第30話 幼馴染から恋人へ
柚希と屋上で一悶着あった翌日。俺といのりはいつものように揃って登校して教室に入るとそこはなんとも言えない空気が漂っていた。俺達が教室に入ると同時に視線を向けられるが、その視線はありえないものを見たといったものではなく哀れまれている。もしくは、可哀想な人を見るような視線であった。決して浮気していたやつらを見るような侮蔑の視線ではなかった。むしろその逆で浮気された側を見るような視線であった。
「おはよう2人とも」
「おはよう瑠川さん」
「おはよう光莉」
「まぁ、見ての通りだけど朝からずっとこんな感じだよ.......」
そう言って瑠川さんは柚希の方へと視線を向ける。柚希は自分の席に座ったまま頬杖を着いて窓の外をずっと眺めている。 いつもであれば柚希の周りには何人かのクラスカーストにおいて上位の人達が囲っているのだが、今は柚希の周りには誰もいない。まさに、触らぬ神に祟りなしといった感じだ。
「こうやって見ると人間社会の縮図を見ているみたいだな」
「というと?」
「普段はどれだけ仲良く装っていても所詮は上っ面だけの関係だと思ってな。普段はどれだけ媚びていても相手の立場が悪くなった瞬間に離れるなんてまさに今の人間社会だろ?」
「あはは.......本当にその通りなんだけど.......それを夕凪くんが言う?」
俺は瑠川さんの言葉に首を竦めることしかできなかった。柚希をこんな状況に追い込んだのは紛れもなく俺自身だ。別に後悔も同情もしていないが哀れんだりもしない。
それから今日1日はずっと柚希の周りは常に人がおらず、柚希自身もずっと窓から外を眺めていた。あとは、もう下校するだけといったタイミングで柚希が俺の方へと寄ってくる。
「話がある」
「俺にか?」
「あんた以外にいないでしょ? 昨日と同じ場所で待ってるからあんた1人で来なさい」
そう言って柚希は教室から出て行く。昨日と同じ場所というのは学校の屋上のことだろう。
「.......1人で大丈夫なの?」
「まぁ、大丈夫だろ。今更、何かしようだなんて考えていないだろうしな」
「一応だけど気をつけてね?」
「あぁ」
「校門前で待ってるから」
「分かった」
柚希に1人で来いと言われたことが気になったのかいのりが俺に声を掛けて着いて来ようとしてくれるが俺はそれを断って俺は屋上へと向かう。屋上に入るための扉を開くと柚希は屋上に設置されている柵にもたれながら俺を待っていた。
「おまたせ」
「どういうことなの?」
「どういうことって?」
「しらばっくれないで! どうしてあんたが録音したデータを持ってたのかってことよ! 確かに私はあんたが録音アプリのタスクを切ったのも見たし、あんたはスマホを1台しか持っていないのも確認した!」
確かに俺は柚希に録音アプリのタスクを切るところを見せたし俺のポケットには何も入っていなことを確認させた。というか、俺は自分のスマホしか持っていなかったのでスマホを2台持っていたなんてことは無い。なら、どうして録音することができたのか? 答えは簡単だ。録音アプリのタスクを切ったのなら、もう1度録音アプリを起動すればいいだけのことだ。
そんな暇がいつあったのかって? その答えはいのりが屋上に遅れてやって来た時だ。あの時、俺はいのりには屋上に入ってきた時に柚希の目を見続けて欲しいと前もってお願いしていたのだ。柚希としては恐らくいのりにがんを飛ばされていると感じるだろうから負けず嫌いである柚希なら間違いなくいのりから視線を外すことは無い。あとは、いのりにゆっくりと移動してもらえれば録音アプリを起動するくらいなら造作もないことだ。
あとは、その音声データを学校の裏サイトなんかに貼り付けてしまえばおしまいだ。いつの時代にも学校の裏サイトなんかは存在するし、そういったサイトを見ている人の多くは学校内でのカースト上位の者と相場が決まっている。
「.......私があんた達のやろうとしていたことに勘づいていたことをあんたは勘づいていたってわけ?」
「確信はなかったけどな。ただ、俺達のやろうとしたことに勘づくってことは柚希自身もその発想に至ることができたってことだから柚希の性格ならそれを逆手に取ってくることくらいは予想できるからな」
「.......ずいぶんと私のことを知ったような口を聞くのね?」
「そりゃ、仮にも俺は柚希の元彼氏だからな」
「ムカつく.......まさか、あんたこれで勝った気になってるんじゃないでしょうね?」
「それこそまさかだよ。これでやっと俺と柚希の立場が同等になった。柚希を見返していくのはこれからだよ」
そう。今回のこの件では一見すると俺の勝ちのようにも見えるがそれは大きな勘違いだ。柚希はこれでようやく俺と同じ立場に引きずり下ろしたに過ぎない。いのりと俺の最終目標は幸せになることで見返すことだ。上の立場の人間が自分より低い立場の人間に嫉妬や羨望なんてすることは無いのだから、ようやくスタートラインだ。
「ふん。やれるもんならやってみなさい」
「言われなくてもそのつもりだ」
「私にこれだけのことをしておいて優吾くんが黙っていないからね? 覚悟しときなよ蒼空」
「ご丁寧にどうも。けど、こっちとしてもやられっぱななしでは無いことは今回のことで身をもって知って貰えただろ?」
「たまたま上手くいったくらいで調子に乗ってんじゃないわよ! 覚えてなさい! 絶対にあんたを.......あんたとあの女を絶望させてあげるから!」
そう言って柚希は俺の横を通り過ぎて屋上から出ていく。優吾くんか.......。あの男との再会ももうすぐなのかもしれないな.......。そんなことを考えながらも俺は屋上を出て下校すべく校門の方へと向かっていく。
「蒼空!」
「おまたせ」
「ううん。それよりも大丈夫だった?」
「大丈夫だよ。ただ少し話していただけだ」
「そっか.......。うん! それなら良かった!」
「さっさと帰るとするか」
「うん!」
そう言っていのりは俺の手を取って歩き出す.......ん? なんか、すごいナチュラルに手を取られたような.......
「.......いのりさん?」
「別にいいでしょ? 私達はもうとっくに幼馴染じゃなくて恋人同士なんだからさ!」
そう言っていのりは少し照れくさそうにはにかみながら俺の方を見つめてくる。そうだよな.......なんだかんだいのりと付き合い初めて1ヶ月は経過しているんだよな.......。確かにもう幼馴染とは言ってられないな。だから俺は、幼馴染ではなく俺の恋人と幸せになるために俺は俺にやれることをしよう。俺はいのりの照れ笑いを見てそう固く決意したのだった。
【あとがき】
これにて本編には一区切り!!
これからは、アフターストーリーのような形で柚希とその彼氏である優吾と主人公達のお話を書かせて頂きたいと思っております! 長くなりそうなら最終章といった形になるかもですけど.......。
アフターストーリーなんかじゃなくてちゃんと最終章として書いてくれ! もしくは、そんなものいらねぇよ! もうこれで終われや! などの意見があれば感想などで気軽に教えていただけるとそれを参考にさせてもらいますのでよろしくお願いします!
長文でのあとがき失礼しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます