第20話 エピローグ

 一連の事件が収束してから数日後。

 青島探検隊はささやかな祝勝会をひらいていた。

 談話室のソファで向かい合い、テーブルに広げたポテチをつまみにチビチビやっている。

 祝勝会とはいっても、そう喜ばしいものではない。

 寮長の藻江は大量出血のため、ボブの軽トラでデュラハン病院に運ばれた。

 命に別状はないらしいものの、しばらくは入院生活を余儀なくされるという。

 菊代おばさんは逮捕された。

 現在、デュラハン警察で取り調べを受けており、刑務所行きは確実かと思われる。

 いずれにせよ、なんだか悲しいような、心がモヤモヤするような、そんな気がして、太一ら三人は手放しで喜ぶことができなかった。

 だからこうして慎ましく祝勝会をひらいているのだ。


「つーかさ、なんでおまえら始祖の姿を見なかったんだよ」

「だって、それどころじゃなかったでしょ」

「そうですわ。わたくしたちは慌てて石棺に覆いかぶさったのでしてよ」


 現在の話題は始祖についてだ。

 太一もふくめ、メンバーはその姿をチラリとも目にしていない。


「いや、そうじゃなくて、俺がおばさんの生首を持って出ていったあとのことを言ってるんだよ。そんとき、おまえらなにやってたんだよ」

「太一に言われたとおり、藻江先輩を介抱したわよ」

「理奈さんとわたくしで、えっこらよっこら寮長を担いで保健室に運んだのでしてよ」

「ったく、一番の謎が残ったままじゃねーか」


 太一も始祖を目にするどころではなかった。

 菊代おばさんの生首を地獄に叩き落とし、その足で蘭子先生へ報告に向かったのだ。

 その後のことはすべて学園側で始末をつけた。

 そして太一ら三人はこっぴどく怒られた。

 理奈とレイカは一週間の停学処分、太一に関してはそれが一ヶ月だ。

 だからこんな平日の昼間に、授業にも出ないで談話室に集まっている。


「でもさ、蘭子先生とボブが怪しいと踏んでたのに、とんだお門違いだったな」


 地下でなにかよからぬことを企てていると思ったのだ。

 結局のところ、封印場所の定期点検のため、蘭子先生とボブは地下にいたらしい。


「おい青島、いま私の悪口を言ってなかったか」


 そこへタイミングよく蘭子先生が談話室に姿を見せた。

 べつにどうでもいいことだが、彼女の生首は肩のあたりでフワフワと漂っている。


「悪口なんか言ってねーよ。つーか、なにしに来たんだよ」

「貴様、生贄で連れてこられた身分の分際で、やけに態度がでかいではないか」

「俺は世界の平和を守ったんだぞ。少しぐらい調子こいたっていいだろ」

「ふん、今回だけは大目にみてやる」

「で、俺になんか用でもあるのかよ」

「貴様に用などはない。私がここへ来た理由は、これをここに置いておくためだ」


 蘭子先生はそう言って、手にした肖像画を談話室の壁に掲げた。

 それはオデコに絆創膏を貼りつけたマダムだ。

 すごく不機嫌な顔で額縁の中に収まっている。

 理奈とレイカが唖然と言葉を失う中、太一は半ば呆れたように問う。


「おいマダム、なんであんたが生きてんだよ」

「アタシはドライバーをぶっ刺されて気絶してただけだよ。肖像画がそう簡単に死ぬとでも思ったのかい」

「そうかよ、たいそう丈夫な体を持ってなによりなこった。そんなあんたが絆創膏をオデコに貼って、この西棟くんだりまでなにしに来たんだよ」

「アタシはまだ病み上がりだからね。通路は寒いしこっちに引っ越してきたのさ」


 マダムはそう言って、絵の中でパソコンデスクに座った。

 病み上がりのくせにFPSをやっている。


「それとマダムは貴様らの見張りもかねている。もし停学処分中に規則違反でもしてみろ。佐藤理奈とレイカ・シルフォードは退学、青島は死刑だ」


 蘭子先生は腕を組み、太一らメンバーをギロリと睨みつけた。

 研ぎたてのナイフのような目をしているので、どうやら冗談ではないらしい。

 そんなところに――。


「昼の一時四十五分だよー、昼の一時四十五分だよー、昼の一時四十五分だよー」


 生首時計が気まぐれに時刻を告げた。

 ここ最近はカラスのようにうるさい。

