29話 都立天ノ宮教育学校 5
緋莉と茶眩の入学許可を友利から貰ってから2日が経った。その理由というものは村長であるヤマトさんから聞いたある知らせのためである。ヤマトさん曰く
「言い忘れてたけど、天ノ宮は寮だからその準備もしておいてね。」
だそうだ。これを言われたのが昨日。大急ぎで街、こと天ノ宮へ馬車で向かい買い物をしたのだ。
そして今日、ついに2人は天ノ宮へと正式に入学(この場合だと編入だろうか)することになる。
「忘れ物は無い?」
この家とは2人は暫くお別れとなるので、普段よりも細かく忘れ物の確認をする。
「ありません。」
「私もありません。」
2人からそう返事が返ってくる。それなら大丈夫そうだ。万が一忘れ物をしても天ノ宮で買い物ができるから大丈夫だろう。
「それじゃあ、出発しようか」
僕はそう言って家から1歩出る。それに続き繭、茶眩、緋莉の順番で家を出た。 緋莉と茶眩は僕達の家に向き合い、一礼し
「今まで、ありがとう」
と言った。その頬には太陽光を反射してキラリと輝く涙が流れていた。
「もしかして泣いてる?」
僕がからかうようにそういうと、
「泣いてません!」
と2人同時に返される。そして顔を合わせて笑った。
そして無言で歩き出す。
馬車に乗ってからも無言の時間は続く。聞こえるのは馬の息遣い、優しく吹く風の音、揺れる木の葉の音だけだ。2人は緊張しているのかピシッと背をのばして座っている。
馬車はゆっくりと目的地へ進んでいく。それにつれてこれで2人とはお別れだという気持ちも強くなってくる。少し泣きそうになる気持ちを抑えながら真っ直ぐ前を見ながら馬車の揺れを感じていた。
ついに馬車は天ノ宮へ着いてしまった。馬車を降り、4人で歩き出す。ゆっくりと、ゆっくりと歩いて僕達は学校へ向かう。何度か歩いた事がある道も初めて歩くような感覚がした。そして、学校が近付くにつれてその歩みは更にゆっくりに変わっていった。
遂に学校に着いてしまう。入口では僕達を待っていたのか校長が出迎えてくれた。
「それでは茶眩さん、緋莉さん寮に案内します。」
校長にそう言われた2人は僕たちに背を向け歩き出す。そして何歩か歩いた後、僕たちの方をもう一度向き、話し始めた。
「雷さん、繭さん、今までありがとうございました。色々な所に連れて行ってくれてありがとうございます。色んな事を一緒にしてくれてありがとうございます。」
2人は感謝の言葉を述べる。そんな言葉の数々に僕は我慢していた涙が溢れてくるのを感じた。
「雷お兄ちゃん泣いてる。」
「そういう茶眩だって泣いてる。」
「そうですね。」
茶眩も緋莉も泣いていた。我慢しきれなかったのだろう。そんな2人を僕は抱きしめる。
「いつでも戻ってきて良いからね、僕たちの家に。」
「はいっ!」
そうして僕達は泣き止むまで抱きしめ合った。
#
あれから泣き止んだ2人は校長に連れていかれた。そんな2人を見送り、見えなくなった所でいきなり繭が抱きついてくる。
「寂しいよ……。」
2人の前では泣くのを我慢していたのだろう。だから僕は優しく繭の頭を撫でる。
泣き止んだ繭と2人で並んで天ノ宮を歩く。目的がある訳ではないけれど。
しっかりと繋がれた手を離さないようにゆっくりと歩く。日が沈むまで、ずっと。
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