45
その頃、謁見の間ではゲランともう一人の魔族が話をしていた。
「ゲラン、外の連中もほぼ殺したぜ」
「ゴラン、逃げたゴミはいるか?」
「そこまでわからんよ」
「ちっ、使えん奴だな。もし逃げたゴミのなかから勇者ってのが生まれたら貴様の所為だからな」
「ふん。もし、そんなのが現れてもわしが一捻りで殺してやる。」
「そういう問題じゃないんだよ。やはり、魔王様に私のように頭が回るやつを配下にした方が良いと進言するか」
「いけすかない野郎だな。ここで、どちらが上かはっきりさせた方が良いらしいな」
「くふふふ、角の長い俺が強いし上に決まってるだろうが」
「違うな。ここではお前らは汚物以下だ」
「⁉︎」
突然、近くで誰かの声が聞こえる。しかし、魔族の二人は声の主を見つけることができなかった。
「ど、どこにいる?」
ゴランは必死に辺りを見回す。とっくに自分が攻撃されている事に気づかず。
しかも間近にいる一人の少年によって。
◇
俺はへし折ったゴランという魔族の角を本人の前に見せる。ゴランは最初はよく理解していないようだった。
だが、だんだんと痛みを感じ、更には俺が持っている角が自分のものだと理解すると絶叫をあげた。
「ぐわわああかああぁあぁぁーーーーー‼︎」
「……うるさい」
俺はゴランのみぞおちに一撃入れる。ゴランの身体は一瞬浮いた後、顔面から床に落ち血溜まりの中で土下座をするような格好になった。
「今更謝ってもな……。ああ、この汚い角は返すぞ」
俺は持っていた角をゴランの後頭部に根元まで深く突き刺す。ゴランは一瞬痙攣した後、二度と動かなくなった。
思わず自分の手を見つめてしまった。
「ここまで強くなるのか……。大軍を連れて攻めてくるわけだな」
俺は納得しながら頷いていると、やっと状況が飲み込めた様子のゲランが俺に杖を構えた。
「ガキが舐めた真似を! 今度は確実に当て殺す! 暗黒領域より我に黒き炎の力を与えたまえ……ダークファイア・ボム!」
ゲランの杖から黒い炎の塊が飛んでくる。しかし、今の俺にはあくびが出るくらいの遅さだった。
なので、俺はその攻撃が届く前に宝具のある場所に移動する。もちろん武器として使う為だ。
使えるのか?
そんな事を思いながら宝具を見ていると、やっと俺が今さっきいた場所に攻撃が当たる。
「やはりたいしたことなかった。燃え尽きてカスすらも出んとは。ぐふふふッ!」
爆発した跡を見たゲランはそう言って笑い出す。どうやら俺が消し飛んだと思っているらしい。それを見て複雑な気持ちになってしまう。
こんな奴に皆が殺されたのかと思ってしまったからだ。しかし、すぐに思い出す。
そうだった。俺が強くなったんだ。
ゲランの背中を見ながら溜め息を吐くと宝具を掴む。
「さっさとあいつをやりたいから力を貸せ」
すると宝具が突然光り輝く。そして宝具の使い方が頭の中に流れこんできたのだ。
なるほど。好きな形にできるのか。
俺はオルフェリア王国の騎士が着るフルプレートと大剣を想像する。すると宝具は求められた通りの形になっていく。
そして完成すると光が消え、俺の姿は大剣を持ったフルプレート姿になった。まあ、見た目は完全に子供がフルプレートを着ているなんとも頼りないものだが。
だが、はっきりと俺にはわかるのだ。この宝具が凄いことを。俺は大剣にちょっと力を入れて振り回す。斬撃が生まれ周りの壁や床に深い傷ができてしまった。
何となくこいつらの使い方はわかるが……。やはり数をこなさないと駄目か。
大剣を見つめそう思っていると誰かの視線を感じた。だから、振り返ったのだが、そこにはなぜか身体中を大火傷したゲランが立っていたのだ。
俺は思わず首を傾げてしまう。
「……お前、何で火傷しているんだ?」
するとゲランは怒り狂ったように俺を何度も指差してくる。
「お、お前が放った光りの力の所為だろうが!」
「ああ。先ほどのあれにはそんな力もあるのか……。良い勉強になった。まあ、お前には礼は言わないが」
俺はそう言って宝具を見つめ直しているとゲランが歯軋りして睨んできた。
「ギギギッ。じ、実験だと……。ふざけるな! 俺様は上位魔族ゲランだぞ!」