 談話室でお菓子などを食べていると、それをくれと言わんばかりに時刻を告げる。


「おいコラ! クソジャリ! さっきからうっせーんだよ! そんな物欲しそうな目で見てもな、ポテチの一枚もやらねーからな! わかったらさっさと引っ込んでろ!」

「――ッ!!」


 太一が怒鳴りつけると文字盤の扉がパタリと閉じた。

 いくら時計とはいえしつけが肝心だ。

 誰かが甘やかすから時計のくせにつけあがる。

 すると――。


 ドゴン!


 蘭子先生のゲンコツが太一の脳天に叩き落とされた。


「いってーな! なにすんだよ! この暴力教師!」

「青島、生首時計に対して口の利き方をわきまえろ」

「なんで時計ごときに俺がへーこらしなきゃいけねーんだ! 神棚なら二礼二拍手一礼して家内安全、交通安全、心身健全を祈願するけどな、あれはただの生首時計じゃねーか!」

「ただの生首時計のわけがあるまい」


 すると蘭子先生は生首時計の前で二礼二拍手一礼。

 まるで神様を崇めるかのように厳粛な振る舞いを見せた。

 そこで理奈とレイカがハッと青ざめる。


「蘭子先生! それってもしかして!」

「もしかしたらもしかするのでして!」

「ふっ、そのとおりだ。でもこのことはくれぐれも内緒だぞ」


 蘭子先生は浮遊する生首だけでこちらに振り返り、イタズラっぽく片目をパチリとつぶった。

 それを受け、理奈とレイカは大慌てで生首時計の前に立つ。

 そして彼女たちも二礼二拍手一礼し、無礼をお許しくださいだの、これからは毎日ポテチをお供えするだの、わけのわからない謝罪の言葉を繰り返している。

 二人はもとからアホだし、それがもっとアホになったのだ。

 と、太一はさして気にもとめず、ジャージの腹ポケットからスマホを取り出した。

 そして理奈のおしっこ動画を再生し、ニタニタ笑いながらプッと屁をこいた。

 何度見てもこれはおもしろい。

 思わず屁が漏れるほどのおもしろさだ。

 すると――。

 いつの間にやらソファの背後に理奈が忍び寄っていた。


「た、太一……その動画は削除したんじゃなかったの……」

「削除するわけねーじゃん。大切なデータだから、隠しファイルに保存しておいたんだよ」

「そ、そういうことだったのね……。か、隠しファイルに保存してたんだ……」

「いつかおまえの結婚式でこれ流したらバカウケじゃね? 俺が友人代表のスピーチでさ、このときのこと面白おかしく話してドッカーンって笑いとってやるぞ」

「そ、その必要はないわ……。どうせあんたはそのころ、とっくに死んでるだろうし……」


 ボキリ、ボキリ、と理奈は拳を鳴らし、ドス黒いオーラを全身にまとった。

 そんな彼女の両目は、LEDのように赤く光っている。


「オーホホホ! 屁っこき虫はやはり屁っこき虫でしてよ! クソ汚い害虫は今すぐ駆除してさしあげますわよ! オーホホホ!」

「なんのことかはわからんが、青島が害虫であることには同意する。どれ、私も手を貸してやろう」


 レイカと蘭子先生もそれに加わり、チームデュラハンが結成。

 壁際に後ずさる太一をジリジリと追い詰め、三方より逃走経路を塞いだ。


「ちょ、ちょっと待て! どうしてここでバッドエンドを迎えなきゃならねーんだよ!」

「あたしにとってはハッピーエンドなのよ」

「右に同じくですわ」

「右に同じく」


 理奈とレイカは生首を分離させ、それを片手でブンブン回しはじめた。

 蘭子先生はなんらかの魔法を発動し、浮遊する生首がバチバチと放電を伴っている。

 そんなチームデュラハンの準備が整ったところで――。


「昼の二時ちょうどだよー、昼の二時ちょうどだよー、昼の二時ちょうどだよー」


 生首時計がピッタリの時刻で殺戮のゴングを打ち鳴らした。


                               (了)

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デュラハン女学園 雪芝 哲 @yukisibatetu

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