第15話 自由になろうよ
婚約者の侯爵令嬢より、王太子に王宮へ招待されただけの男爵令嬢を優先した訳だけれども、それだって命令。
男爵令嬢とローザリンデが会わないよう配慮しただけで、害をなしたと判断されなんてやってらんないよね。
ハイトブルクの責任なのに、命令した使用人に全て責任を被せている。
せめてローザリンデも止めればいいのに、それもない。
「左遷されていた私たちが急にルーデンベルド様の専属に抜擢されたので、かなり驚きました」
それはそうだろう。
こちらの輿入れ条件として、ハイトブルクは結婚が白紙撤回されることを知らされていない。
有用性を見出されて手を出そうとされたら面倒だから入れた条件だったが、ここまで冷遇されるのは予想外。
他国の王女に自分たちに少なからず恨みを持っていそうな人を宛がう神経もわからない。
結束されたらどうする。子どもだからと舐めているのだろうが。
「ローザリンデ様との鉢合わせは避けたいけれど、差配した殿下の責任だから解雇はできなかったのね」
「はい。ほとんどは紹介状をもらって辞めていきました」
カーマインたちが解雇されその理由を王都で流せば、ハイトブルクの評判は落ちるだろう。
それを予測して慎重に行動した結果がここへの異動なのだろうが。狙いもわかるが駄目だろう。
「あなたは紹介状をもらわなかったの?」
「我々は身分や境遇が男爵令嬢に近しいという理由だけで選ばれたのです。将来有望な方もいましたが、残った我々は王宮勤めになってから短い期間の者ばかりでして……」
技量不足で待遇が良い家に転職が難しいから、せめて給料の良い王宮に残る方を選んだってことね。
生活がかかっているし悪い選択ではないと思う。私のところで少しでも技量を身に付けれられればラッキーというところか。
でもちょっと甘いね。私が解雇と言えば王家はそれに従っただけと言い訳が出来る。
私主導の解雇を狙っていたんだと思うな。ワンチャンただの左遷の可能性もあるが。
「皆さんと今後の相談をしたいわ。一応皆さま、ここ最近の人事を決定した殿下たちにいい感情を持っていないということでよろしいかしら」
「そうですね」
「料理人と庭師は後で別に呼んでもらえますか」
「かしこまりました」
専属使用人と下働き、護衛が全員揃った。ご機嫌損ねが来たため、今日は護衛も全員離宮へ来ている。
カーマインが改めて詳しい紹介をしてくれたが、全員下位貴族で貧乏。
伯爵家出身なのはカーマインだけで、他は子爵と男爵。
知ってたけど。権力争いにも誘われていないと知っていたけれども。
アリーナとマーガレットに至っては、こちらに来る際にハイトブルクに侍女から下働きに降格されていた。
話を聞く限り運がなかった。でもだからこそ三か月間彼らを観察し、私の味方になり得ると判断した。
改めて私への扱いも酷いし、もうアウグスティンがそのまま王でいる方がいいと思う。
幾ら優秀な人を傍に仕えさせても、最終決定権がハイトブルクのままなら泥船だろう。
さて。これからの自分の行動を考えれば、彼らから積極的な協力を得られた方が楽。
その為には彼らにも対価も必要だと私は考える。
「男性陣以外はわたくしに充てられている予算から給料が出ているので、昇給は難しいと最初に伝えておきます」
側妃の予算は正妃より少ない額で上限が固定されている。
予算以上の使用人を雇う場合は実家から派遣してもらうか、夫に貢いでもらうしかない。
生活に直結する給与の話だが、全員表情に変化なし。元から理解していたのだと思う。
「ではこれらのことを相談したいと思うのですが、人に話してしまいそうな人はいますか?」
護衛のカスパルがビシッと手を挙げた。それはそれでどうかと思うが、素直でよろしい。
カスパルはその性質がそのまま顔に出ている様な感じで、裏表のない人の好さそうな顔をしている。
「では全員わたくしと魔法契約を結びましょう」
「それは、どういう?」
カーマインが警戒してくるが、魅了魔法を知っていれば仕方がないこと。未知のものは恐ろしい。
「わたくしや離宮での出来事に関する話が、当たり障りのないこと以外は話せなくなります。言葉に詰まる、という表現が正しいでしょうか。体に害などはありません」
「それをどうやって証明しますか?」
魔法を知らない人に幾ら説明しても証明は不可能。
「魔法に無知なあなたがたに、不利益がないと証明する方法はありません。わたくしを信じろ、としか言えませんね。結びたくない方は元の職場に戻れるよう陛下に交渉します」
「……」
カーマイン以外とは目が合わない。お花畑流処世術。
「考える時間も必要でしょう。明日の朝、結んでもいいと思う人は居間に集まって下さい。そうでない方はお休みにしてもらって構いません。結ばないのに話を聞くのは認めません」
「……かしこまりました」
カーマインが全員の顔を見てから返事をした。
「それから、明日来ない人も今の話を他ではしないで下さい。厄介ごとに巻き込まれますよ」
仲間意識は強そうなので大丈夫だと思うが、厄介ごとに巻き込むぞと脅しておけばより口も堅くなるだろう。
全員解散の雰囲気だったが、カーマインだけが残った。
「一つだけよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「何故、急に変わろうとされているのですか」
「一応この国に気を遣っていたのですが、扱いから考えてもういいかなと思いまして」
「……」
明日は私の勉強は休みの日なので、丁度いい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます