第0-4話 予感と予知夢

━━━━━《美空みそら視点》━━━━━


 お父さまとお母さまが帰った、その日は特に何も起こりませんでした。


 依然いぜんとして警察の捜査そうさは続いておりますが、任意にんい同行どうこうのほうははっきりとおことわり申し上げました。



 そしてねんのためだからということで御爺様おじいさまはからいで、「次の日の学校は休んでもいいぞ、先生にはワシから伝えておく」とはっきりとした口調に穏やかな表情でおっしゃいました。



 しかしながら、朝の修練しゅうれんかすわけにはいきませんでした。


 そのように自身で、決めたからです。


 誕生日の前月ということもあり、いつもより気合が入っていたのです。


 いつもどおり、白いランニングシューズに冬用の白いスポーツウェアの上下でいどみます。


 神社の周囲と家のブロックの周囲を走る事で、そこそこの距離にはなるのです。


 自身で決めた事という強い意志を持ってのぞむことにより、何かを振り払いたいという願いがありました。


 いうまでもなく、昨日の事件のことでした。



 頭の中を空っぽにしたくて、いつもよりも少し多めで走ることができそうでしたが、えてペースをくずさず走ることにつとめ、マイペースをたもつことにしたのです。



 これのおかげかいつもより、周囲を見渡す余裕が生まれました。


 それによって嫌な予感も、同時に拾ってしまったのです。


 誰かに見られている様な、視線しせんでした。


 人が居ないのに、誰かに見られている気がするのです。


 物理的にめられている様な、ひど不快感ふかいかんを覚えました。


 しかし一度決めた走る周回数を、やぶる訳にはまいりません。


 それは自身がその何かに、負ける様な気がしたのです。



 走った後の鍛錬たんれんも、欠かさず行いました。


 相変あいかわらず人が居ないのに、視線がまとわりつく様な感じです。


 この不快感はあとで、御爺様に報告しておこうとそう決めた直後でした。


 その不快な視線が消えたのは……、誰かがやって来たからでした。



 でもその誰かは知っている人ではありませんでした、そして視線の主でもないようです。


 さらにその方はこの近所では見かけない様な、違和感いわかんまとっておられました。


 その方は私を見つけると、警察手帳を見せてきました。


「この辺りで金髪の怪しい男を見かけませんでしたか?」と静かにされど冷静な表情で警察手帳を見せながら、聞いて来たのです。


 警察手帳には佐須雅さすが・ウィルエルと名前が書かれており写真も載っていましたので、警察の方であろうことは分かりました。


「どのような感じの方でしょうか?」と私が聞き返すと、渋々しぶしぶ写真をふところから取り出して見せてくれました。


「こんな男を見かけませんでしたか?」と冷静な表情ですがしっかりとした口調になっておっしゃいました。


 その写真には成年くらいであまりこの辺りでは見かけない色のスーツ姿の、あまり目つきのよろしくない方が写っていました。


 特徴的だったのは髪の色が確かに金髪で、額に一筋ひとすじの大きなり傷があるのでした。


 ただし目は黒いので、髪は色抜きをしてからあざやかな金髪に染めたのであろうということが分かりました。


 ただここらでは見た事が無い知らない方でしたので、知らないむねを伝えることにしました。


 そして「私は存じ上げません」と、かぶりを振りながらはっきりとお答えしたのです。


「そうですか、捜査にご協力ありがとうございました」とその方は静かにいうと、前から犬を連れて散歩に出てきた、近所で顔見知りのおば様のほうに行って、同じように聞込み捜査をしているようでした。