「上位魔族でその程度なのか。正直、ゴブリンの方が強いんじゃないのか?」
「ご、ご、ゴブリンだとおお! あんな下等なものと一緒にするなああぁ‼︎」
ゲランは杖をこちらに向け口を開く。魔法を唱えようとしたのだろう。だが、その前に俺は斬撃を飛ばし杖を持ったゲランの腕を肩から斬り飛ばした。
「ぐぎゃああ! 腕がががああああーーー!」
ゲランは絶叫して騒ぐ。その姿を見た俺は眉間に皺をよせた。
「その程度の痛みで騒ぐなよ。アレスはもっと痛かったんだぞ……」
俺は更に斬撃を飛ばしもう片方の腕も切り飛ばす。
「ぎゃあああぁぁあーーー‼︎」
ゲランはまた叫ぶため、俺は目の前の遺体を見ながら口を開いた。
「ぎゃあぎゃあうるさい。父上達の痛みに比べればたいしたことないだろうが」
俺はそう言ってゲランの方に歩いていく。するとゲランは涙を流しながら俺を睨んできた。
「ゆ、許さなんぞお……ぎ、ぎざまあ……」
「何を許さないんだ? 教えてくれよ」
そう言いながら俺はゲランの片足を斬り落とす。
「ひぎぎいいいぃーーー‼︎」
「なんだ、魔族の鳴き方を教えてくれるのか。だが、こんな気持ち悪い鳴き方はオルフェリア王国の皆には聞かせられないな」
俺はゲランのもう片方の足に剣先を向ける。途端にゲランは恐慌の表情を浮かべ何度も頭を振ってきた。
「ゆ、ゆるじでえ……」
もちろん俺は大剣を振り下ろしゲランを真っ二つにした。そして一息吐くと天井を見上げる。
「理由もわかっている。誰かがやらなければならないのもわかっている。でも、あえて聞きたい。なぜ俺を選んだ?」
すると頭の中に誰かの謝る声が聞こえた。
『ごめんなさい……』
俺は舌打ちしてしまう。謝る相手が違うと思ったからだ。だから怒りを込めて口を開く。
「……俺は納得するまで勇者はやらない。絶対にだ」
そう宣言するように言う。しかし、声はもう聞こえてこなかった。俺は溜め息を吐くと皆の遺体に視線を向ける。
「これじゃあ、誰なのかわからないな……」
そう呟いたが内心はそれで良かったと思ってしまう。でなければ、俺の心が壊れてしまいそうだから。
だが、すぐに口元を歪める。
「いや、もう壊れているのかもな……」
そう呟くと遺体の側にいき祈りを捧げた。涙はもう出てこなかった。それどころか悲しくもなく泣き方も忘れていたのだ。
「やれやれ」
俺は溜め息を吐く。それから城の外に飛び出すと一番高い所に登った。
そして周りを見て盛大に溜め息を吐いたのだ。もう燃え盛る王都オルフェリアには住人が一人もいないのを理解したから。思わず天を仰いでしまう。
「姉上とアリシアに会ったらなんて説明すればいいんだ……」
そう呟いた後、ふと考えてしまう。俺が二人に会いに行って良いのだろうかと。答えはすぐに出てしまった。否だと。
「……俺みたいな誰も助けれなかった奴が二人に会っちゃいけないだろう。いや、きっと二人は会いたくないはずだ。役立たずな俺には……。だから……」
俺は大剣を握りしめる。
「……俺という存在を殺してしまおう」
そう思った直後、アレスの言葉を思い出す。
「確かに理にかなっているな。魔族や魔物とも戦える。それにお前が活躍できるじゃないか。よし決めたよ。俺は冒険者になる。だが、その前に……」
周りを見渡す。そして今だに住人がいないか探し回ってる沢山の魔物を見つけると大剣を構えた。
「最後ぐらいは王族らしい事をやってくるよ。それで、キールという名前の人物は永遠にこの場所で皆と一緒に眠りにつく。そしてアレスという冒険者がここを旅立つんだ。だから、もう少しそっち側で待っててくれ……」
大剣に映るフルプレート姿の自分を見つめる。そしてゆっくり頷くと俺は魔物の元へ向かって行くのだった。
しばらくしてオルフェリア王国全体に沢山の断末魔の叫びが響き渡る。
それから数十日後、他国がオルフェリア王国に起きた事にやっと気づく。しかし兵を送った時は全てが終わっていた。
彼らがきた時にはオルフェリア王国内は住人も魔物もおらず、誰かが建てたらしい簡易の墓が沢山並んでいるだけだったのだ。
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