裏切りと覚悟

38


 結局、悩んでるうちに朝になっていた。俺は仕方なくベッドから出て冒険者ギルドに行く。城に行く前にマルー達に声をかけようとしたのだ。

 だが、既に勇者パーティーとマルー達は城に行ってしまったとのことだった。なので俺も報酬をもらいに城に向かうことにした。

 したのだが、後悔していた。入り口で兵士がある事を言ってきたからだ。


「城に入るためには武器、防具、鞄等は預からせて頂きます」


 俺は悩んでしまう。過去の事を思いだしたから。だが、もたもたして変に勘くぐられるのも嫌なので仕方なく頷く。


「……わかった」


 俺は兵士に言われた物を預けると案内に従い渋々、城内に入った。


 ミスったな。ブレドに言うべきだった。


 俺はあの日を思い出す。アレスが死ぬきっかけを作った場所……謁見の間を。しかし、近くにあった鏡を見て頭を振る。


 もう俺はキリクなんだから、ああはならないだろう。それに……


 俺は首に下げた力のアミュレットを弄る。一応、客人扱いだったから身体検査まではされず、力のアミュレットや隠し持った魔石や薬類までは取られずに済んだのだ。

 ただ、それでも念には念をとの事で応接室に通された後、武器になりそうなものがないかソファに座りながら見回す。だが額縁や花瓶以外、なにもなかった。しかも、何も見つけられないうちにフォウが中に入ってきたのだ。


「いやあ、すみませんねえ。今、先客が来てて対応してるんですよお」


 俺は仕方なく探すことは諦め、フォウに向き直る。


「……勇者パーティーだろう」

「ご存知でしたかあ。なので、少し私と話をして時間を潰しましょう」

「それは構わないが、宰相殿は国王様の側にいなくて良いのか?」

「私の事はフォウと呼んで下さい。ベアードがいますから大丈夫ですよお。それにマルーさん達は流石に冒険者ギルドにはおいておけませんからねえ。だから問題が解決するまでこの城でしっかりと警護をするって話で纏ってますからあ」

「謁見の間での話は形式的なものということか。それなら安心だが闇人の方はどうなっているんだ?」

「いえ、それがさっぱりでしてえ。それでえ、キリクに手伝って欲しいと思っていたところですよお」

「別に良いぞ。どうせ闇人の三人のうち二人は俺を狙ってるだろうからな」


 そう言うとフォウは苦笑する。


「それは厄介なのに狙われてますねえ」

「ああ。だから俺を餌にしてみるのも……」

「なんですか⁉︎」


 俺とフォウは一斉に立ち上がる。突然、城内から強大な魔力を感じたからだ。


「なにが起きている?」


 フォウを見ると驚愕の表情を浮かべてある方向を凝視していた。その方向を見て俺は嫌な予感がしているとフォウが口を開く。


「この魔力の方向は謁見の間ですよお。きっと何かあったに違いません!」


 案の定、予感は当たっていた。俺は扉の方を見ながらフォウに声をかける。


「……俺達も行った方が良いだろう」

「ですねえ」


 俺達は頷くとは応接室を飛び出す。しかし、すぐに立ち止まってしまう。強烈な違和感に襲われたからだ。


「これは……」

「きっと人払いの結界が使われたのですねえ……」


 フォウは人気がなくなってしまった廊下を見る。どうやら、よっぽどの事が起きているらしい。俺は謁見の間がある方を見る。

 間違いなく狙いはマルー。そして襲っているのは闇人、もしくは死霊術師だろう。


「厄介な場所でやってくれたな……」


 俺はそう呟きながら走り出すと並走していたフォウが腰にさしていたミスリル製のナイフを渡してくる。


「武器を持っていないでしょう? 使ってください」

「助かる」


 俺は礼を言いながら更に走る速度を上げる。そして、謁見の間に到着すると扉を勢いよく蹴り上げた。

 そして、中の光景を見て驚いてしまう。なぜなら勇者パーティー、白鷲の翼にブレドとベアード、そしてなぜか敵であるはずの闇人のピエールにワーロイとケイが別々の結界に囲まれ身動きがとれない状態になっていたからだ。

 だが、その中でも一番驚く光景が目に入る。結界に閉じ込められていない連中だ。しかもその中にザンダーがいたのだ。


「……ザンダー」


 ザンダーはいたずらがバレてしまったような表情をする。そんなザンダーを俺は睨んだ。


「なぜ魔族と一緒にいる? それに二人に何をした?」


 俺はザンダーの近くで血まみれになって倒れているシャルルを一瞥する。そして、気を失っているマルーを抱えた長い角持ちの魔族の男を睨むとザンダーは肩をすくめながら俺に言ってきた。


