森の奥の遺跡

「あそこで脅えずに襲い掛かって来てたらどうするつもりだったんです? 僕もう二発目は撃てませんでしたよ?」

「ああいうのはハッタリでもなんでも、相手の戦意を削げれば価値なんだ」

 騒ぐ鳥地に、アタルカは不遜な態度で返す。


「でもアルバダには気付かれてたんじゃないかなぁ。うちの家ではほぼ間違いなく一番の実力者ですよ」

「いいじゃないか、結果的に引き上げてくれたんだから」

 どうやらアタルカは、鳥地にまともに取り合うつもりは無いらしい。


「ていうか、さっきのあれは何だったんですか!? 大したことないって言ってたのに、めちゃくちゃでかい丸が出来ちゃってますよ!?」

「あれは俺も想定外だった。どうやらお前にはとんでもない魔法の才能が有るらしい」

「体内の魔力かなり持ってかれましたけどね……」

 そう言うや、鳥地は思い出したように、ぐったりとアタルカの方に体を預けた。


「そういう魔法だからな」

「そんな魔法があるんですねぇ」

「今はもうないがな。あれは俺が発掘した太古の魔法だ」

 なんとなく嫌な予感がした鳥地は、それ以上ツッコまずに話題を変えることにした。


「……ところで先生」

「なんだ」

「降りないんですか?」

 二人は、まださっき登った木の上にいた。

 すぐそばに開けた場所が出来てしまったせいもあって、さっきから風がアタルカの長い髪を揺らしている。


「それとも、降りられないとか?」

「……」

「まーじかー」

 沈黙である。


「そんなちょっと馬鹿な猫みたいな……」

「降りるぞ」

「へ?」

「だから降りるぞ。魔力を集中させろ」

 意地になったのか、アタルカは枝の上ですっと立ち上がった。


「一人ならば気にすることは無いが、お前を担いでいたんでな。方法はこれしかないと思い、お前の回復を待っていたのだ」

「へ!? それは、どんな方法で……」

「飛ぶ」

「はいい?」

「大丈夫だ、最後に少し体を浮かせるだけでいい。もうすでに元気いっぱいのようだしな?」


 またしても不敵な笑みである。

 精一杯首を振る鳥地を無視して、アタルカは勢いよく気から飛び降りた。



 ---------------



「でも絶対また追手が来ますよ!? ほんとに引越ししないんですか?」

「だから、そんな短時間で家の本を運びきれるわけが無いだろうと何度も言っているではないか。面倒な逃亡生活をするくらいならお前を使って迎え撃つ。最悪お前を差し出す」

「僕より本が大事なんですか!」

「お前と違ってもう手に入らないような本が多いんだ」

「僕も取り返し付きませんけど!?」

「史料よりは惜しくない。お前は死んでもまた転生しそうな気がするしな」


 適当に口を動かしながら何十分も森の中を進んでいくと、レンガのような形の石を積み上げた建物が目の前に現れた。


「うお、なんですかコレ」

「まあ遺跡だな。先住民の宗教施設跡のようだ」

 似たような遺跡は元の世界にもあったが、鳥地は「異世界っぽい!」とはしゃぎながら、アタルカの肩を降りて自分の足で走り出した。


 石を積み上げて作られた小さな塔を見つめながら、アタルカは懐かしそうな眼をして呟く。


「この遺跡の正体が知りたくて、俺は歴史を研究し始めたんだ」

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