第11話
女性の名前は工藤紗季(くどうさき)さん。俺の一個上で高校3年の17歳。俺も工藤さんに自己紹介をした。タクヤ君、と工藤さんが俺の名前を言った。そして自分の事は紗季と呼んでと言った。
「本当に大丈夫? だいぶ疲れているみたいだけど」
紗季さんが心配そうにして言った。確かに俺はかなりズタボロだ。
「正直、かなり危なかったです。体力もそうだけど、生きる気力が無くなってて。ちょっといろいろあったんです。でも、紗季さんに声をかけてもらって持ち直しました。本当にありがとうございます」
俺は頭を下げて言った。
「タクヤ君に会えて良かった。本当、この世界で生きるのは大変だよね……」
「あの、他に転生した人に会った事はないんですか?」
俺は訊いた。
「うん、無い。タクヤ君が初めて。私はこの世界に来て日が浅いから、探せば他にもいるのかもしれないけど。タクヤ君も私が初めてなんだよね? 転生した人に出会ったのは」
「そうです。だけどよくぞ気づいてくださいましたね……」
感謝してもしきれない。
「最初はね、麻薬かシンナー中毒の人かと思った。タクヤ君ぐったりしてたし、この街にはそういう若者が結構多いから」
紗季さんが困った顔で言った。俺は力無く笑う。今の俺には麻薬を買う金も無い。
「それと、スラムの人は身長があまり高くないでしょ? でもタクヤ君はかなり背が高いから、気になって近づいてみたの。そしたら肌が凄い綺麗だった。手のひらも荒れてない。それで、もしかしたらって思ったの」
「手のひら、ですか?」
「うん。スラムの人はほとんど肉体労働だから、手が荒れてる人が多いんだよ。私もね、ここに来たときにみんなに言われたの。手が綺麗だねって」
「なるほど……」
俺は自分の手のひらを見つめた。確かに。働いてない手だよな、これは。
紗季さんがなにか、じっと考えるようにしている。
「……まずは私の死因から話そうかな。そこから話す感じでいい?」
紗季さんが微笑んで言った。
「あ! お願いします」
俺は言った。
「うん。私は……。私は自殺をしました。失恋をして、衝動的に首吊り自殺をした」
少しうつむき加減で紗季さんが言った。
「え……」
「タクヤ君は? 死因を教えてください」
動揺している俺をスルーして、紗季さんが言った。
「あ、えーと。俺は風呂に入ってる時に寝てしまって、溺死しました。部活で疲れていたのでいつのまにか寝てて……溺れたみたいです」
少しの沈黙のあと、紗季さんがブッと吹き出して笑った。俺も普通に笑う。
「ごめんね。申し訳ない、つい」
「いえ。我ながらマヌケな死に方だと思います」
俺がそう言って2人でまた笑った。一瞬、こんなに笑えるなら溺死も悪くないかも、とか思ってしまった。
「でもまいったよね。まさか死んだ後に、転生という選択肢があるとは思わなかった」
紗季さんが言った。
「ですよね……」
「私は自殺をしたわけだから、これは何かの罰かも、って思った」
……何も言えない。
「そうだ、生涯獲得ポイントってありましたよね? 紗季さんはどうでしたか?」
「ああ、私の場合は……」
紗季さんが自分のポイントについて話してくれた。
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