのまま小鳥遊は席について絵を描き始めた。


「ありがとう花咲くん。これで美術部は安泰だ」

 僕の手を拾い上げて両手でしっかり握る石原。その目は本当に感謝しているのか潤んでいた。きっと、美術部を存続させるために色々と手を尽くしてきたのだろう。


「それにしても石原先輩、卒業して4人ってことは……石原先輩、海野先輩、小鳥遊先輩、そして新入生の僕たちの5人しか部員が居ないってことですか?」

「ああ、実はな、絵を描く部活がもう1つあるんだ。アニメやゲームといったイラストを描くイラスト部。そっちにほとんどの部員を持って行かれてな」

 石原の言葉にクスリと笑う海野。握られ続ける手。心なしか中村が僕の近くに寄った気がした。




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前作までの登場人物:

 1B:花咲椎弥はなさきしいや

 1B:中村茜なかむらあかね

 担任:涼島啓介りょうしまけいすけ


 美術部:小鳥遊彩衣たかなしあい


 幼馴染:原田和奏はらだわかな

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