第25話 帝国のドレス

「ルーデンベルド様、手紙が同封されています」


 箱を開けていたカレンが気付き、手渡してくれた。


 ハーラルトさんは離宮にいる人員をきちんと把握していたようで、色々と察したようだ。顔が渋い。

 全部身分だけで降格を決めたハイトブルクのせいだよ。帝国語をある程度理解しているのは下働きの二人の方。


 何も書かれていない封筒だが、魔法紙で作られているので魔力を流せば字が浮き出る。

 差出人は第一皇子フェルディナントヘルになっていた。


 フェルなら気持ち悪くないので手紙を読むことにした。

 そっと差出人を見ていたらしいハーラルトさんが、息を飲んだ気配がする。文字が浮き出たことに驚いた可能性もあるが。


 普通の紙で同封されていたのはドレスと小物類の一覧表兼おすすめの組み合わせなどの解説。

 最後の一枚が魔法紙だった。


 フェルは皇帝が余計なことを言ったせいで私が輿入れしたことをとても気にしていた。

 クルちゃんがデザインしたので気持ち悪くないし、諸悪の根源の支払いにしただけだから受け取って欲しいと書かれていた。

 クルちゃんは皇帝の側妃クルデルヒミース。フェルと血の繋がりはないが、互いに上手くやっている。


 強要されてはいないしされた覚えもないが、必要経費として帝国で全ての費用を持つと書かれていた。

 着る機会があるかはわからないが、これだけあればお茶会やお出かけに気にせず行ける。


『フェルなら気持ち悪くないので、受け取ります』

『第一皇子殿下とは、親しく?』

『それなりに?』


 魔法の国に滞在していた時に遊んでもらったが、頻繁に連絡を取る様な仲ではない。たまには取るとも言う。

 ハーラルトさんが呻いて頭を抱えた。


『まさか、魔法の国がここまでとは……』


 聞こえているよ。


『国としてと言うよりは、個人的にです』

『それはそれで……』


 王女という肩書はあるが、国としての付き合いに私は関わっていない。


 しばらくして持ち直したハーラルトさんは、気分を落ち着かせたいと美味しくなったお茶を味わいだした。

 彼も私に慣れ、図太くなったものだよ。


『ルーデンベルド様、私も帝国のドレスを見てもいいですか?』

『いいよー』


 ローおじさんオーダーは深い青と赤紫のドレス。合わせて用意されたアクセサリー類も素敵だった。

 クルちゃんオーダーはちゃんとバリエーションを増やす形で、深紅、水色、深い緑、白っぽいドレスの四着。


 大量のアクセサリー類で着回しが可能になっている。クルちゃんは私の趣味をよくわかっている。


『落ち着いた色味ですね』

『私の好みをちゃんとわかってくれているからね』


 ハーラルトさんが気遣ってクナシカ語で言って来たので、クナシカ語で返した。以前のアレを誤配送と言ったからね。


『ところでこの深紅のドレスですが』


 次は帝国語とハーラルトさんが言語を変えて来る。


『帝国の赤と呼ばれる一品な気がするのですが』

『そーなの?』


 深紅に浅いスクエアネック。中央は白い生地が使われていて、胸元には繊細なレース。

 深紅部分に黒い糸で刺繍が入れられたドレスは、刺繍は可愛らしいものにしてあり大人過ぎない。


『何故そんなに無関心なのですか。これは凄いことですよ』


 帝国でも皇族と皇族から贈られた人しか身に付けられないほど、希少な深紅の生地のことを帝国の赤というらしい。


『だってこの生地染めてるの、多分魔法の国だよ』

『え゛っ』


 ハーラルトさんが絶句している。


『待って下さい、帝国の側妃殿下が最初に着たと聞いていますが』

『あー、じゃあ確実』


 クルちゃんが魔法の国に来た時にとても気に入っていたので、反物でプレゼントした。

 クルちゃんはセンスがあるので、時々送られて来るデザイン画に沿って作ったドレスを送り返してもいる。

 もちろん中々の金額の支払いをしてくれる上に、デザインの流用も許可してくれている。


『帝国のファッションリーダーとして有名なのですが』

『そーなんだ。クルちゃん、センスいいからね』


『……お知り合いで?』

『友達だね』

『……』


 ハーラルトさんはきっちり全てを見て全てを褒め称えた後、王宮へ戻って行った。

 商人と交渉していたハーラルトさんにとって、とても興味深い品々だったらしい。




「ルーデンベルド様、第一皇子殿下や側妃殿下と親しいのですか?」


 カーマインも気になるようで、他の面々も聞き耳を立てているのがわかるので答えることにする。


「第一皇子はそれ程でもないよ。皇子なら第三皇子と仲良いかな」

「ソウデスカ……」


 お花畑では帝国と強い繋がりを欲している者たちが多いが、それは叶っていない。

 皇帝から贈り物、実質は第一皇子と側妃からだが、そんな人たちから贈り物が届く人はいないらしい。


「凄いことですよ、私たち的には」


 マーガレットの言葉に皆がうんうんと頷いている。


「魔法の国的には、興味無いと思う」


 魔法の国としては帝国も面倒との認識で、可能なら関わりたくない。特に皇帝。主に皇帝。

 次代になれば個人的には多少は交流してもいいかなとは思っているが、国としてはない。


「魔法万能……」

『それ、違うから』


 ヴァルハラの魔法万能説おしについ帝国語で突っ込んでしまった。

 知らない方がいいと思うので言わないが、皇帝の前側妃とローおじさんが結婚している関係で出来た縁だ。


 帝国に残っている第三皇子は皇帝と前側妃との子だが、ローおじさんにとっては自分の息子。

 ドレスのオーダーの時に会いに行ってから、ずっと冷たくされていると嘆く手紙が来ていた。

 ……返事書いてないな。


『アリーナ、勉強の為によく見たらいいよ』

『私も見たいです!』

『皆で見たらいいよ』


 ヴァルハラだけでなく女性陣からの視線を感じて許可したが、男性陣まで熱心に見だした。

 余程お花畑では珍しいらしい。

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