「そりゃあ、俺が魔族と手を組んで魔人であるマルーを狙ってたからだ。それとシャルルなら俺が斬った」


 ザンダーは適当な場所に持っていた剣を投げる。俺はその刃に付着した血を見つめながらザンダーに質問した。


「……シャルルに手紙を送った時からそうなのか?」


 するとザンダーは苦笑しながら頷く。


「ああ、そうだ。だから計画途中で死霊術師に拐われたって聞いた時は焦ったぜ」

「そのマルーを救い出したのはシャルルだぞ」

「けじめだよ……それにお前がもうちょい早く来ていれば……いや、何でもねえ……」


 ザンダーは一瞬、何か葛藤している様子が見えたがすぐにニヤッと笑うと白鷲の翼を見る。


「しっかし、現勇者パーティーってのはたいしたことねえな。あれじゃあ魔王を取り逃すわけだぜ」


 ザンダーに言われ俺は結界内にいる白鷲の翼を見る。すると全身傷だらけのミナスティリアを支えていたブリジットがザンダーを睨んだ。


「ふん、装備を預けてる状態の時のあたいらをいきなり攻撃してくる卑怯者に言われたくないね!」


 ブリジットがそう言うとザンダーは呆れた表情をする。そして溜め息を吐きながら口を開いた。


「おいおい、お前ら勇者パーティーだろ? 装備ぐらいで左右されんなよ……」

「されるに決まってんだろ!」

「何言ってんだよ。勇者アレスのパーティーは装備無しでも魔族の大軍を叩きのめしたって聞いたぜ」

「あの人達は別格だよ! くそ! ファルネリア、早く解けないの⁉︎」

「こんな多重結界、簡単には解けないわよ! もうちょっと待って!」


 ファルネリアはそう言いながら結界を弄り続ける。その姿を見て俺は周りを見回す。結界を張っている人物を探すためだ。

 しかし目視では見つからなかった。


 他に結界を張ってる奴がいるのか? それとも……


 俺は道化師の方を見る。しかし、すぐ違うと判断した。何せ奇声を上げながら結界を叩いたり体当たりしていたからだ。


 演技ではないな。じゃあいったい……


 するとフォウが小声で話しかけてきた。


「今、国王と読唇術で会話をしましたが結界が張られる瞬間に魔族の後ろから力を感じたと言ってましたあ」

「じゃあ、後ろに誰か隠れてるってことか」

「ええ、なのでキリク。時間稼ぎをお願いしますよお。私が探って倒しますからあ」

「わかった」


 俺はフォウを隠すように数歩前に出るとザンダーに声をかけた。


「ザンダー。お前はマルーを使って何をしようとしている?」


 するとザンダーにはマルーを一瞥した後、口角を上げた。


「西側で人造魔王になんだよ」

「西側の人造魔王……。まさか、テドラスのようにか……」

「そうだ。魔人であるマルーなら人族のテドラスより遥かに強大な人造魔王、いや真の魔王になるぜ」

「お前はそれで魔王になったマルーに力をわけてもらうってわけか。だが、今度は魔族や魔物じゃなく俺達と戦うことになるんだぞ」


 そう言うとザンダーは真顔になり俺を見る。


「構わねえ。後ろの方で毎日くだらねえ書き物なんかしてねえで再び血生臭い戦場に出れるんだぜ。しかも、魔王からもらえる力はまた前線に戻れるほど……そこの勝手な行動するイカれた道化野郎なんかと比べ物にならない力だ」


 ザンダーはいまだに結界に体当たりをしている道化師を見る。そんなザンダーに俺は疑問を投げた。


「あいつだって騙されて闇人になった可能性がある。それでも信用するのか?」

「俺は道化野郎と違って別口から話を受けたから大丈夫だ。しかもバクマに話を持っていった奴だぜ」

「バクマ……」


 俺は過去の記憶を辿る。槍術士の加護を持つアダマンタイト級冒険者バクマ。性格はクズだったがその腕は一級品。

 そしてザンダーと同じく東側の前線で活躍をしていたが、ある日、魔王側に寝返り沢山の冒険者達を殺しまくった。その時に付いた名が堕ちし槍使いである。


「奴はそこの道化師と違い闇の力を使いこなしたのか?」

「ああ、完璧にな。きっとあいつは間違えて人族に生まれたんだろうぜ。まあ、それでも俺には勝てなかったがな」


 ザンダーは歯を見せて笑う。俺はその言葉を聞き思いだす。


「オリハルコン級冒険者、鉄腕の英雄ザンダーの前には闇堕ちしたバクマの槍は擦りもしなかった……」


 するとザンダーは驚いた表情をした後、自分の額を打つ。


「おいおい、酒場の詩を知ってんのか⁉︎ 恥ずかしいじゃねえかよ!」


 ザンダーは頭をかきながら照れる。しかし、すぐに溜め息を吐く。


「まあ、その後に調子のって魔王のとこまで攻め込んだらこのザマだよ」

「その魔王の仲間の言葉を聞くのか?」

「あいつは仲間じゃねえよ」


 ザンダーがそう呟いた直後、マルーを抱えていた魔族がザンダーの耳元で囁く。するとザンダーは残念そうな表情で俺を見た。


「悪いな、キリク。こっちの時間稼ぎは終わったみたいだ。そろそろ退散させてもらうぜ」


 そう言った後、ザンダー達の足元から魔法陣が現れた。直後、フォウが動く。


「見つけました! 第五神層領域より我に土の力を与えたまえ……ストーン・ランス!」


 フォウの杖の周りから石の槍が飛び出しザンダーの近くに飛んでいく。そして見えない何かに突き刺さると魔族の男が現れ、仰向けに倒れこんだ。


「よし、やりましたよお! これで結界も消えるはずです」


 フォウの言う通り、徐々に皆の閉じ込められている結界が薄くなっていく。するとザンダーがフォウに向かって笑みを見せた。


「さすがはスノール王国で一番の魔導師様だ。だが、もう遅いぜ。あばよ!」


 ザンダーはまだ解けてない結界の中で暴れている道化師を一瞥すると、マルーを背負った魔族と共に何処かへと転移してしまった。

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