 しかしながら私のかんは、ただの警察の方ではないとげていました。


 その方が周囲から消えると、視線がたちまち再発しました。


 物理的にめまわされるようなザラリとした視線です。



 近所のおば様には朝のご挨拶あいさつをしながら、気取けどられないように視線の主を探すことにしました。


 違和感はありました、さっき警察の方が居た時には視線を感じなかったことです。


 ふと視線を上に移すとそこには街路がいろカメラがありました。


 戦後街路カメラは犯罪防止のためによりかなり高精度の物へと、切り替えられていったということくらいは私でも知っています。



 まさかと思いましたがジロジロ見るわけにもいかず、直ぐに視線を靴に移すと靴紐くつひもゆるみをなおし始めたのでした。


 その作業をしている間にも、視線は続いています。


 やはり街路カメラが、視線の主の様でした。


 しかし不自然ふしぜんすぎます。


 街路カメラに、意思など宿やどるはずはありません。


 誰かが私をのぞいているに違いありません。


 明らかに犯罪はんざい行為こういと、思われるのでした。



 一旦いったん自宅の中に、はいることにしました。


 ウチは大きい家で庭も広くとってある、木造もくぞう二階建ての少し古い邸宅ていたくにあたると御爺様がいっておられました。


 流石さすがに家の中までは視線は追って来ないだろうとタカをくくっていたわけですが、自宅に入っても視線は途切とぎれませんでした。


 門扉もんぴ正面右側についている小門から入り、母屋おもやに入る手前まで視線は続きました。


 流石に車止くるまどめをえて視線は入ってくることはありませんでしたが、気分は非常に悪いとても不快な状態でした。



 自分の部屋に戻り換気のために開けていた窓を全て閉めて、カーテンを引いて視線をさえぎることにしました。


 視線は届きませんでしたが、気分が悪い状態が続いていました。


 お腹は空いているものの、朝食を食べるだけの気力はありませんでした。


 部屋の札を『寝ています』に変えると、少し寝ることにしました。


 いったん着替え寝ることにします。


 寝ても回復することはないと思われました。


 しかし気が少しは晴れるのではという、かすかなのぞみを信じて眠りについたのです。


……


 学校の帰りのイメージでした。


 友達と別れ一人で歩いているところ、そこに視線がやって来たのです。


 おぞましいモノに追いかけられる様な感じです。


 いつもの私なら反撃はんげきの一つもするのでしょうが、そんな気力はありません。


 ソイツからげるのに必死ひっしで、そんなときにかぎって御神刀ごしんとうもありません。


 じゅつを集中するひまもありません。


 ただにげるしかありませんが、そののぞみもたれてしまいました。


 もう逃げられなくなったのです。



 そこは古びた倉庫街そうこがいの行きどまりでした。


 倉庫に逃げようにも厳重げんじゅうかぎ幾重いくえにもかけられており、開けることはかないません。


 助けてくれる誰かも居ません。


 ソイツがせまってきました。


 ソイツの姿すがたを見ようとしますがぼやけてしまって見えないのです。


 ソイツにしかかられ地面におさまれてしまいました。


 何か分からないモノに制服せいふくを引きかれる、イメージがありました。


 それを最後に意識いしき暗転あんてんしました。


……


美空みそら! 美空!」と強く誰かに耳元みみもとさけばれていました。


 御爺様の声だと分かったのは二度目に呼ばれてれてからでした。


「御爺様……」とかすかに声が出ました。


「美空! 大丈夫か!? 綾香あやかさんから様子がおかしい、といわれて飛んできたんじゃが、大丈夫か? 大分だいぶんうなされとった様じゃが?」と御爺様は私の状態を見て心配そうな表情ではっきりとおっしゃいました。


ひど寝汗ねあせではないか、風呂を付けてもらおう。温かい湯にでも入りなさい」とさらに同じ口調と表情で続けて御爺様がおっしゃいました。


「綾香さん、風呂を入れてくれんか。湯舟に湯を張っておいて欲しい」とも御爺様が冷静な表情ではっきりとおっしゃいました。


「ワシは沙羅さらを呼んでくる、アイツの方がこのような状態にくわしいはずじゃ、美空、沙羅に何があったかを話すといい、力になってくれるはずじゃ」と表情口調はそのままで急ぎおっしゃるとぐに御婆様おばあさまを呼びに行かれたのでした。



「こっちじゃ沙羅」と心配そうな表情でしっかりとした口調になって急ぎ足で直ぐに御婆様が呼ばれてから、「ワシは外の空気を吸ってくる」と少し御爺様は心配そうな表情のままはっきりとした口調で、外の空気をいに席をはずされました。



「どうしたんだい美空、何かひどい夢を見たのかい?」と御婆様が穏やかに静かな口調でいいながら起きる気力もない私の寝汗をいてくださいました。


「御婆様、私は……」といいながら夢の一部始終いちぶしじゅうを語りました。


「それは予知夢よちむかも知れないね、いつか起きる可能性のある事象じしょうを先に見てしまう夢のことだよ。こわい思いをしたね、よしよし」と穏やかな表情から少し心配顔になってでも口調は穏やかにひたいに手を置いてくださりました。


「熱は無いから本当に起こることの前触まえぶれかも知れない、他に何か気にかかることはあるかい?」と表情はそのままで静かに聞かれたので、今朝のできごとも語ることにしたのです。



「それは夢で終わらないかも知れないね、何か起きる前に手は打っておきましょう、警察けいさつ領分りょうぶんでは無いから、検非違使けびいしにお願いすることにしましょう」と御婆様はしっかりとした顔になってはっきりとおっしゃいました。



頼王らいおう様それでよろしいですね」と御婆様おばあさまが部屋の外に戻ってきていた、御爺様に聞こえるように少し大きい声でおっしゃいました。


「そうじゃな、我々の仕事と同じじゃ。領分こそ少しちがえど検非違使にたのむのがすじであろう」と御爺様も廊下ろうかがわではっきりとおっしゃったのです。



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